幸せのしずく
肌寒さに目を覚まして部屋を見回すとまだ暗く、時刻は午前4時を少し回った頃。
外は朝には程遠く、濃霧の中から木々たちが所々で顔を出してこの時期ならではのなんとも不思議な景色が広がっている。
一度気づくと寒気はひどくなる一方で、ベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられた衣服を拾って羽織った。
彼の香りが少しだけするシャツ。
視線をずらしていまだ眠るその彼を見た。
普段射すような視線を向ける瞳は閉じられ、いっそ幼いほどの寝顔を晒している。
大きくなって今では石化してしまった胸の梵字と、異常なまでの回復力のおかげで僕より傷痕のない肌。ただ、今ではまだ治らない生傷も目につくけれど…それから、羨ましい程の艶と石鹸で無造作に洗うだけなのに痛みのない黒髪。
どれもこれも半年ぶり。
それと言うのも、戦争も終わりやっと思う存分二人で過ごせると思っていた矢先の軍からのお呼びだしだった。
エクソシストも科学者も関係なく徴兵され、人知れず世界救済を成し遂げた僕らは、今度は人間同士の戦争に駆り出された(…と言っても、女だとバレた僕は連れていってもらえなかったけれど)。
おかげで教団はがらんとし、少ないはずだった女性が目立っていた。
その戦争も、みんなが徴兵されて半年ほどの昨日終結し、ちらほら元団員たちも帰還してきていた。
そのなかに彼も混ざっていたようで、教団の団服にかえ、勲章を人一倍多く付けた軍服を着て、無事に帰還した。
その時ちょうど食堂でリナリーと食事をしていたのだけれど、それも忘れて入り口付近で敬礼しながら立っている彼に飛び付いた。
連絡手段がないからみんなの帰還だけが生死の確認をできる唯一の手段。そんな様子は見せてないけれど(つもり)、やっぱり内心帰ってくるまで不安だった。
恥ずかしいことに、彼がでかい声で「モヤシ!」なんて言いながら敬礼して笑顔で立っていた時は涙が流れたくらい。
それから半年ぶりの再会の喜びを噛みしめ、ぶつけるように体を重ねたのが昨夜だった。
寒さを理由にすりよった神田の胸には、嬉しいはずなのに涙が落ちて、上から言葉がふってくる。
「……泣くなよ。帰ってきたんだ、もうどこにも行かねー」
「…わかって、ますよっ。でも。なんでかな。止まんないんです…。……ねぇ、抱き締めて?僕を、キミでいっぱいにしてっ」
「はっ、半年会わねーうちにそんな口説き文句まで覚えやがって」
「キミだけですっ。…神田だけ」
「……チッ。わかったから、もう泣くな」
寝起きで少し掠れた声で言って乱暴に、でも優しく涙をすくうと、きついくらい抱き締めてくれた。そんな強引な優しさが懐かしくてまた一筋しずくが流れた。
― ずっとそばに。離れないで。 ―
「ところで、…なんかあたってるんですが…?」
「……男の生理現象だ、どーにもできない。てことで、…ヤるぞ」
「はぁ!?あんっっなにいい雰囲気だったのにっ!?昨日あんっっなにシたのに!?」
「仕方ねーだろっ!半年ぶりに好きな女前にして欲情しねー男なんかどこにいんだよ!?」
「〜〜っ//もう、勝手にしてくださいっ!」
「上等だ。勝手にヤってやる!」
「はっ!?ちょ、んんっ///!?」
END
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