ある旅路で
金の髪を頭上で結んで、重くて邪魔そうなスカートを持ち上げて走る女。
湖のような池のような、とにかく水の上を戯れるように走っていく。
周りに咲く見覚えのある花。あれは、…蓮だ。蓮が水中から顔を出して咲いては、枯れずに光を放ちながら消えていく。
走るのをやめた女がそのうちの二つを手に乗せた。しばらくすると一つが光を放ち、霧散した。悲しげに、消えた蓮を見やる女の表情が胸を締め付ける。
こっちが一歩近寄れば、これ以上寄るなと言うかのように、女は一歩後ずさる。
『あなたはまだ咲けるもの。まだ来ちゃダメよ』
『そうだよ、ユウ!今はまだあの子を置いてきちゃダメ』
「お前、アル―――」
『『またね』』
女へと伸ばした手は女ではなく、モヤシにとられていた。
夢を見たのはいつぶりか。
アルマにこんなに早く再会するとは思わなかったが。
あいつらは大切だ。でも、今は…
「神田、大丈夫ですか?」
今にも泣きそうに言ってくるこいつが、俺の居場所。俺の帰るべき“ホーム”。
「大丈夫だ。なんでもねぇ」
そうだ。俺の“次の”生きる目的はこのモヤシの隣にいることだ。
「ふっ…なに泣きそうなツラしてんだ」
「だって、うわっ」
「…アルマに、まだ来るなって言われた」
「っ、ァルマ…」
「俺は俺のしたいように生きる。だから、お前が14番目でもエクソシストでも、今はお前のトナリにいる」
俺の手を握るモヤシの手を逆に捕まえて、もう一度隣のベッドから引き入れる。抱き締めてやれば胸の上で「ありがとう」と言って泣いた。胸を滑る涙がくすぐったい。ほんとによく泣くモヤシだ。
「チッ。お前はほんっとに泣き虫モヤシだな」
「ぅ、ぅうるさいですよっ!変態蕎麦男の神田には言われたくないですっ」
「はっ、言ったなモヤシ。俺の下でせいぜい啼くがいい!」
「はぁっ!? わっ、ぅひゃっ、ゃめっ」
売り言葉に買い言葉。売られた喧嘩は買うのが俺だ。滅多にない休暇、もう少しモヤシを食しておこうと思う。
(ほんとにばあちゃんち帰ろうかな…)
END
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