かわい子ちゃんの味方だぜ



凄まじい殺気とともに後ろに立つ男。


「白夜叉ともあろう者が後ろを取られるとは…

銀時てめぇ弱くなったか!?」


「高杉…なんでてめーがここにいんだ」


「いいからみてろ。
覚えてるか銀時、おれが昔率いていた鬼兵隊…

そこに三郎って男がいてな」


三郎、

その言葉で高杉が語るより早く頭の中のピースが繋がっていく。


「機械にめっぽう強くてな…

俺は戦しにきたんじゃねえ親子喧嘩しにきたんだっつって、
いつも親父の話ばかりしてるおかしな奴だったよ」


だがそんな彼も父親の元へ帰る事もなく死んでしまった。


「ヒデェはなしだぜ、俺たちは国を守ろうと必死にたたかってたってのに

当の幕府は天人におそれをなして迎合、俺たち侍の方をあっさり捨てやがった」



人ごみの中で高杉の声だけがはっきりと聞こえる。

その低く冷静で、しかし呻くような声色はまるで銀時の事を責めているようにも聞こえた。


「銀時、お前にわかるか?

河原にさらされた息子の首見たあのジイさんの憎しみ、
俺のなかでのたうち回る黒い獣

死んでいった仲間の苦しいうめき声がよォ…」


わかるか?

わかるわけねぇよな、全部忘れてへらへらのうのうと生きてるお前には!


込められた憎しみが背中に突き刺さる。

突きつけられた刀の存在を感じながら、花火がひろがる空を見上げた。



「高杉、お前は変わってねぇんだな。」


あの日から、俺たちはびりびりに引き裂かれた細い紙切れだ。


傷口を合わせれば形こそ元に戻るが、その痛む切れ目がつながることは決してない。


「一度破れた紙が元に戻ることなんてねぇ。

わからねぇよお前の中2くせぇ呻きだのなんだのなんて…
俺たちはあの時おわったんだ。

わかってねぇのはお前だよ高杉」

「銀時てめェ…

いけしゃあしゃあと……!!!」



高杉の声に殺気が滲んだ、その時。


「びりびり破れた紙なら加恋がセロテープでくっつけておくよ、だから仲良くしてね?
お兄さんたち」


チャキン、と鞘と剣の音がした。
俺は思わず振り返る。

そこには目を見開いた高杉と、そのさらに向こうで高杉の背に刀をわずかに引き抜いた鞘を突きつける少女がいた。


「おい何者だ、てめェ」


高杉が低く唸る。

そこに立つのは明るい微笑み顔のいつもの加恋なのに、いつもの声なのに、刀があまりに不恰好で。

それが彼女の声に謎のすごみを持たせる。


「仲良くしてくれないと、加恋はおまわりさんにならなきゃいけないの」


加恋が綺麗な目を細める。


「でも、私はこんなところでお仕事したくはないの」


その瞳が高杉ではなく俺に向けられてることに気づいた瞬間、おれははたと我にかえった。


加恋の望むことが、わかったのだ。


「おい高杉、見くびってもらっちゃ困るぜ」


口元に自然とできる笑みを浮かべながら、自分に突きつけられた刃を思い切り握った。

手のひらから鮮血があふれでる。
奴の刀は一ミリも動かないはずだ。


「獣くらい俺だって飼ってる。ただし黒くねぇ、白いんだ」


花火が次々打ち上げられ、あたりがひときわ明るい光で包まれた。


「え?名前何かって?」


思いっきり振り返る。


虚をつかれた高杉と、後ろで
そうよ!
と言わんばかりににこにこしながら無言で何度も頷く加恋を見て、俺は満足して拳を振り上げた。


「定春ってんだ!」

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