怖くないよ



「加恋ちゃんはさ、討ち入りとか怖くないの?」

夢中で団子を頬張る加恋ちゃんに尋ねてみる。

何気ないそぶりで。でも内心はちょっと緊張してた、のかもしれない。
この少女は一体、こんな浮世離れした質問になんと答えるのだろうか…?


「…ふふ」

加恋は静かに笑った。

俺の心臓が、ドッと跳ねる。それはある種、き恐怖にも似ていた。

彼女はごっくんと満面の笑みで団子を飲み込むと、空を仰ぐ。

そうしてゆっくり、ゆっくり、目を開く。

その少女は、言い放つのだ。



「隊長がいるから、怖くない」

なぜか町の喧騒がぱたりと止み、加恋ちゃんの声は不思議とはっきり響き渡った。

息を呑む。
少女というにはあまりにも逞しいたたずまいだった。

袴に凛と携えた刀をじっと見つめた。
一体どれ程の血を吸ったのだろう、鞘がてらりと黒光りする。

怖くないと、確かにこの娘は言った。

何に対してかはわからない。

戦場に身を落とし、非道な道を歩くことも。
その刃で尊い命を奪われることも、―――奪うこと、も?

怖くない。沖田がいるから、怖くはない。
彼女の言い分は、それだけだった。

加恋ちゃん、君にとっての沖田隊長って一体……

喉元まで出かかった問いは、ごくりと飲み込む。


「…そっか。強いんだね、加恋ちゃんは」


そーお?アリガト、とどこか照れたように返事をされた。無邪気な笑顔を眺める。

あまり言いたくないけど、彼女の仕事はつまりは人斬りだ。

こんなにまっさらなのに。
こんなにまっすぐなのに。

何があったのかは知らない。どんな過去があって、なぜ真選組に入ったのか?

知らないないけど、彼女はその昔に、覚悟したのだ。


「わたし、怖くないの…」


なぜかもう一度繰り返された抑揚のない呟きに、ふとその顔を覗き込む。

その瞳の中に不思議な深さがあったのは気のせいだろうか。


「それにね、みんなとおーっても強いから、加恋のこと守ってくれるんだよ」

にこり、とした笑みに戻って俺に顔を向ける加恋ちゃん。その笑顔の裏にどんな顔があるのか……

はたまた、裏もなにもないのか。

俺が知る由は、ない。

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