報告します



「たーいちょっ」

緩む口元を押さえきれずその体に飛び込む。

顔をしかめながらも振り払われはしなくて、私はザキに背を向けたままぎゅーっと抱きつく。

「沖田さん、お疲れ様です。そしてその名前おれ完全に死んでます。」

「こんなもんでいーだろィジミハゲくそ地味野郎には。
人の女自室に連れ込むたァいい度胸してんじゃねーか」

「ちょっと待って、色々あるけどちょっと待ってとりあえず何気に地味ってワード二回入ってる件にツッコませて」

あと、勝手に入ってきたのおたくの彼女ですから!と声を荒げるザキの叫びが聞こえて、私は顔を向ける。

「そーなのかィ加恋」
「入ったのは加恋だけど最初に誘惑したのはザキだよ。ザキが私を誘うような魅力的なことしてたんだよ」

「ちょっと言い方!間違ってはないけど!」

隊長は散らばった資料やリレキショを手に取りながら、無表情に言い放つ。

「まあどのみちお前は死ぬけどな」
「え"っなんで!?」
「いつも言ってんだろーが、自分のペットが格下に勝手に遊ばれてると腹立つんでィ」

ザキは悔しそうな表情を浮かべると、くっと顔をそっぽ向ける。
「クッソこの…普段ぜんっぜん彼女扱いしてないくせに…こんな時ばっかり…てか俺にばっかり…」

隊長の腕に頬を寄せながら、小さくあくびをこぼすと背中をぽんと叩かれた。

「お前もう寝な。1時過ぎてるぞ、明日の仕事に響く」

私は素直にこくんとうなずくと、立ち上がってザキに手を振る。

「じゃあ私寝るね、ザキまたね、明日の潜入捜査、がんばってね」

眠気を抑えられない顔でそれでもにこっと笑ってみせると、ザキは嬉しそうにはにかんで、手を振ってくれた。

「まっ、またね加恋さん…ありがとう、がんばるよ」
「うん!」

さー寝よう寝よう、1日の終わりに隊長に会えるなんて、ほんとラッキー!

部屋を後にしたあと。
廊下の曲がり角に差し掛かったあたりで、なぜか後ろからバキッという殴打音が聞こえた。




次の日目覚めると、空は少し秋の色をした爽やかな青を見せていた。

午前の隊務が終わり、屯所に戻って1人でご飯を食べ終わる。

昼時でガヤガヤしていたが、その中で真ん中に腰を下ろしてちるちると麺をすすってるとその賑やかさが変に耳にひびいた。

「ごちそうさま〜」


膳を戻し食堂を後にしようとした時だった。

入れ違いに入って来た2人に声をかけられる。

「加恋さん」
「え?」

一番隊の人たちだった。
軽く礼をしながら私は怪訝にうかがう。

「沖田さんが呼んでいましたよ」
「隊長が!?!」

「なんでも近藤さんが昨日から姿が見えないとかで…
歌舞伎町の方で捜索にあたってるので、手が空いてるのならでいいそうですが手伝えとの、

…っていない!?」

かぶき町というワードを耳にするやいなや、あとは全部置き去りで私は走り出していた。

隊長が、私を呼んでる!


支度もそこそこに屯所を出て、私はすぐにかぶき町に続く大通りへ入った。

あれ、でもかぶき町のどこにいるのかは聞かなかったな。
五感を研ぎ澄ませて隊長の存在を探そうとした、まさにその時だった。

「あっ」

見目麗しい男が、数十メートル先からこちらを見ている。

「たいちょ〜」

手をぶんぶん振りながらそばまで駆け寄った。

「たいちょっ、ただいま馳せ参じました!」
「おせー、俺が隊士に伝えてから40分は経ってるぞ」

「だって〜食堂で聞いたんだもん」

ごめんね、と手を合わせると「お前もケータイ持ってたらことは簡単なのによォ…」とぼやかれた。

「そいで、近藤さん行方不明ってホントなの?」
「マジでさぁ。まーどうせ志村家あたりに出入りしてんじゃねーかと思うが…」

心当たりをしばらく2人で相談していたが、突然携帯のコール音が鳴り響いた。
隊長がポケットをまさぐる。

「ハイ沖田です…あぁ土方さん。俺ですかぃ、かぶき町の1番街です、加恋と一緒ですよ。
いいえさっぱり…え?工場?」

なんか、昨日聞いたワードが出た気がする。
了解しましたァと電話口で返して通話ボタンを切る隊長を、じっと見守っていると。

「予定変更でさァ、この裏路地から隣町方面へ抜けたとこにある妙ちくりんな工場で、事件アリなので急行せよとのお達しだ」

「妙ちくりんな工場?」

隊長はこくんとうなずく。

「そう、名前はーーー」

眉をひそめながら、隊長は昨日の晩にちらりと見た名前と全く同じの工場を口にするのだった。


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