報告します




「…行ってしまったわね」

加恋が爆走して行ったあとに、砂煙が残っている。
神楽は鼻を鳴らして憤慨したように腕組みをした。

「失礼なやつアル、いきなり押しかけといていきなり消えるなんて」

「なんだか加恋ちゃん、遠慮してるように見えたわね。
今の銀さんが苦手みたいに思えたんだけど」

「…姉上と正反対ですね」

初めて対面した際に誠実銀時にほだされて顔を赤らめていた姉をジトッと見つめる新八に、お妙はくってかかる。

「あら、女なら誰だって今の銀さんの方がステキに思うわよ。
真面目そうできりっとしてて、女性に優しくてサイコーじゃない」

「私は、アイツの気持ちもわからないでもないアルけどな…」

加恋の去って行った方をぼんやり見つめる神楽のつぶやきは風に消える。


「あっ、もしかして加恋さんって実は真面目かつ積極的な人が苦手なんじゃない?

だから沖田さんみたいな、冷酷で非人道的で取り柄といえば顔だけの頭ゆるゆるゴミクズ野郎ともうまく付き合えるのかも」

「新ちゃん沖田さんに何か恨みでもあるの」

でも問題はこれからどうするかですよ、家もこんななっちゃって…

新八の嘆きに、再びの問題にぶつかる面々。

記憶をなくした銀時を前に、彼らはまるで頼りの道しるべを無くしてしまったような感覚に陥っていた。

黙って困惑するみんなだったが、その静かさは次の瞬間銀時の思わぬセリフに打ち破られることになる。


「…もういいですよ、僕のことは」

目をまん丸にして振り向いた一同に、銀時は別世界の人間のように、表情のないまま言い放った。


「万事屋は、ここで解散としましょう」






***********




夜の職務が終わるころには日付が変わっていた。

終兄さんが不在のため、三番隊を預かったので少し気疲れしてるように感じる。

真選組に女は私しかいない。

隊長格の人たちにはしっかり実力を認めてもらっているけれど、平隊士身分の者のなかには理屈抜きの感情論で、私の存在を心から受け入れられてはいない人もいる…と、思う。

それが誰とは言わないし、みな大人なので表にも出さないのでわからないけど、だからこそ慣れない人との任務は特に神経を張り詰めて滞りのないようにしてるのだ。


「お風呂入ってさっぱりしよーっと」

疲労のたまった体をストレッチでほぐしながら廊下を歩いていると、開け放った障子の部屋で何やら物書きをしているザキを見つけた。

「やぁやぁやまざきくん」
「うっわ、びっくりした。やめてよねソレ」

履歴書なんだからミスったら大変なんですよと小言を言われて、私は手元を覗き込んだ。

「りれきしょ?なぁにそれ」
「バイトの面接の時とかに持ってくでしょ。自己紹介する紙だよ」

「ザキ…そっか
今まで楽しかったよ、またどこかで会えたら会おうね」

「辞めねーよ!真選組やめねーよ潜入調査なの!!

つかリアクションが1つ足りないから、まず『真選組やめちゃうの!?』みたいな反応一回挟んで今の俺のセリフでしょ!何アッサリお別れの言葉はなってんの!なに会えたら会おうねとか微妙な挨拶してんの!」

「もし仮に、万がいち、キセキ的な確率でばったり偶然にも会えるようなことが起こり得たら、そとときは声かけてね」

「しかも会う気ねーよこの子、一生すれ違う気がしねーよ」

マムシ工場。
履歴書の隣に積まれた書類にあったそんな文字が目にとまり、私は口を開く。

「なにこれ、工場に潜入するの?」

「ああ、何かと怪しいんだこの工場…表向きは人情深い工場長が経営する製造場のようだけど、不逞浪士たちを集め匿い、幕府転覆を目論んでいるんじゃないかって噂もある」

それはいいけど、と私は顎に手を当ててかがみ込む。

「ザキ…
本名書いてどーするの?危ないよ」
「いや、俺基本このスタイルだから」

信じられない。
攘夷志士の中には、驚くほど隊士たちを徹底的に調べ上げてくるものもたくさんあるんだから!

「ストーカー並みに把握してる人とかいるんだよ、なんかギメイ考えようよ」

「いやいいよ、それは君たちみたいなビジュアルハイレベル隊士に限ったことだから…」

「山崎センちゃんとかどう?」
「センちゃん?って、どう書くんですか」

「潜入捜査の潜ちゃん」
「ひねりがログアウトォォオオ!!」

全力で身バレに向かってるというザキの抗議により、私の案は却下されてしまった。

うーんじゃあね…と口元に指をあてて次の名前を考える。
私は後ろから迫る影に、気づいていなかった。

「山崎・テンゴク・昇る君はどうですかぃ」

気だるげな声がして、私は体を跳ね起こした。


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