報告します
駆けつけた工場の前に、土方さんと合流して間も無くのことだった。
すさまじい爆発音のあと、野次馬集まる敷地の方へ無数の瓦礫が吹き飛んで来た。
「…トシ…」
「はーい危ないから下がって〜この人のようになるよ〜、ポーカーフェイス気取ってるけどものっそい痛いんだよ、恥ずかしいんだよ〜」
頭からこれでもかと言うほど血を流す気の毒なトシを見やる横で、隊長がおちょくるように抑揚のない声でまくしたて、周囲の人々に散るよう促している。
血がダラダラなのに涼しい顔をしているトシは、もうなんだか別の意味で痛い。
「オイなにか言ったか加恋」
「だからね、トシって別の意味でイタい」
「いや正直に二回言わなくていいから、啖呵きっただけだから傷つくからそんなはっきり言われると」
二度目の爆発音がした。
聞いたところによると、やはり昨日のザキがふんでいたようにここでは攘夷活動のための武器が生産されており、その武器とはジャスタウェイなる爆弾だと言う。
おそらく一度目の爆発を皮切りに、爆弾が連鎖しているのだろう。
「エライことになってるな」
「トシもえらいことになってるよ」
「コレひょっとして山崎の野郎死んだんじゃねえか」
「土方さんも死ぬんじゃないですかィ」
ビキっと青筋を立てて、トシがこちらを振り向く。
と、怒鳴りが飛ぶ前に後ろから声がかけられた。
「副長!今新しい情報が入りまして、山崎と一緒に近藤さんも中にいるらしいんです」
「なんだと原田、確かなのか」
原田さんの頷きに、タバコに火をつけながらトシは無表情で唸った。
「オイオイ山崎1人なら見捨てようかと思ってたが、近藤さんがいるならそうもいかねぇな…」
「ねえトシどうしよう、今日こそ刀持って来たと思ったのに縦笛だった、腰に縦笛ささってた、ねー取りに帰ってもいい?」
「土方さーん、俺もカスタネット家に忘れちゃったんで取りに帰ってっていいですか」
「ああ、双方二度と戻ってくるな」
たばこをふかしながら「情けねーもういい、俺がいってくるから」とぼやきながら歩き始めたトシ。
私は隣の隊長の袖を引き、口元に手を当ててたずねてみる。
「ねー、なんでカスタネット?」
「バーカ、お前の縦笛と合奏するため以外に何かあんのかィ?」
「たいちょう…!」
感極まってその体に抱きつくと、ちらっと見えた原田さんの、無我の境地に至ったような悟り顔が見えて首をかしげた。
「あっ、見ろ!あれは…大砲?
大砲だ!!」
隊士の叫びにつられてハッと前を見る。
ゴウン、と音を立てて屋根の中から現れたのはそれは大層な、バカみたいに大きな大砲だった。
まわりの隊士たちもさすがに半歩引いて戦闘態勢をとる。
「あれが、連中が秘密裏に作ってたっつー兵器なのか…!?」
歩き出していたトシだったけど、その規格外の大きさを目にすると立ち止まり、瞬きをする。
「…オイ総悟、おれ分度器忘れたからやっぱちょっと一回家帰るわ」
「大丈夫です土方さん、分度器ならここにあります」
すちゃ、と分度器を構える隊長に、トシは無言で振り返った。
あの分度器ね、絶対私のだよ。
だって裏面にハートのシール貼ってある。
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