19-4

ゼロの乗ったコクピットはコンテナにぶつかり、破損して中身が剥き出しになった状態で地に転がっていた。
軍は総督の守りを優先しているため、気を失っているゼロを捕らえに来る者はいない。
現れたのはシャーリーだけだ。
避難しなければと逃げようとした途中で、ゼロの元にたどり着いた。
偶然だった。

父の葬儀の後、家に訪問してきた軍人から聞かされた情報の真偽を確認する為、どこかに出かけていくルルーシュを追いかけたのが最初だ。
『ルルーシュが黒の騎士団に関与している』──────そんなの嘘だ、と思いながら。
ルルーシュを途中で見失い、何時間もさ迷いながら、そして今。
戦場の喧騒が遠く聞こえる中、シャーリーはルルーシュではなくゼロを見つけた。

「どうして……ここにゼロが……?」

戸惑ったが、父の顔が頭をよぎった瞬間、戸惑いが消え、それよりも強い感情が心を支配する。


「大きくなったらパパのおよめさんになる!」

そんな事を言っていたのを覚えている。
嬉しそうに笑ってくれたお父さんの顔も、ぼんやりとだけど覚えている。
お父さんはいつだって優しくて、いつも笑顔で、怒られたこともぶたれたこともなくて、本当に優しくて。
信じられなかった。軍の人から聞かされて、お父さんが調査していた山まで連れて行ってもらっても、ひどい土砂崩れでぐちゃぐちゃになっているのを見ても、軍の人に案内してもらった先で泣いてる人がたくさんいても、信じたくなかった。
この土砂崩れをゼロが起こしたと、軍の人は言っていた。
どうしてお父さんが。どうして。
悪い事なんてなんにもしていないのに。
どうしてお父さんを。どうして。どうして。
ゼロがいなければお父さんは死ななかった。
お母さんはあんなにも悲しまなかった。
ゼロがいたから!!


足元に銃が落ちていて、それがゼロの物だと気づいた瞬間、シャーリーはそれを拾い上げていた。
父の仇をとらなければ──────そんな思いに突き動かされて。

「私が……っ、私がお父さんの……!!」

がくがくと手が震え、ゼロに向けた銃が揺れている。

「う……っ」

聞こえたうめき声にシャーリーの心臓が大きく跳ねる。

「うう……」

覚醒が近いのか、ゼロがほんのわずかに身動 みじろぎする。
その動きで、ゼロの仮面が外れて落ちた。
素顔の半分は黒い布で隠れていたが、それでもシャーリーはすぐに気づいた。

「ル……ル……?」

頭が真っ白になり、呼吸すらできない。

「そいつがゼロか」

後ろから聞こえた声にギクリとした。
足音が近づき、誰かが来る。シャーリーは振り返って驚いた。
後ろにいたのは情報を教えてくれた軍人だったからだ。
ヴィレッタ・ヌゥと名乗っていたその女は、震えるシャーリーを追い抜いてズカズカと歩んでいく。
ルルーシュの元まで近付き、髪を掴んで持ち上げた。

「これは驚きだな。学生自身がゼロだったとは。しかもブリタニア人。
こいつをコーネリア総督に差し出せば私は貴族になれる。
騎士侯なんかじゃない、本物の貴族にだ」

ヴィレッタは喜びの笑みを浮かべ、呼吸を確かめた。

「まだ生きてるな。
いいぞ。どんな処刑がお似合いかな」

『処刑』その言葉にシャーリーはゾッとした。

ルルが殺される──────!!

シャーリーの頭にはそれしかなかった。
手の震えが握る銃に伝わり、カタカタと揺れる。
ヴィレッタがバッと振り向き、笑みの無い焦燥の顔で何かを言ってきた。
銃を奪うつもりなのか駆け寄ろうとして、シャーリーはギュッとまぶたを閉じる。
まるで自分の一部のように、銃が手から離れなかった。

聞こえたのは銃声。
そして、誰かが倒れる音。
恐る恐るまぶたを開いたシャーリーはヒッと息を呑む。

撃つつもりなんてなかった。
でも、撃ってしまった。殺してしまった。

頭が真っ白になる。
何も考えられなかった。


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