18-3

ゼロが一人増えたことで帰りの車が二台になった。
幹部メンバー全員を乗せた車が先に出発し、ゼロとC.C.と自分が乗った車も続いて走る。
ゼロはすぐに仮面を外し、素顔をさらした。
今までたくさんの人間を見てきたけど、彼が一番美しいと思う。
強い意志が宿る、深く濃い紫の瞳が特に素晴らしい。惚れ惚れと眺めてしまう。
C.C.は手の平サイズの音楽プレーヤーらしきものを彼に渡した 。

「まさか録音した声で押し通せるとはな。
疑っているヤツは誰もいなかったぞ」
「仮面を取るまで全員がゼロだと思っていたな。
この作戦は今後も使えそうだ」
「すごいねぇ。仮面を取られるって予想してたんだ」
「ああ。素顔を見せる必要があったからな。
今回はC.C.がいたからこそ出来たことだ」
「頼むと頭を下げてきて、ありがとうとしおらしく感謝されたぞ。
本当に丸くなったなぁ」
「嘘ばかり並べるな。
協力を要請したが、礼も言ったが、お前の言ったそれらを俺はした覚えはない」

すごく不愉快そうに顔を歪めた後、彼は腕を組み直し、C.C.を横目に見る。

「……それよりも、桐原の言ってた『精霊』と空の幽体離脱は同じものなのか?」
「いいや。『精霊』はあくまで人間がつくりだした存在。
戦況を意思ひとつで逆転させられるわけないだろう。
妻を自称するあの女の言う通り、士気を上げるためのものだろうな。
だが、全てが嘘ではない。
あの女の言う文献に偽りは書いていないだろう。
空と同じ姿になれる者は他にも存在した。
……今はもういないがな」

それ以上話す気は無いのか、彼女は無表情で唇を結んだ。
ルルーシュも黙り、車内がシンと静まり返る。
彼らしくないな。根ほり葉ほり聞き出さないなんて。
ルルーシュがこちらを見る。

「空はここに来る前、何か異常はあったのか?」

優しい瞳と、心配するような顔。
妹に向けるまなざしとはまた違っていて、 彼らしくない、と思えてしまう。
『ここにくる前に何か異常はあったか?』
これが自分じゃなくてあの子なら、あの男が来た事をルルーシュに言うだろう。
だけど今はボクだ。話すわけがない。
話したらルルーシュはあの男を警戒して、ボクの知る“コードギアス”から大きく外れてしまう。
それだけは阻止しなければ。

「ううん。今までと同じだよ。
すごく眠くなってここに来ただけ」

ルルーシュの顔から優しさが消え、C.C.もこちらを見た瞬間、嫌悪に顔を歪めた。

「誰だ? お前は」

問いかける声音が先程と全然違う。
さすが黒の皇子と不死の魔女だ。すぐに気づいてくれた。
話したいけど、興奮して喋りすぎてしまいそうだ。黙っておこう。
嬉しい気持ちに引っ張られてつい笑えば、ルルーシュの眼差しが射るように鋭くなり、ゾッと身震いするほど冷酷になる。
優しい瞳よりもボクはこっちのほうがいいなぁ。喜びで心が震えてしまう。
笑い声を上げそうになり、慌てて別の場所にパッと移動する。

「あっは!! あっはは!! はははははっ!!
ボクやっぱりルルーシュが一番大好きだ!!!」

トウキョウ租界のはるか上空で大笑いする幽霊────すごいシュールな光景だ。
大爆笑の後、すっきりした気持ちで横になる。
ふわふわと空を漂いながら、さっきまで居た車内を思い出した。
多分今頃、あの魔女は黒の皇子に『すごく嫌な胸騒ぎがする。空から目を離すなよ』みたいな事を怖い顔で言ってるはずだ。
あの魔女はいつもボクの印象を悪くする事ばかり言うんだから。
黒の皇子と話したいけど、しばらくは離れたところから見るだけにしておこう。

「そうだ!
久しぶりにカラッポ君のところに行こう!!」

会えなくなってからもう20年ちょいだ。
あのちびっ子がどんな大人に育ったか知ってはいるけど、今のあの子の、ボクが現れた時の反応は予想がつかない。
お風呂に入ってる時に突撃してやろう。
感情が希薄なあの子は、はたして驚くのか羞恥に震えるのか。

「……ふふ。あの子の仮面を剥がしたいなぁ」

行きたいと思えば瞬時に行けるけど、それじゃあつまらない。
あちこち飛びながら目的地を目指そうかな。
海に向かって急降下し、10秒かそこらで海中に飛び込んだ。

「はははっ!!
自由に動けるのって楽しいなぁ!!」

深いところまで潜っていく。
夕暮れの海は暗く濃い色をしていた。
誰かの目を通して見る映像よりも、自分の目で見る景色のほうがずっとずっと鮮やかだった。


[Back][次へ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -