18-1

「昨日は…………すまない」

フルーツケーキを持ってきて、ルルーシュはあたしにそれだけ言った。
ケーキはもちろん美味しくて、今日が誕生日みたいな気分になる。
だけど『これを食べて忘れてくれ』と言っているように思えて、食べれば食べるほど心が苦しくなっていく。
あたしはあの時、抱きしめてもらえて嬉しかった。
すごく嬉しかったのに、謝らないでほしかった。

生徒会のみんなに顔を見せたり、また倒れるのではと不安になったが特に何も起きることなく3日が経ち、いつもの日常にやっと戻れた。
スザクは学校を休んでいて、ナリタの時からずっと会えていない。
お見舞いに来てくれたとルルーシュは言っていた。だから多分大丈夫だと思うけど、スザクの顔が見たくなった。

そして4日目の朝がきた。
ルルーシュは重要な何かを騎士団でする為、朝早くにC.C.と出かけていった。
ナナリーは学校へ。咲世子さんはキッチンを掃除すると言っていて、一人きりの時間がすごく久しぶりに感じてしまう。
マオは今どうしてるんだろう……とボンヤリ考えながら折り紙で色んなものをあれこれ折っていき、ふと手を止めて時計に目を向けた。
もうすぐで昼食の時間だ。
ダイニングに行こうかと席を立った時、窓の外の下のほうで、信じられない人を見た。

「マオ!?」

マオがピザの配達員さんと一緒に歩いている。
慌てて部屋を出て、全速力で階段を下り、外に飛び出る。
マオと配達員さんが近くに来たところだった。

「マオ! どうしてここに?!」

住んでる場所は話してなかったはずだ。
生徒会の誰かに聞いたのだろうか?
マオはびっくりした顔で、だけどすぐに満面の笑みを見せた。

「すっごい偶然だね!
まさかソラがここに住んでいたなんて!」

気の弱そうな配達員さんがペコリと頭を下げる。
いつもの人と違って、初めて見る顔だ。

「こんにちは。
ピザのお届けに参りました」
「彼、ピザを届けにアッシュフォード学園に来たんだけど中を詳しく知らなかったみたいで。
案内していたところなんだ」

配達員さんは申し訳なさそうにシュンとした。

「配達に出られる人間が自分しかいなくて……。
配達に出るの初めてで……。
すみません……」

シュンとしていた配達員さんは、ピザの箱を片手に伝票を出してきた。

「注文の品をお渡ししたいのですが、スペイサーさんはいらっしゃいますか?」
「スペ……え?」

誰?
そう思って配達員さんをジッと見つめれば、慌てた様子で伝票を見直した。

「アラン・スペイサーさんです。
注文頂いた際にそう聞いているのですが……」
「アラン・スペイサー?」
「ソラはピザ注文したアラン・スペイサーって人、知ってる?」

ううん、と首を振ればマオは困ったように肩をすくめ、配達員さんに視線を移した。

「店に確認したほうがいいんじゃないの?
ピザも冷めちゃうし、一度店に戻ったらどうかな?」
「は、はいっ、そうですね……!
店に戻って出直します!」

配達員さんは駆け足で帰っていった。
小さくなる後ろ姿を見送った後、マオに視線を戻す。
マオは、会えて嬉しい!!と顔いっぱいに気持ちが溢れ出ていた。

「すっごい久しぶりだね! ソラは今までどうしてたの?
もしかしてこの前の雨で風邪引いちゃった!?」
「うん。風邪引いてずっと寝てたの。もう治ったよ。
マオは大丈夫だった?」
「うん。ボクはいつもぐっすり眠っているからね。
それより、ソラが元気になってよかった!
風邪の時に見る夢はすっごく怖いから……」

満開の笑みが消え、マオの元気が無くなった。
触れたら崩れてしまいそうなほど弱々しい。
笑ってほしいな、と苦しい気持ちで思う。

「……ねぇマオ。
もうお昼の時間だからご飯食べてく?
簡単なもの何か作るよ」
「え!? ソラが!?」

泣きそうな顔が、ぱぁあああああああっと晴れていく。
すごく嬉しそうだ。

「うん。本当に簡単なやつだけど。
食べられないものってある?」
「ううん! ううん!!
ソラが作ってくれるならボクたくさん食べたい!!」
「よかった。
マオ、中で話そう。
あっちがダイニングだから」

先に歩き、マオが軽い足取りでそれに続く。

「ソラってここに住んでるの?
アッシュフォード学園の生徒はみんな寮で暮らしているって聞いたんだけど……。
二つある大きな建物が寮だよね?」
「うん。
あたしは事情があってここに住まわせてもらってるの。
えっと……」

……どうしよう。
ここに住んでる嘘の理由も話したほうがいいのだろうか……。

「言いづらい事なら無理に話さなくていいよ。
ボクはソラのそばにいられるだけで嬉しいから」

聞こえた優しい声に驚き、反射的に振り返る。
いつもは子どもっぽいのに今は大人びた穏やかな笑みを浮かべていた。
印象が全然違う。ありがとうを言いたいのに、びっくりして言葉を失った。
マオは楽しそうにくすくす笑う。

「ねぇソラ。
前見て歩かないと転んじゃうよ」
「……あ、う、うん」

ダイニングに到着して、入れば咲世子さんがいた。
一瞬だけ驚いた顔をしていたけど、すぐに笑顔で迎えてくれる。

「あら空さん。
後ろにおられるのはご友人の方ですか?」
「はい。この前話していた友達のマオです」
「こんにちは」

あいさつするマオに咲世子さんも柔和な笑みであいさつを返し、またあたしに視線を戻した。

「会う約束をされていたのですね」
「いいえ。今日は偶然会えたんです。
ついさっき、マオとピザの配達員さんがここに来るのが部屋から見えて」
「案内を頼まれてここまで来ました。
配達に慣れてない店員さんみたいで、すごく困った様子だったから……。
でも、まさかソラがここに住んでいるって思いませんでした」
「会えてよかったですね」と、にこやかに笑う咲世子さんに、マオは「はい!!」と輝く笑顔で何度も頷いた。

「せっかく会えたんで、マオにお昼ご飯を作ろうと思って」
「いいですわね。
先にお茶を飲んでお話されますか?
お持ちいたしますわ」
「ありがとう咲世子さん。お願いします」

咲世子さんがキッチンの奥へ行ってから、マオと二人で席に座る。

「ここの外にある木って桜だよね。
たくさん植えられてて驚いたよ」
「え!?
桜ってそんな近くに植えられてたの!?」

この学園のどこかにあるとは聞いていたけど全然気づかなかった。

「マオってすごいね。
花咲いてないのに桜って分かるなんて」
「えへへ。小さい頃に教えてもらったんだ。
ボク花なら桜が一番好きだよ」
「マオも?
あたしもだよ! 桜が一番好き!!」

好きなものが同じだとそれだけでテンションが上がってしまう。
好きなものについて話に花を咲かせていたら、咲世子さんがティーセットを持ってきた。
来客用のカップに紅茶をいれ、マオとあたしのところにそれぞれ置いた後、

「私は洗濯物を乾燥機から出してきます。何かあればお声をかけてくださいね」

と言って丁寧に一礼し、咲世子さんはダイニングを後にした。

「ソラはメイドさんと二人でここに住んでるの?」
「ううん。
兄妹が2人いて、その人達と一緒に暮らしてる。
お兄さんは高等部で、妹さんは中等部に通ってるんだよ」
「へぇ。
じゃあお兄さんはボクと年が近いんだね。どんな人?」
「どんな人、か。
んー……どう言ったらいいんだろ……。
……まず最初に、自分と相手の間に距離を空けておく人かな。
初対面の時と仲良くなってからが全然違ってて、仲良くなってから色んな表情を見せてくれるようになるよ」
「そうなんだぁ。
最初は壁をつくる人ってこと?」
「うん。そうそれ」
「ボク、そのお兄さんとも友達になりたいなぁ。
だってソラの大切な人だから」
「大切な人……」

他の人にズバリ言われると少し照れくさくなる。

「えっ違うの? 一緒に暮らしてるから家族みたいな人だと思ったんだけど……」
「ち、違うくないよ」

照れくささが消え、じんわりと心があったかくなる。
ルルーシュが大切な人だと改めて思うと、それだけで幸せな気持ちになった。

「……うん。大切な人だよ。すっごい大切な人」
「いいなぁ……」

小さく呟き、マオはカップをふぅふぅしてから紅茶を飲む。

「おいしいねぇ。
心の中まであったかくなりそうだ」

マオは本当に子供みたいな顔で笑うなぁ。
それがすごく可愛くて思わず笑ってしまえば、マオは紅茶を飲もうとしていた動きを止め、カップをおろした。
その顔はなんだか悲しそうで、笑った事に罪悪感を抱いてしまう。

「ご、ごめんね。
マオが笑うから嬉しくなっちゃって……」

あたしも紅茶を飲もうとする。
だけど急に手に力が入らなくなり、持ち上げたカップをガチャンと落とした。
まぶたが重くなり、座ったまま前に倒れそうになる。
引っ張られるようなこの感じ、いつものあれだ……!
テーブルに手をついて立ち上がろうとしたけど、ひどい睡魔に歩ける気がしなかった。

「ソラ、大丈夫!?」

マオの声と、ガタッと席を立つ音が聞こえた。
眠くて眠くて仕方ない。

「マオ、咲世子さんを……呼んで……」

呼んできてほしいと頼みたかったのに、言い終わる前に意識が刈り取られた。


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