17-5 ルルーシュ編

帰路につく間、扇達の言葉をずっと思い出していた。
『愛している』というのはどういう気持ちだ?なんて、ゼロらしくない事を聞いてしまった。
素顔を晒すわけにはいかないと決めていたのに、なんという醜態だ。
いや、だけどあれは、本当に有意義な時間だった。
考えてもたどり着けなかった答えを知れて、心が晴れやかにスッキリしている。

やっとわかった。
そばにいたいと強く思ってしまう時があるのも。
空の笑顔を見る度に『嬉しい』よりも強い気持ちが胸を占め、時々泣きたくなるのも。
抱きしめたいと体が動いてしまうのも。
俺が空を好きで、愛しているからなんだ。
空を仰げば、雲に隠れていた月が顔を出す。
その月がいつもより美しく見えた。

クラブハウスに入り、まっすぐ空の部屋を目指す。
こんな時間になってしまった。起きてるだろうか?
部屋の前まで行き、ノックをする。
もしかしたら着替えをしているかもしれない────そんな考えが頭をよぎり、入ろうとした動きがピタリと止まった。
その場でジッと待つ。
扉を開けたのはC.C.で、不満そうな顔でジロリと睨んできた。

「入ってくればいいだろう。
わざわざ開けさせるな」
「悪い。
着替えをしていると思って入れなかった」

C.C.の横をすり抜け、部屋に入る。
空はベッドに座っていて、笑顔で俺を迎えた。

「具合はどうだ?」
「楽になったよ。ナナリーとご飯も食べられた。
ゼリーとスープありがとう。
気持ちがすごい元気になったよ!」
「そうか」

笑った顔を見てやっと安心した。
肩にかけているカバンをおろし、邪魔にならないところに置く。

「私は部屋に戻るぞ。
急に具合が悪くなるかもしれないから一晩そばにいてやれ、ルルーシュ。
ひどい悪夢を見るかもしれない。手を繋いで寝てやれよ」

真剣な顔で言ったが、俺は見逃さなかった。
あいつが出ていく時にニヤッと笑うところを。
魔女め、と内心歯噛みする。
扉が閉まったのを確認し、咳払いをひとつしてからベッドのそばの椅子に座った。

「あたしは大丈夫。
ご飯食べて、体も拭いてさっぱりしたから、今日はぐっすり眠れるよ。
ルルーシュは自分のベッドでゆっくり休んでね」
「いや。あの女が俺のベッドを占領している以上、安眠できるわけがない。
今夜はここで寝てもいいか?」

本音を言えば、俺は空の隣で寝たい。そのほうがよく眠れるからだ。
念のため確認はするが、空の顔を見れば返事を聞かなくとも分かった。

「うん」
「それに、心配だからな。
トイレで倒れた時と同じ事がまた起きるかもしれない。
怖かっただろう」
「……うん。
でも、すぐにルルーシュが来てくれたから、怖くなくなったよ。
大丈夫だって思えた。
助けにきてくれてありがとう、ルルーシュ」
「空の声が聞こえた気がしたからな。
不思議と、どこにいるか分かったんだ」
「……すごい。
あたし、ルルーシュの事呼んでたよ。
声が出せなかったから、心の中でルルーシュって何回も」
「俺を呼んでくれていたのか」

他のヤツじゃなくて俺の事を。
たったそれだけで気持ちが大きく昂揚する。
落ち着け。空に変な目で見られるぞ。

「ずっとおまえを助けたいと思っていた。
助けられてばかりだったからな……」

そうだ。助けられてばかりだ。
なぜ空は俺を助けたいと思えるのか。
どうしてだ。

「……あの時の話の続きだ。
どうしておまえは、俺を助けたいとそこまで思えるんだ?」

ジッと見つめていれば、空は徐々に視線を外していく。
これは……もしや、あれか……?


「でも、そう思える相手ができたら、その人の為に戦いたい。
その人を助けたいです」



空もカレンと同じ考えなのか!?
俺には言えないのか、もじもじしながら顔をそらした。
やはりそうか! 空も俺と同じ気持ちだったのか!

「ルルーシュが、ルルーシュだからだよ……」
「俺が俺だから?
もっと具体的に言え」

分かりきった答えを聞き出す事に少しの罪悪感はあったが、それでも空の口から直接聞きたかった。
俺を見る空は困りきった顔をしている。

「どっどうしてそこまで知りたいの!?」

顔が真っ赤だ。かわいい。
かわいくてたまらない。
思わず口角が上がってしまう。

「他人を助けたいなんてのは、よほどの事がない限り思わないはずだからだ。
どうしておまえは俺を助けたいんだ?」

ここにC.C.がいたら『性格の悪い男だな』と吐き捨てているところだろう。
そうだ。俺は性格が悪い。だけどそれが俺だ。
空は今にも泣きそうで、そんな空がかわいくて、ぞくぞくと体が震えてしまう。
抱きしめたい。その気持ちが胸いっぱいに広がった。

「ルルーシュがルルーシュだからだよ!」

急に空が動き、不意を突かれた。
ベッドを降りて飛び込んでくる。
抱きしめたいと思ったら抱きしめられていた。
頭が真っ白になる。
思考や五感が停止したが、抱きしめてくる空に、俺の中の全てが冴えた。
華奢な体をしているのに、離れまいとしがみつく力はとても強い。
体温はあたたかく、いい匂いがする。
心地良い。
このままこうしていたいと思った。

「そ、それが理由じゃダメなの……?」

弱々しい声で言った空が、なぜか俺から離れようとした。
やめるな────そんな気持ちに突き動かされ、今度はこっちから抱き寄せる。
ほんとうに、いい匂いがする。
溺れてしまいそうだ、と目を閉じながら思っていれば、唇が空の鎖骨に触れた。
驚き、開いた目に飛び込んで来たのは白い肌。
伸縮性のある空の部屋着は、抱きしめている内に下へとずれていったみたいだ。
『何をやってるんだお前は!!』と脳内にいるもう一人の自分が叱責する。
抱きしめていた体をぎこちなく解放すれば、空は真っ赤な顔で固まっていた。
きっと俺も同じくらい顔が赤いだろう。
沸騰してしまったように全部が熱い。

「……お茶、お茶をいれてくる」

言うべき言葉を間違えた自覚はあったが、俺は逃げるように部屋を出た。
扉が開ききる前に進んだものだから、扉に体を強かにぶつけてしまった。
痛いが、それよりも強く、穴があったら入りたい衝動に襲われる。

正しい順序は知っていた。理解していたはずなのに!!
伝えるべき気持ちを伝えず、何をやっているんだ俺は!!!!

お茶をいれるとは言ったものの、急ぎ足でそのままバスルームへ直行する。
昂ぶる熱を沈めたくて、ひたすら水でシャワーを浴びた。

頭と体を拭き、着替えをして、俺が思う『いつも通りの自分』に戻ったのを自覚してからバスルームを出る。
あれから、空の部屋から逃げて1時間以上経っている。
自分のしてしまった事を思い出すと、激しい自己嫌悪に襲われた。

「……とりあえず、取りあえず明日はケーキだ。
空の好きなケーキを作って、それからしっかり謝るんだ……」

ぶつぶつ呟きながらキッチンでお茶をいれる。
ナナリーが夜眠れない時にいれてやる、寝付きが良くなるお茶だ。
これを飲めば空も安心して眠れるだろう。

ティーセット一式を持ち、まっすぐ空の部屋へ行く。
入る前に深呼吸し、ノックをしてから入る。
空への弁解は何十通りも考えていたが、眠っていて拍子抜けする。
だけどよかった。心の底からホッとした。
サイドテーブルにティーセットを置き、ついている卓上ランプを消す。
今夜の月は明るい。
部屋は暗くならず、空の寝顔もよく見えた。
触れたいという欲が出て、それを、拳を握って自制する。
好きだ。溢れるほどそう思う。


「私は、好きの気持ちがたくさん心に積もったら『愛してる』になると思うわ」


『愛してる』が心にたくさん積もったらどうなるのか、井上から話を聞きたくなった。
 

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