17-5 空編

夕食は、ナナリーとC.C.が部屋に来てくれて一緒に食べた。
デザートのゼリーは優しい甘さが口いっぱい広がり、つるんと喉をすべっていく。
これがルルーシュの手作りとは……!!
一口食べるごとに気持ちが元気になっていき、ルルーシュすごい!と改めて思った。
ナナリーが部屋に帰ったのをC.C.と見送った後、お風呂に入ろうかとベッドを出たら、くらりとめまいがしてへたりこむ。
目覚めてから何時間も経っているのに。
やっぱりトイレで倒れた時のあれが原因だろうか。
C.C.に支えてもらいながら、ぷるぷる震えながらベッドに戻る。
「体を拭くのを取ってくる。待っていろ」とC.C.が部屋を出て、お湯とタオルを持って戻ってきてくれた。
のろのろと服を脱ぎ、絞ってもらったタオルで腕や体を拭く。
少し熱めで、だけどそれが気持ちよかった。

「C.C.背中拭いてほしいなぁ」
「ああ。任せろ」
「ありがとう」

優しく拭いてくれる手が気持ちよくて、ぼけーっとした顔になってしまう。

「なんかC.C.って家族みたい……」

拭いてくれていた手が一瞬止まり、何事も無かったようにすぐ動く。

「……そうか?」
「うん。友達とか親友は違うし、それが一番しっくりするなぁって」
「それなら私が姉だな」

嬉しそうな声でC.C.は言う。
背中から手が離れ、ちゃぷちゃぷとした水音が聞こえる。
絞ってくれたタオルをまた渡してくれて、お腹から下を全部拭いたら、体がすごく軽くなったように感じた。

「メイドが着替えを用意してくれてるぞ。ひとりで着替えられるか?」
「ひとりで出来るよ」

本当にお姉ちゃんみたいだ。
服を着て、終わって顔を上げれば、C.C.はいつのまにか窓辺に寄って月を見上げていた。
電気を消したほうがもっときれいに見えるだろうか?
卓上ランプをつけ、天井の照明を消す。
今夜の月はいつもより輝いているみたいだ。
月明かりに照らされたC.C.は女神様みたいに美しくて神秘的だった。

こんこん、とノックの音が聞こえてくる。
ルルーシュだろうか?と思ったが、待っていても入って来ない。
『何をやってるんだルルーシュのやつは』と言いたそうな顔をしたC.C.は、スタスタと歩いて扉を開けた。
廊下にいたのはやっぱりルルーシュ。

「入ってくればいいだろう。
わざわざ開けさせるな」
「悪い。
着替えをしていると思って入れなかった」

というやり取りをしながら二人がこっちに来た。

「具合はどうだ?」
「楽になったよ。ナナリーとご飯も食べられた。
ゼリーとスープありがとう。
気持ちがすごい元気になったよ!」
「そうか」

ルルーシュは安心したように笑い、肩にかけている黒のカバンを床におろした。

「私は部屋に戻るぞ。
急に具合が悪くなるかもしれないから一晩そばにいてやれ、ルルーシュ。
ひどい悪夢を見るかもしれない。手を繋いで寝てやれよ」

真剣な顔でそう言い、C.C.は出て行った。
それを見送るルルーシュは怒った顔をしていて、罪悪感で気まずくなる。
扉が閉まり、ルルーシュはこほんと咳払いして椅子に座った。
騎士団帰りですごく疲れてるはずだ。
ルルーシュには自分のベッドで寝てほしい。

「あたしは大丈夫。
ご飯食べて、体も拭いてさっぱりしたから、今日はぐっすり眠れるよ。
ルルーシュは自分のベッドでゆっくり休んでね」
「いや。あの女が俺のベッドを占領している以上、安眠できるわけがない。
今夜はここで寝てもいいか?」
「うん」

嬉しくて顔がにやけてしまいそうになる。
気を引き締め、気持ちがそのまま顔に出ないようにした。

「それに、心配だからな。
トイレで倒れた時と同じ事がまた起きるかもしれない。
怖かっただろう」
「……うん。
でも、すぐにルルーシュが来てくれたから、怖くなくなったよ。
大丈夫だって思えた。
助けにきてくれてありがとう、ルルーシュ」
「空の声が聞こえた気がしたからな。
不思議と、どこにいるか分かったんだ」
「……すごい。
あたし、ルルーシュの事呼んでたよ。
声が出せなかったから、心の中でルルーシュって何回も」
「俺を呼んでくれていたのか」

ルルーシュの顔が嬉しそうに輝いた。
レアな表情だ。
でもそれは一瞬で、いつものやわらかい微笑みに戻る。

「ずっとおまえを助けたいと思っていた。
助けられてばかりだったからな……」

ルルーシュのきれいな顔が、辛そうにわずかに歪む。

「……あの時の話の続きだ。
どうしておまえは、俺を助けたいとそこまで思えるんだ?」

心の底から疑問に思っているようだ。
前にも話したけど、ルルーシュが大好きだからだ。
でもそれを今、声に出して言うのが何だかすっごく恥ずかしい。
顔に熱が集まるのを感じながら、あたしの視線はだんだんルルーシュから外れていった。

「ルルーシュが、ルルーシュだからだよ……」
「俺が俺だから?
もっと具体的に言え」

楽しむような声に耳を疑い、ルルーシュに視線を戻す。
さっきまで悩んでいた顔をしていたのに、いつの間にか、自分なりの答えにたどり着いたようだ。
ルルーシュは自信満々の魔王の笑みであたしを見据えていた。

「どっどうしてそこまで知りたいの!?」
「他人を助けたいなんてのは、よどの事がない限り思わないはずだからだ。
どうしておまえは俺を助けたいんだ?」

いつもと違う意地悪な声に、背中の真ん中がぞわっとした。
顔が熱くなって、さらに熱いものが瞳に浮かぶ。
このまま言われ続けたら心が破裂する!!

「ルルーシュがルルーシュだからだよ!」

ベッドをおりてそのままルルーシュに飛び込み、ギュッと抱きしめた。

「ルルーシュがルルーシュだから、あたしはルルーシュを助けたいって思うんだよ!」

これ以上喋らないでくれ!という一心で、ぎゅうううううっと抱きしめ続けていれば、部屋がシーンと静まり返った。
ルルーシュは微動だにしない。
何も言わなくて少し不安になった。

「そ、それが理由じゃダメなの……?」

回していた腕をほどき、そっと離れようとすれば、今度は逆に抱き寄せられた。
大きな手が頭と腰に。
ルルーシュが首元に顔を埋めてきて、驚きの気持ちが吹き飛んだ。
一瞬息が止まり、ぼけっと開いていた口が閉じる。
ドッドッドッドッと心臓が喉の辺りで暴れてる気がする。
うまく呼吸できない。頭がくらくらする。
自転車の空気入れで風船をめいっぱい膨らますイメージが脳裏に浮かぶ。
嬉しくて、幸せなのに、心が本当に破裂しそうだ。
ヤバいと思った瞬間、密着していたルルーシュが離れてくれた。
明かりは卓上ランプのわずかな光だけなのに、後退したルルーシュは見て分かるほど真っ赤だった。

「……お茶、お茶をいれてくる」

くるっと背を向け、扉めがけてぎこちなく歩いていく。
タッチパネルを押してすぐにルルーシュは部屋を出ようとした。
扉が開ききっていなくて、ガンッ!という痛々しい音が聞こえる。
ルルーシュが廊下に出た後、扉がゆっくり閉まった。
ドキドキしたまま、

今の何ーーーーーーーー!!!?

と、内心叫ぶ。
頂点まで達した気持ちは中々静まらない。

どうしてルルーシュはあたしを抱きしめてくれるんだろう?
抱きしめてもらった事は何度もあったけど、今回のは今までと全然違う。
友達とか家族相手にするような抱きしめ方じゃなかった。

「もしかして……」

あたしがルルーシュを好きなように、ルルーシュもあたしの事を……?

「……ううん。
まさか、そんな……」

『絶対そうだ』と確信する気持ちと『そんなの絶対あり得ない』と否定する気持ちが、心の中でぐるぐると回る。
頬が熱い。多分あたしも顔が真っ赤だ。
ルルーシュが戻ってくる前に心を静めないと、と思っていたら全然戻ってこなくて、1時間くらいで眠くなって寝た。


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