17-1

夜の色だった空が明るくなっていく。もう朝か。
ナナリーの事を考えると、ルルーシュはほんの少しだけ憂鬱になった。

厳しい声で言われたのは初めてで、どう謝ろうかとルルーシュは頭を悩ませる。
ナナリーがどんな顔をするか予測がつかなくて、それでさらに気持ちが沈んだ。
夜明けから数時間後、覚悟を決めてナナリーと対面したルルーシュは、いつも通りのふんわりした笑みを浮かべて挨拶する妹に困惑した。

「お兄さま、昨日はごめんなさい……。
すごく大事な用でお出かけしているのに、呼び戻すような電話をしてしまって……」
「い、いや……謝らないでくれ……。
ナナリーが電話をしてくれたから、俺は空の手を握る事ができたんだ……」
「空さんの手を握ってくださったんですね!」

ルルーシュが思う以上にナナリーは空を心配していたのか、安心して泣いてしまった。

「よかった……。
空さんの手を握れるの、お兄さましかいないと思ったから……。
ありがとう、お兄さま」
「(俺しかいない、か……)」

ルルーシュは嬉しさで心がなんだか浮つくのを感じた。
今まで芽生えた事のない優越感に口元がゆるんでしまう。

空をC.C.に任せ、ルルーシュはナナリーの着替えやその他を手伝ってから、彼女をダイニングに連れて行った。
ナナリーはいつもの席に。ルルーシュはキッチンに。
ラジオの音が小さく聞こえる中、ルルーシュは朝食作りに取りかかる。
C.C.が言うに、空の心はここに戻ってきたからその内目覚めるそうだ。
それがいつになるかは分からなくて、ルルーシュは手を動かしながら小さくため息をこぼす。
いきなり携帯が鳴り、驚きながらポケットを探る。
携帯に表示されているのはリヴァルの名前で、こんな時間に珍しいな、と思いながら電話に出た。

「俺だ。どうしたリヴァル?」
『ルルーシュー!!
おまえなら絶対出てくれると思ってたぜぇー!!
直接会って話したい事があるんだ!! いいか!?』
「電話で今話せ。
俺はナナリーの朝食を作るところだ」
『後回しにしないところが優しいよなぁー!
直接じゃないと話せない事なんだ!
後で! 後でそっちに行くからな!!』

返事をする前に電話を切られ、ワケが分からないとルルーシュは顔をしかめた。
後で? まさか朝食の時に来るわけじゃないよな?という考えが頭をよぎるが、実際に来たのはそれよりも後だった。
リヴァルはダイニングまで顔を出したものの、何故か廊下で仁王立ちで入ろうとしない。

「おはよう……」
「リヴァル、おはよう」
「おはようございます。
お兄さまに用事ですか?」
「ああ。そうなんだけど……。
ルルーシュと話したいんだけどさぁ、連れていってもいいか?」

ここで話せ、とルルーシュは思った。

「大事なお話なんですね。
わたし、大丈夫です。お兄さま、行ってきてください」

ナナリーのにこやかな言葉に、ルルーシュは従うしかなかった。
重い足取りでリヴァルと共に外に出る。

「ここまで行かないと話せない話って何だ?」
「昨日の事だよ。
ルルーシュは空から聞いたか? 友達ができたって話」
「ああ。電話で少しだけな」
「そ、そっか、少しだけか……。
空のやつ、ルルーシュには後で話すつもりだったのかな……」

ぶつぶつ呟き、リヴァルは改めてルルーシュを見る。
普段は気楽に笑っているのに、今は神妙な顔つきをしていた。

「昨日、空とそいつが一緒にいるところに出くわしたんだ。
手ぇ繋いで、すごく仲が良さそうで……。
礼儀正しいんだけど、なぁんか好きになれない感じの男だったんだ……」

ビキッ、とルルーシュは硬直した。
思考が停止する。
だけどすぐに再起動し、ルルーシュは真顔でリヴァルを見た。

「……男、だと……?」
「あ、ああ、男だよ……多分年上だと思うけど……。
……って、空のやつ、その友達が男ってルルーシュに話してなかったのか!?」
「ああ。友達が出来た事と、その経緯だけだ。
手を繋いで? リヴァルには仲が良さそうに見えたのか?」
「ああ。
距離がすごい近いなーって感じだった」

昨日の事を思い出しながら言ったリヴァルは、改めてルルーシュをチラリと見る。
人ひとり殺しそうなほど冷徹な表情をしていて、リヴァルの体が恐怖ですくんだ。

「(これはめちゃくちゃガチな怒りじゃないですかーッ!!!!)」

内心叫び、リヴァルは身の危険を感じてじりじりと後退する。

「と、ととと取り合えず落ち着けルルーシュ!! そいつに一回会ってみろ!!
嫌だなぁーって思ったのは多分先入観のせいだから、おまえは案外そんな風には思わないかもしれないぜ!!
それじゃあまた学校で!!」

ダッと走り、一目散に逃げる。
他にも言いたい事があった。
言わなければという気持ちよりも、今のルルーシュから逃げたいという気持ちのほうが上回った。

昨日の夜だ。
いつものバーでバイトしてたら、空と一緒にいた男が客として来た。
こんな偶然もあるんだな、と驚けば、相手も同じことを言っていた。
男はチェスが得意らしくて、ルルーシュと戦ったらどんな勝負になるんだろうなと、ほんの少しだけ興味を持った。
ちょっと話した後、待ち合わせの場所が変更になったと言って、 男はすぐに帰って行った。
正直ホッとした。同じ空間にいるのを気まずいと思っていたから。
礼儀正しいけど、やっぱり苦手意識があった。
見ているだけで心がざわつくのだ。
最初が最悪だったから、それを今もずるずる引きずっているのかもしれない。

「ルルーシュ頼んだぜ!!」

自分よりルルーシュのほうが人を見る目がある。
あの男をルルーシュが友好的に思ってくれたら、きっとこの苦手意識も消えるはずだ。
ルルーシュがあの男と会ってくれるから大丈夫だ、という安心感がリヴァルにはあった。


[Back][次へ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -