16-3

クラブハウスに着き、後で生徒会室に集合とミレイに言われ、ダイニングに帰った。
クッキーを渡し忘れた事をナナリーに謝ろうと思ったけど、ダイニングに彼女の姿は見当たらない。散歩だろうか?

「えっくし」

くしゃみの後に体がブルッと震え、寒くなる。
風邪の引き始めだろうか? 後で温かいものを飲まないと。

次に生徒会室に行けば、ミレイ達と合流した。
ミレイを先頭に、あたしはリヴァルの後ろに隠れながらアーサーを横切り、生徒会室へ入る。

「シャーリーが帰るまでここでゆっくりしましょう。
ねぇ空。待ってる間、ルルーシュの恥ずかしい写真見るぅ?」
「えっ」

ニヤニヤするミレイに、あたしもニヤニヤしてしまう。

「あるの!? 見た〜い!!」

リヴァルとニーナは遠い目をした。

「あー……あれかぁ……」
「ルルーシュが知ったらきっと怒るね……」

ミレイはまっすぐ本棚へ行き、分厚いファイルを持って戻ってきた。
それを机にドンと置く。

「これが生徒会の青春の記録よ。
イベントで撮ったものや活動写真を入れてるの。
これにね、ふふふ、ルルーシュの面白い写真もあるのよ」

これがまさかアルバムだったなんて。
いろんな書類をまとめているものだと思ってた。
ミレイはワクワクした顔でファイルを開く。中にたくさんの写真が入っていた。
どれを見ても、楽しそうだなぁと微笑ましくなる。
ページをめくっていけば景色が冬の写真になり、そこには当然カレンとスザクはいないけど、ミレイ達は今と全然変わらない。
ルルーシュが雪だるまと一緒に倒れた瞬間の写真もあって、ぶふぅっと吹いた。

「うーわ、これはルルーシュが恥ずかしいと思ってる過去その1」
「何があったらこんな……かわいい……!!」
「そうそう! この時のルルーシュは本当にかわいかったのよ!!」
「ナナリーを驚かせたいって頑張ったら、勢い余って倒れちゃったんだよね……」

この写真にはシャーリーがいない。
彼女が撮ったものだろうか?

ミレイ達と話しながらページをめくっていけば、冬から秋へ、夏から春へ、季節がさかのぼっていく。
アニメにすら出なかった過去の生徒会。
ルルーシュの隣にはシャーリーがいて、恋する女の子の笑顔だった。
見ていてだんだん胸が苦しくなっていく。
どうして、見たくないと思ってしまうんだろう。
ページが残りわずかになった時、ルルーシュが笑っていない写真のほうが多くなっている事に気づいた。
不機嫌とはちょっと違う。顔に感情が全然出てない。

「おぉーっ! これってけっこう前じゃん!」
「ルルーシュ……全然笑ってない……。
……何があったの?」
「何があったって言うか……今じゃ想像できないけど、生徒会入りたての頃のルルーシュって全然笑わなかったのよ」
「え!? ルルーシュが!?」
「想像できないでしょ? でもほんとのことよぉ。
その時ルルーシュが笑うって言ったらナナリーといる時だけだったし。
私も最初は苦労したわぁ……」

微笑むミレイはどこか遠くを見ていた。
本当に苦労したんだろう。
この頃のルルーシュはナナリーのことしか頭になく、きっと他の人には無関心だったんだろう。
ナナリー以外の人にも笑いかけられるようになったのは、きっとミレイ達のいる生徒会に入ったからだ。

「シャーリーが『ルル』って呼び出した辺りぐらいで、ルルーシュも笑うようになったんだったよなぁ」
「最初は『ルルーシュ君』だったよね。
呼びにくいからルルにしたって聞いたわ」
「ルルーシュ君、か……」

シャーリーの『ルルーシュ君』って想像したらすごく違和感がある。
……ああ、そっか。ルルと呼ぶ彼女しか知らないから違和感があるんだ。
『ルル』
シャーリーしか呼べない、シャーリーだけが許されているような、そんな呼び方。
この世界で、ルルーシュをそんなふうに呼べるのはシャーリーだけ。
そう思うと、重い石でも飲み込んだように胸が重い。
『ルル』と呼ぶ、彼女の明るい声を脳内再生する。
前は何とも思わなかったけど、今は苦しくて仕方なかった。

なんだか頭がボーッとする。
ミレイ達が話しているけど、会話の内容が耳に入らない。
それに、生徒会室が異様に寒く感じた。
上着がもう1枚欲しいなぁ、とボンヤリ思う。

ベルの音が────テーブルに置かれた白い電話が鳴り、ミレイが出た。

相手は誰だろう?
ミレイの話し声に耳を傾ける。
聞いていれば、相手がシャーリーだと分かった。

「こっちは大丈夫だから気にしないで。
カレー作るからクラブハウスのキッチンに直接向かってちょうだい。
急がなくていいわよ」

ミレイは朗らかに笑って電話を終えた。

「シャーリー、もうすぐで帰ってくるって。
ナナリーにも声かけてからキッチンに行きましょう」

みんなに続いて廊下に出る。
空気が変わったのを感じた途端、ぞわっと寒気が全身を走った。

「ぶぇぇぇぇっくし!!!」

盛大なくしゃみが出て、体がブルッと震え上がる。

「大丈夫? すっごい大きなくしゃみね……」
「風邪か〜?」

悪寒ですごくぞわぞわする。
顔が熱っぽくて、頭がボーッとした。
これはヤバイやつかもしれない。
おでこに冷たい手を当てられる。
視線を上げてやっと、その手がミレイのものだと分かった。

「けっこう熱いわよ。
今日は部屋帰って寝たほうがいいわね」
「うん。そうする……」
「氷枕用意する?」
「ううん……ありがとう……寝たら直ると思うから大丈夫……。
カレーは後で食べるね……」
「カレーよりもおかゆのほうがいいわよ。作っておくから食べれる分だけ食べてね。
後で様子見に行くわ」
「ありがとう……」

足が重くて歩くのもしんどかったけど、ミレイ達は歩調を合わせてゆっくりと歩いてくれた。
体調崩すといつもの距離が倍以上に感じてしまうのはなぜだろう。
やっとの思いで自分の部屋に到着し、ミレイ達と別れ、そのままベッドに倒れこむ。
だけどすぐに、着替えなきゃいけないことを思い出して起き上がった。

苦しい。
吐く息が熱を持ってるような気がする。
体温がぐんぐん上昇しているようだ。
のろのろと服を脱ぎ、たたむ気力が湧かなくてそこらに適当に固めておく。
立つことも辛くなってきて、しゃがみながらパジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
もう二度と起き上がることができないんじゃないかと思うほど、自分の身体がすごく重い。
まぶたを閉じれば、深い闇に沈むように意識が途切れた。


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