16-1
久しぶりに夢らしい夢を見た。
だけど悪夢だ。
あの時の────死を間近で見たあの時
に時間が巻き戻ったみたいに、それはすごくリアルだった。
あの時には目に入らなかったところまで、見開く瞳は見てしまう。
死ぬ瞬間をもう一度見て、終わった後、そこはもう闇の世界だった。
緊張した体はガチガチで、見開いた目は閉じられない。
記憶にこびりついてしまったようだ。
あの時、あたしを凝視した瞳が、自分の中でハッキリとよみがえる。
ルルーシュもクロヴィスを撃ち殺した後、こんな風になったのだろうか?
吐ける体じゃないのに、吐きそうになった。
「忘れたいなら、そこだけ取り除いてあげるよ」
あの子の声が後ろから。
すぐ振り返ったけど、やっぱり姿はどこにもない。
「取り除くって……。
……何よそれ」
「簡単にできるよ。
消したいところだけ、録画した番組を消すみたいにね」
すごい軽い声で、とんでもない事を言う。
C.C.の言う通りだ。この子はひとを人間として見ていない。
「どうする?
キミが望めば消してあげるよ」
「嫌だ」
「……どうして?」
幼い声に、だんだんと腹が立ってくる。
「カレンだって、ルルーシュだって、みんな背負って生きているんだよ!
それを、それを簡単に消すなんて……!
そんな卑怯な事、あたしは嫌だ!!」
あれが頭から離れなくても、ずっと思い出す事になっても、あの時のあれはあたしが背負わなきゃいけないやつだ。
後ろであの子が失笑を漏らす。
「……わかった。
それじゃあ、キミの中にある気持ち悪いのだけ取らせてよ。
その胸くそ悪いヤツ」
「えっ? 気持ち悪いって何が!?」
「この前の他人の記憶のヤツ、キミの中にまだ残ってる。
あれの気持ちがキミに流れ込みまくってるよ。
気ッッッ持ち悪いから早く取らせて!!!!」
すごい剣幕だ。
ここまで声を荒らげるなんて初めてかもしれない。
戸惑いの気持ちが強すぎて、あたしはウンウンうなずいていた。
「わ、わかった。取っていいよ」
「ありがとっ」
後ろから風が吹いたような気がすれば、胸から手が生えていた。
「えっ!!!!?」
生えていた手が抜け、バッと後ろを見る。
誰もいないと思っていた場所に『あたし』が立っていた。
「え、え、えぇえ……!?」
「ごめん。余分に取っちゃった」
声はあの子と同じだ。
ニッと笑う顔はあたしそのものなのに、別人みたいに見えてしまう。
瞳の色は、ルルーシュがギアスをしようとする時の緋色だった。
「でもいいよね。だって自分の中に気持ち悪いのがあるんだもの。
もう大丈夫だよ。
昨日みたいに、自分の心が自分のものじゃない感覚はもう感じないようになったから。
ありがとう。スッキリしたよ。
本当に気持ち悪かったんだから」
ドン、と押されて真っ暗な空間に落とされた。
まっ逆さまに自分の体へ────ハッと目が覚める。
室内がわずかに明るかった。
隣でナナリーが寝ていて、すぅすぅと可愛い寝息を立てている。
変な気分だ。
寝てあそこにいって、落とされて目が覚めて、自分の体内時計と実際の時間がすごいズレている。
なのに、よく眠ったように体はスッキリしていた。
この夢をルルーシュに話すべきか。
……ダメだ。あの子から全然情報が引き出せなかった。
ルルーシュの声が聞きたいけど、話したいけど、何の収穫も無いのに電話できるわけがない。
重い気持ちでベッドを抜け、着替えに取りかかった。
[Back][次へ]