15-4

敵が日本解放戦線の本拠地を発見し、攻撃をしかけるタイミングに出撃することを、ゼロは全員に話した。
誰がどんな役割につくかも分かりやすく簡潔に説明する。
全員の表情から動揺の色が消え、覚悟を決めた顔つきになった。

『ゼロの機体と行動を共にし、ゼロの指示で逐一動く』
それが、空に与えられた役割だった。

説明が終われば、全員が一斉に動く。
ゼロは無頼に乗り込み、起動させ、仮面を外し、その時が来るのを待つ。
扇達も無頼に乗り込み、カレンは深紅のナイトメア────紅蓮弐式へ。
徒歩で作戦を遂行する団員達は渡された重火器を手に、指定された位置に行く。
空は宙に浮いて待機した。
その場がシンと静まりかえる。
ルルーシュはモニターに表示された軍の識別信号が一点を目指して動いているのを確認した。

「よし、全ての準備は整った!
黒の騎士団、総員出撃準備!!」

無頼に乗ったゼロの声がその場に響き、全てのナイトメアが一斉に起動する。
紅蓮弐式のコクピットはカレンを包み込むようにしてゆっくり閉まり、収納されていた頭が表に出る。
目覚めたように、暗い色をした目が青く光った。

「これより我が黒の騎士団は、山頂よりブリタニア軍に対して奇襲を敢行する!
私の指示に従い、第三ポイントに向け一気に駆け下りろ!
作戦目的はブリタニア第二皇女、コーネリアの確保にある!
突入ルートを切り開くのは紅蓮弐式だ!
カレン、貫通電極は3番を使う。一撃で決められるな?」
「はい!」

カレンは紅蓮弐式を操縦し、地に深々と刺した杭型の機械に右手を乗せた。
銀の爪が光を鈍く反射させる。

「出力確認、輻射波動機構、涯際 がいさい状態維持」

紅蓮弐式の右手が淡い光を放ち始める。
カレンはひとつ呼吸し、操縦桿の横のボタンをグッと押した。

鎧袖 がいしゅう伝達!!」

紅蓮弐式の右手から赤黒い閃光が生じ、機体がまぶしい赤色で染まった。
静けさが戻り、カレンは肩の力を抜いて息を吐く。

少しの沈黙の後、地面が揺れだし、爆発した。
空はとっさに上空へ飛び、起こった土砂崩れを目にして息を呑む。
規模が大きく、範囲が広い。
まるで雪崩だ。
怒涛の勢いで、土砂が斜面を流れていく。

無頼の中でルルーシュはモニターを凝視する。
土砂を現す紫の帯が、敵の機体を示す青い点を飲み込みながら広がっていく。
絶望するほど多かった青い点は、そのほとんどがオレンジ色に変わった。

「黒の騎士団総員出撃!!」

ゼロを筆頭にそれぞれが動き出す。
前に2機、後方に紅蓮弐式含めた3機と共にゼロの無頼は進む。
空はゼロの機体に滑り込むように入った。

「コーネリアへの援軍は限られている。
一気に突き進め!」

軍のサザーランドがどの方向で何機接近するかはすでに知っている。
無頼達は一斉に掃射し、サザーランドは次々に倒れていった。
土砂崩れで軍の包囲網を分断できたものの、全てを無力化できたわけではない。
前進しようとした無頼を、横からいきなり現れたサザーランドが襲撃をかけた。
銃を乱射されて胴体を撃ち抜かれたのは2機。
団員はすぐに脱出装置を使い、コクピットはすぐさま空へ打ち上げられた。

「ゼロはいるのか!?
いるならこの私と! ジェレミア・ゴットバルトと戦えぃ!!」

襲撃をかけたサザーランドが名乗った名前に、くすりとルルーシュは笑む。

「ほう。久しぶりですね。まだ軍におられたのですか。
しかし、今あなたに関わっている時間は無いんですよ。オレンジ君」

ジェレミアは血走った眼をさらに見開く。

「お……オレンジだとぉ!?
死ッねぇえええええ!!!」

あからさまな挑発は彼の逆鱗に触れ、ジェレミアはゼロの機体めがけてサザーランドを走らせる。
ルルーシュは動かない。頬笑む表情から余裕は消えない。カレンがそばにいる
からだ。
紅蓮弐式が死角から現れ、まるで瞬間移動したようにサザーランドの前に降り立った。
サザーランドが手にする銃を、紅蓮弐式は金色の短刀で薙ぎ払う。
銃は手を離れ、空高く舞い上がった。
ジェレミアは一瞬だけ虚を突かれたものの、武器はまだ残っている。
両腕に装備されたスタントンファをすぐに構えた。
後方に控えている他のサザーランドが援護しようとわずかに動く。

「手を出すな! これは私の決闘だぁ!!」

ジェレミアのサザーランドが紅蓮弐式へ接近する。
攻撃しようと振り上げたスタントンファを、紅蓮弐式は右手で受け止めた。
ジェレミアは止まらない。もう片方のスタントンファをすかさず叩き込もうとするが、紅蓮弐式のほうが速かった。
大きく跳躍して攻撃を避け、着地と同時に短刀で斬りかかる。
ジェレミアは防御に徹するしかない。

「見たかブリタニア!
やっと、やっとお前達と対等に戦える!
この紅蓮弐式こそが!!
私達の反撃の! 始まりだッ!!」

鋭利な右手を伸ばしてきた紅蓮弐式にジェレミアはゾッとした。
何かあると、戦士としての勘が警告する。
ジェレミアはすぐに後退したが、紅蓮弐式は右腕の関節をさらに伸ばし、サザーランドの顔をわしづかみにする。
「ごめん」と呟き、カレンは操縦桿の横のボタンを押した。
赤い閃光が走り、サザーランドの機体は痛々しい音を立て上げながらぶくぶくに膨らんでいく。
頭から四肢の先まであっという間だった。
内部は火花が散り、凄まじい熱気に包まれる。
『ジェレミア卿! 脱出を!!』という通信が、砂嵐の音に混じって聞こえてくる。
ジェレミアは眼前のゼロをぎろりと睨んだ。
できるか!!目の前にゼロがいるのに!!と、ジェレミアは鼻血を出しながら思った。
膨らみきった機体は限界を迎え、脱出装置がオートで作動する。
コクピットを空に打ち上げ、搭乗者のいなくなったサザーランドは爆発した。
爆炎が上がり、森が赤々と燃え上がる。
ルルーシュと共に一部始終を見ていた空は、紅蓮弐式の圧倒的な力に絶句していた。
ルルーシュは勝利を確信し、不敵に微笑んだ。

「(条件は全てクリアされた。駒も揃った。
後は相手の本陣にチェックをかけるだけだ)」

炎を抜けた紅蓮弐式は、ジェレミアの後方にいるサザーランドを輻射波動で爆発させ、進路を開く。

「よし! 紅蓮は予定位置へ!
ここは残った者で突破してコーネリアを狙う!」
「はい!」

紅蓮弐式がゼロの指示で動き、離脱する。
ゼロに続く無頼が「いけるぞ俺達!!」と、勝利を確信する声を上げた。
ジェレミアがいた後方にはまだ敵がいる。残り2機だ。
行く先を阻むように銃を乱射してきて、ゼロ達はそばにある大きな岩にとっさに隠れた。

『か、カレンに戻ってきてもらった方が……』
「ダメだ!
今、配置を変えると作戦がくずれる!
空!
「は、はい!」

ルルーシュは苦しげな顔でモニターを見据えた。

「あれを驚かせろ。
相手が驚いたらすぐに外へ出るんだ」
「分かった!!」

空は低空飛行で風を切るように飛ぶ。
いつかテレビで見た、目では追えないスピードで獲物を狩る鳥のように。
目標へは数秒で到達した。
たとえ見えない相手だとしても、空は全力で驚かす気持ちでコクピットに侵入する。

「ばぁっ!!!!」

若い男だ。
どこかで見た顔だな、と思った途端、男が驚愕した。

「うわぁっ!? ゆ、ゆうれっ……!!」

怯えきった顔で操縦桿をがむしゃらに動かした。

『やめろ! こっちを撃つな!!』

覚えのある声に空はモニターを横目で見る。
ヴィレッタの顔と、撃たれて膝をつくサザーランドが映っていた。
ゼロの指示を思いだし、空はすぐに外へ出ようとする。
なぜかピタリと止まり、動けなくなった。

「イレブンの亡霊が!! き、消えろ!!」

錯乱した様子で拳をがむしゃらに振るうものの、当たらずにすり抜ける。
空は固定されたように身動きがとれず、まばたきもできないまま、コクピットが爆発するまで動けなかった。
解放された感覚をハッキリと感じて、爆煙を潜り抜けながら外に出る。
下半身だけ残ったサザーランドが、ガクンと地に膝をつく。
頭は真っ白になり、ルルーシュの所に戻りたいと無意識に思う。
すると、空が見る景色がパッと変わった。

「中で何があった?
すぐに外に出ろと言っただろう」

痛みを堪えるように顔を歪ませ、ルルーシュは無頼を操縦し、前進する。
同士討ちで戦闘不能になったサザーランドを越え、先へ進む。

「ごめんなさい……」

それだけ言って、空は黙る。
自分が自分じゃないみたいだった。どうして動けなかったのか分からない。
死ぬ間際の若い男の顔が、死んだ瞬間の光景が、記憶に焼き付いて鮮明に浮かぶ。
頭では分かっていた。これが『敵を確実に撃つ為の手段』ということも。
ルルーシュが勝つためには必要な方法だということも。
動かなかったらこちらが撃たれていたということも。
戦うことを自分で決めて、自分を使ってほしいとルルーシュに頼んだから、こうなった。
それを頭では分かっていたけど、平和な暮らしで育った心が悲鳴を上げている。

「必要になれば、今の方法で道を切り開く。障害を排除する。
一緒に戦わせてほしいと、自分を使えと、今も同じことが言えるか?」

淡々とした声でルルーシュは問いかける。
生身の肉体ならきっと吐いていたし、動揺と混乱で考える余裕が少しも無い。
『あれ』をまた見るのかと思えば震え上がるほど怖かった。
だけど、どうしてだろう。
逃げるという選択肢は全然浮かばなかった。

「コーネリアを捕まえるんでしょう?
その為に必要ならあたしは何だってやる」

ルルーシュはホッとしたように表情を和らげた。

「ありがとう。
勝つぞ、絶対に」
「うん!!」
『ゼロ! コーネリアが下から奇襲を受けたって!!』
「何!? どの班が動いた?」

カレンの通信にルルーシュの目の色が変わった。

『うちじゃなくて解放戦線らしい』
「……そうか。
カレン、我々は例のポイントへ向かう。コーネリアを叩くぞ!」
『はい!』

ゼロは他の無頼を引き連れ、目的の場所を目指して加速した。


 ***


岩壁に挟まれて通路のように一直線に伸びる地帯を、ナイトメアが1機だけ走っていた。
白いマントと、頭部には2本の大きな角。
ブリタニア帝国の紋章が刻まれたその機体の名前はグロースターで、コーネリアの乗るナイトメアだ。
壁の頂上で待ち伏せていた紅蓮弐式は、その場から飛び降りてグロースターの前に立ちはだかった。

「コーネリアッ!!」
「下種の分際で!!」

両機のナイトメアが同時に動く。
先にコーネリアが攻撃した。グロースターの槍が空気を裂いて紅蓮弐式を穿 うがとうとする。
跳躍してそれを避けた紅蓮弐式は、背後に回るように着地して間合いを詰める。
その動きをコーネリアは読んでいた。スラッシュハーケンを高くそびえる岩壁に突き刺し、紅蓮弐式の頭上を軽々と飛び越え、壁に張り付いた。
深々と刺さったスラッシュハーケンは簡単には抜けない。
グロースターは紅蓮弐式を見下ろしながら次の動きに備える。
それを許さないのはゼロだ。
壁の上から無頼の銃でスラッシュハーケンを撃ち、地面に落とす。
不意打ちだったが、グロースターは軽やかに着地して頭上を見上げる。
ゼロの無頼の後ろにいくつものナイトメアが控えていることをコーネリアは確認した。

「聞こえているかい? コーネリアよ。
既にチェックメイトだ」
「ゼロか?」
「ああ。再会を祝うべきかな?
しかし、その前に我々に投降して頂きたい。あなたには聞きたいこともあるしな。
ちなみに援軍は間に合わない。私の勝ちなんだよ、コーネリア」
「愚かなり、ゼロ!」

コーネリアは前方にいる紅蓮弐式を睨む。

「こいつさえ! こいつさえ倒せば活路は開く!!」

グロースターは左手の銃で紅蓮弐式を掃射する。
だが、右へ左へ跳躍して避けられ、銃弾は少しも当たらない。
間合いを詰め、紅蓮弐式は接近する。
グロースターは胸部のスラッシュハーケンで攻撃したものの、紅蓮弐式の短刀がそれを弾いた。

「器用なヤツだなッ!」

コーネリアは戸惑うことなく次の攻撃を繰り出す。
空気を裂く槍の突きを、紅蓮弐式は正面から掴んで止めた。
まばゆい赤色の閃光が走り、凄まじい熱が槍を膨らませ、蝕むように腕まで伸びる。
すぐにコーネリアは腕を切り離し、行き場を失った熱は両者の間で大きく爆発した。
コーネリアが間合いをとる時間をゼロは与えない。グロースターのもう片方の腕を銃で撃ち抜いた。
背後からの攻撃にグロースターは膝をつき、コーネリアの瞳が憤怒の色に染まる。

「卑怯者!! 後ろから撃つとは!」
「ほう……。
……ならお前達の作戦は卑怯ではないと?
投降しろ。それではもう戦えないだろう」

グロースターは沈黙した。
両腕を失ってなお、ゆっくりと立ち上がる。

「私は投降はせぬ。
皇女として、最後まで戦うのみ!!」
「フン。つまらん選択を────」

ルルーシュが勝利を確信した時、それは突然やって来た。
衝撃波が岩壁を粉砕し、無頼達の足場が崩壊する。
無頼達が地面に落ちたのと、白いナイトメアが姿を見せたのは、ほぼ同時だった。
空は身を乗り出し、ランスロットの登場に戦慄する。

「あれは……!!」
『おい、まさかあのナイトメア……!?』
「……ああ。
シンジュクやカワグチ湖にいた奴だ」

ルルーシュの瞳に憎しみが宿る。

「またか! またアイツが!!」

無頼がランスロットを撃つ。
弾を全て撃ち尽くす勢いだが、ランスロットはすかさず緑色のシールドを出し、全ての銃弾をはじいていく。
厄介な機能だ、とルルーシュは歯噛みする。

「紅蓮弐式は白兜を破壊しろ! こいつの突破力は邪魔だ!!
扇は紅蓮と共に行け!!」

ゼロの指示にカレンと扇はすぐに動いた。
紅蓮弐式とランスロットは激しい攻防を繰り広げながら離れていき、ゼロの視界から消える。
熾烈を極める戦いに、遠くで破壊音がいくつも聞こえてきた。

ランスロットと戦っている以上、紅蓮弐式は今のコーネリアの脅威ではない。
彼女は迷わずゼロに向かった。
スラッシュハーケンを伸ばし、無頼の持つ銃を破壊する。
ルルーシュは後退しながら、破壊音が聞こえなくなった事に気づく。
通信で扇に呼びかけた。

「扇、紅蓮は?」
「『右手が駄目だ。修理しないと……』」

輻射波動という切り札を失った以上、この戦いで勝てる見込みはなくなった。
悔しげに歯噛みし、ルルーシュは言う。

「退くぞ!!
全軍、脱出地点に移動させろ!
これ以上は消耗戦になる。撤退だ!!」

ルルーシュ自身も脱出地点を目指して走り出す。
コーネリアが追って来ない事に、空は安堵の息をホッと吐いた。

木々の連なりで森と化した斜面を下りていくルルーシュは、たった1機で脱出地点を目指していた。
指揮系統が崩れてしまった以上、コーネリアも撤退命令を出すだろうと結論づけたルルーシュは、急いでいても心にはまだ余裕があった。
森を走り抜けている途中、敵の接近を知らせるアラームが鳴る。
ルルーシュは背後から迫るランスロットの姿に気づいて背筋が凍った。

「怖っ!!!!」

耳元で叫ぶ空の言葉に、ルルーシュは全力で同意した。
脚を撃たれ、コクピットがガクンと揺れる。
無頼は大きく倒れ、ルルーシュの悲鳴を聞きながら、空の意識はグイッと引っ張られる。
景色が変わり、空は空に浮いていた。
地上にはランスロットと、倒れたコクピットから出てくるゼロが見える。
どうしてこんな所まで飛ばされたか分からなかったが、空はゼロの元へ行こうとした。
しかし、またしてもピタリと止まってしまう。
視線も地上に固定され、動けなかった。

ランスロットはライフルのような形状の武器を────銃口をゼロに突きつける。
ホテルジャック事件の8話で使ったやつだ!!と空は目を見開く。
スザクが撃つはずないと分かっていたけど、それを知っているのは自分だけだ。
空はルルーシュのそばに行きたいと必死に願う。
だけど景色は変わらなかった。

上空で空が動けないでいるのを知らないゼロは、ランスロットと対峙しながらも、アイツはどこに行ってしまったんだと心中穏やかではなかった。
銃口を突きつけられ、逃げる事も不可能。この白兜は少しの身動きも許さないだろう。
生身で向き合うと、化け物感がより一層増すな、とルルーシュは内心思った。
突然、森からC.C.が現れて、ルルーシュは驚きに目を剥く。

「やめろ! この男には手を出すな!!」

言いながら歩み寄り、C.C.はランスロットの脚に手を当てる。

「おい、何をする気だ!
相手はナイトメアだぞ!?」
「お前に死なれては困る。
間接接触だが、試す価値はある」

吹き荒れる風がC.C.の前髪をなびかせ、隠れていた額があらわになる。
ルルーシュがギアスを発動する際に出現する紋様が、彼女の額には大きく刻まれていた。
それが血のように赤々と輝き、まばゆい光はすぐに消える。
ランスロットは静止したまま動かず、
ゼロが早足でC.C.の元へ行った。

「おい、まさかパイロットにギアスを?」
「ショックイメージを見せているだけだ。何を見ているかは知らないがな。
それより逃げろ。今のうちだ」
「お前はどうする?」
「今は動けない。先に行け」
「冗談じゃない。
お前に借りを作ったままで……」

顔すら向けない事に苛立ち、ゼロは彼女の肩に手を置いた。
途端、異変が起きた。

「やめろ! 今は……!!」

C.C.の声が遠ざかり、ルルーシュの見ていた光景が全く違うものになった。
網膜に映像を直接投影されているように、世界が変わる。
どこかの教会だ。映像はあまり鮮明ではなく、灰色がかっている。
大勢の人間が石造りの建物に石を投げ、罵声を浴びせている。
また世界が変わった。
赤い鳥居をくぐり抜け、どこかの湖畔に出る。
次はどこかの戦場。こちらの映像も灰色で、廃墟と炎の中、制服を着た少女が悲痛な顔で泣いている。
少女は左目にギアスを発動させていた。

「なんだ、これは……!!」

次はどこか別の空間。
白に塗りつぶされた世界が果てまで続いて広がっていた。
耳障りな悲鳴が聞こえ、人の形をした闇が無数に歩いている。
気味の悪い行進だった。
人の負の感情を形にしたようなどす黒い煙が、世界を覆うように迫ってくる。
その中で誰かが絶叫している。

白昼夢から覚めたように、ルルーシュはハッと我に返った。
銃撃が鼓膜を震わせる。
頭上ではランスロットが地面を銃で乱射し、巻き上がる土埃がルルーシュの視界を遮った。
岩の塊や破片が大小と飛んでくる。
目の前で自分を守るように両腕を広げ、こっちを睨むC.C.だけがハッキリと見えた。

「馬鹿!! 早く逃げ────ァッ!!!」

倒れそうになったC.C.をゼロはとっさに支えた。
胸に鋭利な岩が刺さっていて、白い拘束衣にじわじわと血がにじみ出る。

「逃げるぞC.C.!!」

ふらふらとした足取りのC.C.に肩を貸し、ルルーシュは土埃の中を必死に歩く。
銃撃音が響く中、被害の及ばない場所まで何とか離れられた。

「くそ!! 何だあの白兜は!! めちゃくちゃに撃ちまくっている!!」
「ショックイメージが効いたようだな……。
それよりルルーシュ、空は今、どこにいる……。
一緒に……いたんじゃなかったのか……?」
「途中までは一緒だった。
いつの間にか消えていた。
どこに行ったんだアイツは……」

ルルーシュは歩きながら、ふと後ろを振り返る。
遠くにいる白兜はまだ撃ち続けていて、空から幽霊が白兜めがけて飛んでいくのが見えた。
何をやってるんだアイツは、とルルーシュは呆れたが、今は逃げることを優先した。

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