15-3

ルルーシュと二人きりで話したC.C.は、何を話したかは分からないけど別行動を取るそうだ。
無頼にルルーシュと乗り込み、騎士団のみんながいる地点に向かって下山する。
気になることがあって、あたしはすぐに口を開いた。

「ねぇルルーシュ。
この山に来た目的はハイキングって聞いたけど、本当にそうなの?」
「いいや。この地は間もなく戦場になる」
「あー……。
やっぱりそうなんだね……」
「このナリタ連山には日本解放戦線の本拠地がある。
そこをコーネリア率いるブリタニア軍が奇襲をかけるという情報が入ってきた」
「……どうしてそれをみんなに話さないの?」

銃を所持していたけど、山登りを楽しんでいるような空気だった。
いきなり軍と戦えなんて言われたらすごく戸惑うはずだ。

「事前に正直に話してみろ。怖じけづいて逃げる者が確実に出る。
戦力が減るのは避けたいんだ」
「いきなり戦えって言われてもすぐに動けないと思うんだけど……」

入団した人の中には、カレン達と違って戦いとは無縁だった人もいるはずだ。
そんな人が、戦場に放り込まれて冷静に動けるだろうか。

「戦いを知らない人間ってのは、窮地に立たされて初めて覚悟を決めるものなんだ。
だから俺はあえて言わない」
「窮地、か……」

確かにそうだ。
誰だって死にたくないから、全力で戦って生き抜こうとする。
ライオンが子を谷底に落とすみたいな感じか。
理解できるけどモヤモヤする。
あたしならちゃんと前もって言ってほしい。
入団したばかりの人達も、憧れだけで黒の騎士団に入ったわけじゃないはずだ。
説明だけ聞いて怖じけづく人はいないと思うけど……。
でも、これがルルーシュのやり方だ。
絶対に負けられない相手と、ルルーシュは戦っている。
勝つためには味方も利用して。
あたしに今できることは……

「……この戦いにあたしは使えないかな?
あたしは、敵を驚かせて怯ませたり、敵に見える人が誰もいなかったら相手の本陣に入って情報見まくったりできるよ!
それに、念じたらルルーシュのところに行ける!!
さっきはそうやってあそこに来たから」

ジッと見据えるルルーシュは真剣な顔をしている。
『敵に顔を見せるわけにはいかない。却下だ』なんて言われそうだ。
引くもんか。

「そんな駒がひとつはあってもいいと思うの。
一緒に戦わせてほしい。
あたしを使って、ルルーシュ」

返ってきたのは沈黙。
きっと彼の中には二つの考えがある。
ルルーシュとしての考えと、ゼロとしての考え。

「……使う、か。
その言い方は好ましくないな」

ルルーシュは右手を差し出す。
手のひらを上にして。

「協力してくれ。
勝利に導く女神として」

仮面を外していても、演技がかった口調はゼロみたいだ。
彼の出した答えに安心し、ホッとした笑みが浮かぶ。
ルルーシュの手に自分の手を乗せた。
すり抜けちゃうから乗せたつもりで。
触れることができないのは少し寂しいと思った。
細くて長い指が、あたしの手を握るように動く。

「この世界でそんな風に動けるヤツはお前しかいない。
俺を助けてくれ、空」

助けてくれ、なんて絶対言わなさそうなルルーシュが。
『あの』ルルーシュが。
そんなこと言われたら、どんな事をしても助けたくなるではないか。

「もちろん」

何でもできるような強さが湧き上がってくるように感じた。


 ***


作動する掘削機から大量の土が噴き出している。
温泉を掘るための装置らしいが、その目的のために使っているわけじゃないだろう。
ルルーシュはこれで何をするつもりなんだろう?

ゼロが集合をかけてくれたおかげでみんなと顔を合わせることができた。
時間が限られているため、近況を話すことは後にする。
扇さんはゼロに話があるらしく、みんなの輪から離脱していった。

「他の団員にはどう説明するの?」

離れた場所にいる新入りさん達をチラッと見て、井上さんは言う。
みんなは顔を曇らせた。

「あいつら、すぐに受け入れるとは思えないよなぁ……」

頼りになる兄貴みたいな吉田さんの言葉に、杉山さんは苦い顔をした。

「俺達でも最初は悲鳴を上げてたもんなぁ……」
「説得すれば大丈夫。
空はただ幽体離脱しているだけだって話せば、きっとみんな納得してくれるはずよ」
「透けてるだけだ。全然怖くない」

キリッとした顔で南さんは言う。
幽霊といった類いは信じてない人なんだろう。

「あ。そう言えばショウのヤツ、空のこと見えてなかったぜぇ」

軽いノリで言った玉城に、みんなの視線が集中した。

「え?! ちょっと待ってよ玉城!!
それ、いつの話!」
「ついさっきだよさっき。
空と喋ってたんだけどよ、何と話してるんですかってショウの野郎がよぉ、ビビりながら言っててよぉ。
なぁ空?」
「うん。みんなと違って見えない人もいるみたいなの。
体を通り抜けたけど全然驚いてなかった……」
「……それじゃあ、見える人が他にもいるか確認しに行きましょう。
空ちゃんの事を説明する役は必要だから、私が行くわ」
「あ、井上さん。私も一緒に行っていいですか?」
「オレもオレも!!
オレも一緒に行ってやるよ!!」

挙手する玉城にカレンは嫌そうに顔を歪めた。

「えー……玉城も来るの?」
「オレのどこか不満なんだよ!!」
「不満というよりも不安だ」

南さんの言葉に、井上さん達はうんうんとうなずいた。

「あたし、玉城にも来て欲しいな」
「「「「「ええぇッ?!!!」」」」」
「いぃよっしゃあぁあああ!!!」

玉城はガッツポーズでピョンと跳ねて喜んだ。
カレンが、本当にいいの?と言いたげな視線を向けてくる。

「うん!
見える人が怖がったとき、玉城なら面白くして空気を変えてくれると思うから」
「うぅう……っ!!
空だけだぜ!! オレの良いトコ分かってくれてるのはよォ!!」
「……空がそう言うなら分かったわ。
だけど絶対、ぜぇったい!! 『きのこ』はやっちゃダメだからね!」

やるわけない。やったら相手にとってはトラウマものだ。

その後、団員を全員見て回ったものの、あたしに気づく人はひとりもいなかった。
ゼロに報告に行こうとした時、その場が大きくざわついた。
みんなが同じ方向を見ている。
遠くには軍の飛行機がいくつも飛んでいて、たくさんのナイトメアが投下されていく。

「冗談じゃねぇぞゼロ!!
あんなのが来たんじゃ完全に包囲されちまう!
帰りの道だって……!!」
「もう封鎖されているな。
生き残るには、ここで戦争をするしかない」

ショウさん達だけじゃなく、井上さん達も顔色を変えた。

「戦争!? ブリタニアと!?」
「真っ正面から戦えってのか!?
囲まれてるのに!」
「しかも相手はコーネリアの軍!
今までとは違って大勢力だぞ!?」

動揺していないのは扇さんとカレンだけだ。この二人は知っていたんだろう。

「これで我々が勝ったら奇跡だな」

他人ごとのように言ったゼロに、扇さんは怒りをあらわにした。

「ゼロ! 今更……!」
救世主 メシアでさえ奇跡を起こさなければ認めてもらえなかった。
だとすれば、我々にも奇跡が必要だろう?」
「あのなぁ!
奇跡は安売りなんかしてねーんだよっ!!
やっぱりお前にリーダーは無理だ! オレこそが……!」

玉城は肩に担ぐように持っていた銃を下ろそうとする。
それより先にゼロが拳銃を出した。
銃口を玉城に向け、みんなの体が緊張で強張る。
撃つわけないと知っているのに固唾を呑んでしまう。
全員が絶句する中、ゼロは拳銃をくるっと反転させた。
手渡すように玉城に差し出す。

「すでに退路は断たれた!!
この私抜きで勝てると思うのなら、誰でもいい、私を撃て!」

玉城は口をあんぐりさせる。みんなもそうだ。
喋る人も、撃とうとする人もこの場にはいない。

「黒の騎士団に参加したからには選択肢は二つしかない。
私と生きるか、私と死ぬかだ!」

圧倒されてみんなはひと言も喋らない。
ゼロは小さく笑った。

「どうした?
私に挑み、倒してみろ」

『私を撃て』というゼロなりの覚悟を見せられ、みんなの顔つきが変わった。

「……ケッ、好きにしろよ!」
「ああ。あんたがリーダーだ」
「ありがとう。感謝する」

満足そうな声。
仮面に隠れて表情は見えないけど、ルルーシュが今どんな顔をしているかは簡単に想像できた。

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