14-3

クラブハウスには広いダンスホールがある。
華やかに飾り付けされた会場には、普段と違う自分の姿を撮ろうと足を運ぶ生徒が大勢いて、とても賑やかだった。

生徒会メンバー全員の前で、男子の制服を着た女子生徒がビシッと敬礼する。
彼女の紅茶色のおさげが元気よく跳ねた。

「生徒会様の写真撮影を担当します。
高等部写真部一年、リディス・クラメントでございます。
どうぞよろしくお願いします」

ミレイは羽根飾りのついた帽子をクルクル回し、自身の頭に乗せてから言う。

「そんなに緊張するなって。
もう少しリラックスしたほうがいいぜ?」

男らしい口調だ。
まだ生徒会の『真・男女逆転祭り』は続いている。

「いいえ!
常に緊張感を持って仕事に取り組むのがわたくしのポリシーですので!」

喋りながらテキパキと撮影の準備を進めていくリディスに、ナナリーはキラキラした笑みを浮かべた。

「リディスさんは、ご自分の仕事に誇りを持っているのですね!」
「女の子に戻ってるよ、ナナリー」

空のやんわりした低い声にナナリーはポッと顔を赤らめる。

「ご、ごめん空さんっ」
「やぁぁん空男ったらかっこいいぃ〜!!」

スザ子は空にドーンと体当たりし、きゃぴきゃぴウフウフ笑った。

「男らしさダントツよ!
ステキすぎてアタシ痺れちゃうぅう〜!!」

スザ子は超絶笑顔でうねうねと体をくねらせる。
空はドン引きして顔をひきつらせたが、気を引きしめるように背筋をシャキッと正す。

「ありがとう。笑顔のキミも麗しいよ」

すごい無理して頑張って言ってみれば、更にスザ子を喜ばせた。

「やぁぁんステキ!
アタシの騎士サマになってぇ〜!!」

抱きつこうとしたスザ子から空を守ったのは、青筋立てて微笑むルルーシュだった。
 
「スザ子! 庶民のアナタに空男は相応しくなくてよ!!」

シンデレラに出てくる意地悪い義理の姉を思わせる甲高い声だ。
スザ子はフンと鼻を鳴らし、挑発するような笑みを浮かべた。

「アラ。相応しいかどうかはルル子じゃなくて空男が決めることじゃぁあなくってぇえ?
これだから世間を知らない箱入りのお嬢サマは」
「あら! じゃあアナタは世間の何を知っていると言うのかしら!!」

ヒートアップするスザ子とルル子の言い争いに、興味を持った生徒達がなんだなんだと集まってくる。
生徒会メンバーは観戦するだけでルル子とスザ子を止めようともしない。
呆れた様子の空もその一人だ。
リディスだけがどうしたらいいか分からずにオロオロしていて、彼女の戸惑いをナナリーは素早く感じ取る。

「お兄さま、スザクさんっ。
そろそろ写真を撮りましょう!」

毅然と声をかけるナナリーに、ルルーシュとスザクは申し訳なく思って静かになった。


 ***


男女逆転祭りは参加者全員が笑顔のまま幕を閉じた。
生徒会が終わり、スザクともさよならした後、空とルルーシュはキッチンで夕食の準備にとりかかった。

「現像した写真っていつ頃もらえるんだっけ?」
「一週間あれば生徒会室に届くと聞いたが、もっとかかるだろうな。
なにせ、ほぼ全校生徒が写真を撮りに行っていたからな」

女装男装が入り乱れた賑やかな撮影会場を思い出し、空は楽しそうに笑う。

「そうだよね。
すごかったもんね、男女逆転祭り。
写真届くのは一週間後かぁ……」

どう写ってたか見たかったのになぁ、と
空は考え、小さなため息をそっとこぼす。

「写真ならあるぞ」
「え。ほんと?」

空の驚く顔にルルーシュは得意そうに笑い、ポケットから写真を数枚出した。
渡されたものをギョッとした目で空は見る。

「こ、これいつの間に撮ったの?」

小さなポラロイド写真だ。
1枚目は、ルル子とスザ子が火花を散らして対峙している写真。
2枚目は呆れた眼差しで二人を眺める空と楽しそうに観戦する生徒会メンバーの写真。
3枚目は、スザ子に解放された後、ルルーシュのカツラを空が直している写真。

「リディスの姉を名乗る生徒から渡された。
楽しそうだったから撮らせてもらったそうだ」
「へぇ。
あの子、お姉さんがいたんだぁ」

お礼を言いたくなるほど、全ての写真がキレイに撮られていた。

「その4枚は全部……その、お前が持っておけ」

目をそらし、ルルーシュは照れたように言う。

「4枚あるの?」

3枚目の下にさらに写真が隠れていることに気づき、それを見た空は大きく目を見開いた。

「これも撮ったんだ……!」

ルルーシュのカツラを直したすぐ後のこと、リヴァルの詰め物がボロボロこぼれ落ち、スザ子が『スザク』として我に返って慌てた時だ。
この写真には、咳き込んで涙が出るほど笑っている自分と、自分を見つめるルルーシュが写っている。
眼差しは慈愛に満ちてとても優しい。
こんな目で見てくれていたんだ、と胸が強く高鳴った。
ひとつの大きな気持ちが強烈にこみ上げ、溢れそうになる。
泣きたくてたまらなくなる。
嬉しいと、頭ではなく心が感じた。

「これ、ホントにもらっていいの?」
「ああ」
「写真、部屋に置いてくるねっ」

空はルルーシュの顔を見られなくて、背を向けて歩き出す。

これ以上、好きになったらダメだと自分自身に言い聞かせ、芽生えた気持ちを否定した。
気持ちを切り替えられたと思っていた。
だけど違う。
心の奥底に押し込めていただけだ。
強烈にこみ上げた気持ちが、涙として溢れる。

ルルーシュが好きだ。
好きだと思うだけで涙が出ることに、空は生まれて初めて気づいた。

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