12-3

落ちていく。
ゆっくり、ゆっくりと。

意識が途切れてすぐ、あたしは引っ張られるままに、終わりのない空間を落ちていた。

自分の瞳が別の誰かの瞳になったように、景色が次々と切り替わっていく。
淡い色の空。ふたつ並ぶ影。濡れた地面。きつく輝く太陽。
流れていく雲。いくつも降る星。ふわりと落ちる雪。沈んでいく月。
激しい風に揺れる木々。星の無い夜。握る一輪の花。森を抜けて現れる湖。馬に乗って駆ける草原。
吐いた血で汚れる手。骨を拾う手。死体を重々しく引きずる手。
砂漠。海。山。街。大きな城。小さな村。全てが異国の景色。
押し寄せる民衆がいた。剣を振り上げる王がいた。
そして、次に現れたのは誰かの姿。
アルバムのページをめくるように切り替わっていく。
たくさんの人が、みんな幸せそうな穏やかな顔で笑っている。
知らない人ばかり延々と続いていたのに、いきなりC.C.が出てきてギョッとした。
子どもみたいに無邪気に笑っている。
え!?と思ったら、別の人間に────栗色の長髪と藤色の瞳のイケメンになり、次々と他の人間に切り替わっていく。
C.C.が出たのは一瞬だった。見間違いかと思ってしまうほどに。
そして、最後に出たのはブリタニア皇帝だった。
え!!!?と驚いたら、パッと消えてなくなった。
いまのは何だったんだと疑問に思う間もなく、今度は音が聞こえてくる。
自分の耳が、別の誰かの耳になったように、様々な音を拾っていく。
たくさんの声と音が、がやがやとひとつになってすごくうるさい。
無理やりねじ込むように耳を通り、刺すようにガンガン響く。
頭が割れるのではと思うほどの大音量だった。

次は、自分のものじゃない感情が、濁流のように入り込んできた。
子どもがドリンクバーでコップに色んな飲み物を入れて遊ぶように、あたしの心に別の何かで混ざっていく。
叫びたいのに声が出ない。
ひたすら落ちていけば、入り込んできたものが自分の中から抜けていった。

「それが『観察者』の記憶だよ。
キミも心は強いみたいだね。
何体目だったかなぁ?
……そうだ、確か前の前の前の前の子だ。
その子はキミと違って受けとめる事が出来なくて狂ったんだよねぇ」

耳元で囁く幼い声。いつものあの子のだ。

「キミはみなければならない。ボクのために」

みなければならない?
なに? どういうこと?

あの子の声が聞こえなくなり、意味が分からないまま、落下は突然終わった。
頭から落ちていたのが、くるんと勝手に反転して足が下になる。
地面が確認できた。ふわりと音もなく着地する。

ここはどこだ?

周りを見る。
どこかの港で、夜で薄暗い。
ライトアップされてまぶしい租界が遠くにある。
かたわらには巨大な倉庫。
ここは本当にどこだろう?

身体は透けていて、前に見た海の夢と同じみたいだ。
でも、なぜだろう。すごく怖い。
死ぬほど怖いお化け屋敷でひとり歩くように心細い。誰でもいいから人がいる所に行きたい。
前へ進んでいけば人の姿が確認できた。
だんだん近づき見えてきたのは、黒ずくめの凛とした立ち姿。
もう大丈夫だと、心の底からホッとした。

「ゼロぉぉぉぉ!!!」

仮面がこちらを向き、

「ほわぁあ!!!」

すごい声で驚かれた。
進めば止まらない。あたしはそのまま飛び込んだ。

「うわぁああああん!! 怖かったよぉおおう!!!」

抱きつこうとして、できなかった。
そういえばあたし幽霊だった。
ゼロがバッと振り返る。

「お、おまっ、なんだその体は!?」

めちゃくちゃ動揺してる。
ルルーシュが初めてランスロットに遭遇した時の『なんだあの化け物は!?』みたいな声だ。
バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。
扇さん達が走ってこっちに来た。

「どうしたゼロ!! 何かトラブルか!?」
「何も無い!! こっちに来るなッ!!」

制止の声を上げるが、扇さん達はゼロの後ろにいるあたしをバッチリ見た。


 ***


これは、常識では考えられないアンビリバボーな出来事だろう。
あたしだってみんなの立場なら、きっと穴が空くほどジーッと見つめてしまう。
だけど、ぐるりと囲まれて凝視されるのはさすがに居心地が悪い。
ナイトメアを降りたカレンは複雑そうな顔をしていた。
あんな別れ方をしたから仕方ない。
『5分だ。5分後には作戦を決行するぞ』と言い、ゼロは離れた場所にひとりで行った。
今のあたしがどうなっているか、電話で確認するそうだ。

「みんなはどうしてここに?」
「……あ、ああ。
リフレインっていう麻薬がここの工場で秘密裏に製造されていてな。
襲撃をかけるところだったんだ」
「まさかここに空ちゃんがいるなんて……。
……信じられないわ。私たち、夢を見てるわけじゃないわよね?」

と、井上さん。

「死んでる、わけないよな……」

と、扇さん。

「死んでるわけないだろう」

と、少し怒りながら南さん。

「だから今それをゼロが確認しているんだって」

と、たしなめるように杉山さん。

「ゼロのやつ、いつの間に番号交換してたんだ……」

と、吉田さん。
玉城がドンと胸を張る。

「よォし空!!
オレの胸にドーンしろ、ドーン!!」

一瞬どうしようかなと悩んだが。

「うん分かった! ドーン!!」

一回やってみたくて、玉城の胸めがけて飛び込んだ。
スポーンとすり抜け、悲鳴や驚きの声が上がった。

「気持ちの切り替えが早いわね……」

と、カレンが呆れた声で言った。
早足でゼロが戻ってくる。

「おい、お前達何をしている」
「ゼロゼロ、見てー」

楽しくなってきて、あたしは玉城の胸に首を生やすように頭を出した。

「きのこ」
「バカかお前はッ!!」

せっかくの一発芸をゼロは一蹴した。

「ひどいッ!!
場の空気を和ませようとしてるのに!」

きのこを止め、玉城から離れる。
ゼロは疲れたようにため息を吐き、「全然和まないからな」と冷たく言った。

「ゼロ、確認できたか?」
「ああ。ぐっすり眠っているらしい」

その言葉にみんながホッとする。
あたしも安心した。

「よかった。それじゃあ、ただの幽体離脱だね」
「幽体離脱!? 絶対違うわよ!!
だって幽体離脱って言ったら肉体から少し離れる程度でしょ!?
ここから学校までどれだけの距離があると思ってるのよ!!」
「カレン、落ち着け」

扇さんは静かに言った。

「パニックになる気持ちも分かる。
だけど、一番不安なのは彼女だ」

その言葉に思い出した。
自分には聴覚と視覚しか働いていないことを。
誰にも触れられなくて、匂いも分からなくて、何も飲めないし食べられなくて、全然人間らしくない。
だんだん不安になってくる。
カレンは泣きそうな顔であたしを見た。

「ご、ごめん……!!
そうよね、空が一番不安よね。
ごめんなさい。私だけ取り乱しちゃって……」

気まずい空気で、場がシンと静まり返る。
玉城がドンと胸を張った。

「おい空! あれやってくれ!!」

唐突なお願いに笑いが込み上げた。
心が軽くなる。不安が消える。
すごいなぁ玉城は。
目の前にいるだけで、大丈夫だと思えるんだから。
流れるように玉城の背後に回る。
玉城の胸に首を生やすように、ヌッと頭を出した。

「きのこ」
「ば、バカじゃないのアンタッ!!!!」

目に涙を浮かべたカレンが鬼のような顔で怒鳴った。怖ッ!!
怖すぎて玉城から秒で離れる。

「ごめんなさい!!」
「……はぁ。
いいわよ、別に。
幽体離脱しても元気そうだから」

ゼロが携帯をチラッと見る。

「……5分経った。
作戦を開始するぞ」
「はぁあ!? ゼロ、おまっ、鬼か!?
空がこんなになってるってのによぉ!!」
「ここに来た目的を忘れるな。
襲撃が失敗すれば、今以上にリフレインが蔓延するぞ」
「俺もゼロと同じ意見だ。
彼女を放置するわけにもいかないが、先にやるべき事を終わらせよう」
「南さん……。
……そうですね。」

カレンはうなずき、玉城は仕方ねぇなーと頭をかく。
みんなの顔が覚悟を決めた真剣な表情になった。

「ねぇゼロ。あたしにも何か出来ないかな?」

ゼロが顔を向ける。
喋らないけど、続きを促すようにジッと見つめてきた。

「この体なら建物をすり抜けられるし、身軽に動けると思うんだ」
「……確かに、その状態は生身の人間よりも動きやすいだろう。
しかし、顔を隠せないのは致命的だ。
カレンと一緒にナイトメアに乗っていてくれ」

カレンの顔が『え!? 空と乗るの!?』みたいな顔になった。仕方ない反応だ。
「頼んだぞ、カレン」とゼロに言われ、カレンは渋々といった感じで「……分かりました」と返事した。

突入地点のシャッターの前にみんな移動し、カレンもナイトメアに搭乗する。
あたしもすり抜けて乗り込んだ。
ひと二人だとさすがに狭い。背後霊みたいにカレンの後ろに居座る。
カレンがチラッとこちらを見て、物言いたそうな顔で、だけど何も言わずに前を向く。
すごく気まずい空気だ。喋る気持ちにならなかった。

シャッターの前に立ち、みんなが一斉に撃ちまくる。
分厚そうなシャッターが痛々しいほどの蜂の巣になり、蹴りを入れたら人が通れる大きさの穴が空いた。
みんなは銃を構え、間髪入れずに撃ちまくる。
激しい威嚇射撃だ。中にいる人間はすぐに逃げるだろう。
みんなが撃ちまくる間、カレンはナイトメアを操縦して工場内に突入する。
中にいる人達は、こっちを見るなり悪どい顔をサッと青ざめさせ、一目散に逃げていく。

「……やっぱりナイトメアはすごい。
一機あるだけで圧倒的……」

カレンは感心するように呟いた。
工場の人達は奥へ逃げ、カレンはそれを追いかける。
これ以上先へは行かせないと言わんばかりに、目の前でシャッターが降りていく。
ナイトメアはそのままスピードを落とさず、降りたシャッターに突っ込んだ。
バリバリィッと突き破って暗いところに出て、カレンは急ブレーキをかけて動きを止める。
操縦席のモニターにパッと映し出されたのは、十数人もの人間だった。
工場にいた悪どい顔の人達じゃない。見て分かるほどの一般人。
ナイトメアが突入したのに、誰もこちらを見ようとしない。
モニターの映像が切り替わり、映っている人達が拡大される。
聞こえる声は、どれも楽しそうで嬉しそうだ。

「なにこれ……」
「……これがリフレインを使った人間よ。
昔に戻ったような錯覚を抱くの」

だからみんな幸せそうなのか。
目の前の光景にゾッとした。

「ほらほら。走ったら危ないわよ」

イノリさんの声が聞こえて、一瞬耳を疑った。
モニターがパッと切り替わり、イノリさんが目の前をふらふらと歩いていくのが見える。

「お母さん……!?」
「どうしてここに……」

つまずいて転びそうになったけど、カレンがすかさず操縦桿を動かした。
ナイスキャッチでホッとする。
そして、ナイトメアとは思えない人間らしい優しい手つきで座らせた。
イノリさんはこっちを少しも見ない。

「こらナオト!
ちゃんとカレンのこと見ててあげなきゃダメでしょ」

誰もいないところに向けてイノリさんは言う。
リフレインをどれだけ使えばこうなってしまうのか。
操縦桿を握るカレンの手がミシッと音を立てた。

「あなたって女はどれだけ弱いの……!
ブリタニアにすがって、男にすがって、今度は薬?
お兄ちゃんはもういないんだよ……!!」

吐き出すように呟いた途端、機体が横に大きく揺らいだ。
カレンがナイトメアを動かせば、白いナイトメアが銃を向けているのが見えた。

「ナイトポリス!?」
「ポリス……ってあれ警察!?」

今の強い揺れは撃たれたせいか!
また撃ってきて、カレンはナイトメアを走らせてそれを避けた。
工場の通路はナイトメアが走り回れるほど広い。
手の中にはまだイノリさんがいる。大きな手だから落ちる心配は無さそうだ。
激しい銃撃音が追いかけてくるけど、カレンはジグザグに進みながら全部避けていく。
走りながら振り向き、カレンも銃で撃ち返すけど当たらない。

「カレン! あたし、ナイトポリスの邪魔してくるね!!」
「え!? ちょっ!!」

コックピットをすり抜け、バッと外に出る。
すぐ後ろを追いかけるナイトポリスめがけて、ギュンと風を切って移動する。
コックピットは、カレンのナイトメアと同じ位置にあるはずだ。
ナイトポリスの胸部へ潜り込んですり抜け、コックピットの中にヌッと顔を出す。
キスするぐらいの至近距離に警察っぽい制服を着た男がいた。

「ぎゃわぁああああ!!」

『なんでアンタが驚くの!?』とカレンのツッコミが聞こえた気がした。
絶叫したのに男の表情はぴくりとも動かない。
正面を向いているのに、あたしをちっとも見なかった。

「ちょっと!! 幽霊だよ!! 幽霊が来たんだよ!!」

って言っても、男の表情は変わらない。
ゲームセンターに長年通いつめたゲーマーのような手さばきで操縦桿を動かしている。
顔にパンチして、体に頭を突っ込んでも悲鳴すら上げない。
舌打ちし、すり抜けてコックピットを出た。
見える人とそうじゃない人がいるんだ……!!
頭上までふわりと舞い上がる。
カレンの乗ったナイトメアは倒れ、銃で一方的に撃たれている。
動けるのに、見ている事しか出来ないなんて!!

『キミはみなければならない。ボクのために』

ふと思い出した。
そうか。あの子の言ってたのはこういう事か。
ナイトポリスは全弾撃ちつくした銃を捨て、カレンのナイトメアへ歩いていく。
脚を撃たれたのか、イノリさんをかばっているのか、ナイトメアは立てずに動けないままだった。
そばにはイノリさんが、呆然とした顔でナイトメアを見つめている。
ぐんと急降下し、イノリさんの元まで行く。
離れた場所まで連れていきたいと思ったけど、こちらに目を向けてくれなかった。
リフレインのせいか、それともナイトポリスの男と同じで見えないのか。

「イノリさん!!」

そばで声を張り上げても、イノリさんの目はナイトメアに向いたままだ。
ぼんやりしていた顔が、やわらかい笑みになる。

「いるから。ずっとそばにいるから。
カレン、そばにいるからね」

語りかける瞳は虚ろじゃない。
子を愛しく思うお母さんのまなざしだった。
後ろで、金属と金属がぶつかる音がする。
コックピットをナイフで刺そうとするナイトポリスを、カレンが蹴って反撃したところだった。
怯んだナイトポリスはナイフを降り下ろそうとしたけど、カレンのほうが速い。
蹴りあげた足がナイトポリスの腕を押し止める。
カレンはスラッシュハーケンを右奥の棚めがけて発射する。
ナイトポリス共々あそこに突っ込むんだと気づき、イノリさんがそばにいることを思い出した。
イノリさんを避難させないと。

「イノリさん!! こっち!!」

また見てくれないのでは、という恐れがあったけど、イノリさんの目はあたしをとらえた。
誘導すれば、ふらふらと追いかけてくる。
カレンのナイトメアが動いたのはすぐだった。
上にナイトポリスを乗せたまま、滑るように走って棚へと突っ込む。
身がすくむような衝突音が響き、動かなくなった。
工場内が静まり返る。
ナイトポリスのコクピックはひしゃげていた。
イノリさんは糸が切れたようにストンと座り込む。
虚ろな目で、もうあたしを見てくれない。

「カレン、無事か!!」

奥の棚から続々と扇さん達が出てきて、カレンの方へ行く。
ただ一人、ゼロだけがこっちを目指して走って来た。
着くなり口を開く。

「飛び回っていたな。ナイトメアに乗っていろと言ったはずだ。
他のやつに見られていたらどうする。顔を見られれば、その分お前が危険に晒される」

仮面で顔は見えないけど、怒りと呆れで声は低い。
ナイトポリスの男はあたしが見えなかったからまだ良かったけど、それはただの結果だ。
勝手に行動して、ルルーシュに迷惑をかけるところだった。

「ごめんなさい……」

ゼロはわずかにうつむき、小さくため息をこぼし、改めてあたしを見た。

「……だが、あのナイトポリスを操縦していたヤツには見えなかったようだな」
「う、うん!! そうだけど……」

なんで分かるの!? エスパーか!!

「……なんで見えてないって分かるの?」
「もし見えていたら、お前がコクピットに入った時点でまともに操縦できなくなるだろう。
ナイトポリスはずっとカレンのナイトメアを攻撃していた。
誰でも見えるわけじゃない。ただの幽体離脱とは違うみたいだな」

ナイトメアを降りたカレンが、イノリさんのところにまっすぐ駆け寄ってきた。

「お母さん!!
ごめんなさい! 私、私……っ!」

カレンがそばにいるのに、イノリさんの目はぼんやりと遠くを見ている。

「……良かったねぇ、カレン。
お前はブリタニア人になれるんだよ。
そうなれば、もう殴られることもない。
電話だって旅行だって、自由にできるんだよ」

伸ばそうとした手を、カレンは力なく下ろす。
かける言葉が出てこない。それはゼロも同じだった。
離れた場所で扇さん達が苦しそうな顔で見守っている。
カレンは地に膝をつき、イノリさんに体を寄せ、ヒョイッと軽々抱き上げた。

「行きましょう、ゼロ。
早く安全な所へ」
「ああ。
逃走用のルートはこちらだ」

マントをバサッとひるがえし、ゼロは歩き出す。
みんなも駆け足でゼロを追いかけ、カレンも続く。
彼女の斜め後ろをついていけば、あたしのほうを一度だけ見る。
カレンの歩調がゆっくりになり、隣に並んでくれた。
一緒に歩いてくれると思わなかったから驚いた。

「なんて顔してるのよ」
「だって……」
「ありがとう、空。
お母さんと私のこと助けてくれて」

今にもこぼれそうなほど目に涙をため、カレンは笑う。
安心して、あたしも泣きそうになった。

「うん」

急に眠くなり、ぐいぐい引っ張られる感覚に襲われる。
これで終わりみたいだ。
強い引力に意識を委ねれば、ぐいっと引っ張られて目の前が真っ暗になる。
今まで何も感じなかったのに、ベッドの柔らかさを背中に感じた。
パチッと目覚めてすぐに周りを見る。
サイドテーブルで頬杖をつくC.C.と目があった。

「おはよう、空。
時間はもう夜だがな」

体を起こし、背筋をうんと伸ばす。
一晩しっかり寝たように体が軽い。

「電話で聞いたぞ。
ルルーシュのところに行っていたな?」
「うん。
さっき確認の電話、相手はやっぱりC.C.だったんだね」
「ああ。珍しく慌てた声をしていたぞ。
まぁ、仕方ない。あれには誰だってひどく驚く」

笑うC.C.にキョトンとする。
幽霊状態を以前見たことがあるような言い方だった。

「……どうした? 変な顔をして」
「C.C.は前に見たことあるの?
あたしみたいに幽体離脱した人」

言った途端、C.C.の表情がギクリと固くなった。
ピルルルルルルル、と電話の音が聞こえ、C.C.は携帯を取り出し、操作して耳に当てる。

「私だ。
……ああ。空は今起きたところだぞ」

C.C.はあたし以外で幽体離脱できる人を知っている感じだ。
でも、詳細は聞かないほうがいいだろう。
彼女の固い表情に、聞いちゃいけないと思ってしまった。

ルルーシュが部屋に帰ってきたのは2時間後で、あたしを見るなりホッと表情を和らげる。

「遅かったな、ルルーシュ」
「ルルーシュ、おかえりなさい」
「ああ。
驚いたぞ。いつの間にか消えていたからな」
「何も言わずにいなくなってごめんね……。
……あの後カレンは……カレンのお母さんはどうなったの?」
「病院だ。
その後は……リフレインを使った人間はブリタニア人だろうが日本人だろうが裁かれる」

あたしの世界と同じで、人種関係なく罰される。
でも、『日本人だから』という理由で、ブリタニア人よりも重い刑を科されるのだろうか?
カレンの事を思うと苦しくなった。
考えてもどうにもならない。ナナリーに気づかれないように、今のうちに振り払っておかないと。

「……カレンの母親も、空が見えていたな。
あれは何だったんだ」

すごい真顔で聞いてくるけど、うまく説明できる自信がない。
ルルーシュは諦めたような顔で視線を外した。

「後でゆっくり話すぞ。
まずはナナリーとの夕食を先にしないとな」

時計を見る。
ナナリーの元に早く行ってあげなきゃ、と思ってしまう時間だった。


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