11-5

感覚が戻り、まぶたを開けば、顔を覗きこむC.C.と目が合った。

「……C.C.? どうしてここに?」

ベッドに腰掛けていて、空の頭を撫でている。

「私にできることを探していた。
悲しい夢でも見たか? 泣いていたぞ」

C.C.に言われて、自分の頬が濡れていることに気づいた。

「……ううん、違う。
悲しくて泣いたんじゃないの」

『あなたはあなたのままです。だから恐れないでください』

『いるわ。
空が抱えてること、受け入れてくれる人が』


ユフィとカレンの言葉がよみがえる。
話せるわけないと思っていた気持ちに、今は少しもならなかった。
体を起こしてC.C.の目を真っ直ぐ見つめる。

「話があるの」
「なんだ?」
「ホテルジャックの時に、あたしは14発撃たれたんだ」
「14発、だと?」

ルルーシュから詳細を聞かされていなかったようだ。
C.C.は痛みを堪えるように眉を寄せた。
上に着ているものを全部脱ぎ、カムフラージュのために巻いていた包帯も取り、背中を向ける。

「撃たれたけど、でも、その傷はもう治っていた。
今日もね、生徒会で飼ってる猫に手を引っ掻かれたけど、でも数分後にはその傷も消えていた。すごく深くて血が止まらないほどの傷だったのに。
あたし、いつの間にかこんな風になっていた」

C.C.は何も言わない。
だけど彼女の息づかいで、すごく動揺しているんだと分かった。

「……空。
お前はそれを、お前は今までずっと独りで抱えていたのか?」
「うん。言いたくなかったの。
気持ち悪いって、怖いって思ったから」
「すまない」

血を吐くような声に空は悲しそうに眉を寄せた。

「どうしてC.C.が謝るの」
「気づいてやれなかったからだ」
「だって……だってそんなの、あたし言わなかったもん」
「違う」

C.C.はすかさず否定する。

「気づくことができたはずなんだ。
知っていたんだ、私は。
ずっとつきまとう不安も、蝕むような恐怖も、誰にも言えない辛さも、潰れてしまいそうな悲しみも、全部だ。
嫌というほど知っている。
ひとりきりの孤独を、私は」

空は絶句した。
言葉が喉で詰まって出てこない。
アニメでも明かされていないC.C.の一面を聞き、目に熱いものが浮かんだ。

「いつからC.C.はそうなったの……?」
「ずっと、ずっと昔だ」

目を伏せるC.C.に空は何も言えなくなる。
自分が思う以上に重くて途方もないものを背負っている事に気づいた。
誰にも言えない孤独を、C.C.は今も感じているのだろうか?

「……それじゃあ、あたしもC.C.も、ひとりきりじゃないね」

脱いだ服を着る。
夢の中でユフィがやってくれたように、空もC.C.の手を握った。

「もう怖くないのか?」
「ううん。まだ怖いよ。
どうしてこうなったのか、原因が分からないから。
でもね、ルルーシュとC.C.とみんながいるから大丈夫だって思えるんだ」
「……そうか。
怖くても、大丈夫だと思えるのか」

C.C.は空を見て、泣くのを堪えるような顔で微笑んだ。


 ***


時刻はもう夜の9時だ。
遅い晩ご飯をルルーシュが用意して、久しぶりに感じる空腹に空は弾む足取りでダイニングに行く。

「空さん、お帰りなさい」
「ただいま、ナナリー」

ずっとずっと言いたかった言葉だ。
空の目に安堵の涙が浮かぶ。
テーブルに置かれた料理はどれも大好物で、喜びに顔がほころんだ。
空が席に座ったのを確認してからルルーシュも向かい側に座る。

「食べれる分だけ食べろよ」

ぎこちない声だが、ルルーシュは空の目を見て言った。
いただきますの声と共に食べ始めて、驚く早さで皿がきれいになっていく。
今まで食欲がなかった反動か、とルルーシュは驚愕の顔で空を凝視する。
テーブルの上の料理を全て完食した後、空はきらきらした目で言った。

「ルルーシュ、おかわりある?」
「……あ、ああ」

戸惑い唖然としているルルーシュに空はハッとする。
自分はもう大丈夫だという事を伝えられていないのを思い出した。

「ねぇルルーシュ。
大きく変わったところはあるけど、あたしはあたしのままだから」

空は明るく笑う。
それは、ルルーシュがずっと見たいと思っていた表情だった。

「だから、あたしはもう大丈夫だよ」

ルルーシュは席を立つ。

「空、ちょっといいか?」
「ん? なに?」
「すまない、ナナリー。
少し席を外す」
「はい、お兄さま」

空が不思議そうに首を傾げる中、ルルーシュは出入り口のところまで歩き、空に手招きする。

「来てくれ」

真剣な面持ちだ。
空は慌てて席を立ち、廊下へ出るルルーシュの後を追いかける。
何を言われるんだろう……そんな不安を抱くが、ルルーシュと向き合わなければと思ってついていく。

「……どこ行くの?」

空の疑問にルルーシュは答えず、隣の部屋の扉を開ける。

「入ってくれ」

ルルーシュが何を考えているのか分からなくて、空は渋い顔で部屋に入った。
中は使われていないゲストルームで、ルルーシュは扉を閉めながら呟いた。

「ここならC.C.も入ってこないだろう」

2人きりの密室に、ルルーシュをジッと見つめる空はガチガチに緊張している。

「力を抜け」

肩をポンポンするルルーシュの手はとても優しかった。

「自分は自分のままだからもう大丈夫と言ったが、なに勝手に自己完結している」

怒った口調に空は悲しくなった。

「自己完結って……そんな言い方……」
「終わらせるな。
俺はまだお前に何も言えてないんだ」
「……え?」

思いもしなかった言葉に空は目を丸くした。
 
「俺は何も言えなかった。
かける言葉が出てこなくて、お前をひどく苦しませてしまった。
……背中を向けろ」

空は頷き、ルルーシュに背を向ける。

「あの時もそうだ。俺は戸惑ってしまった。
生きていることよりも、死んでいないことに重きを置いてしまった」

ルルーシュは空を背中から抱き締めた。
声すら出なくて、驚きの目を後ろに向ける。

「ひとりにしてすまなかった」

ルルーシュの顔が涙でぼやけた。
バッと前を向き、声を抑えようと唇を噛んでも、嗚咽 おえつは小さく漏れてしまう。

「泣け。俺がそばにいる」

その言葉に涙が溢れた。
悲しくないのに止まらなかった。


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