11-4
地平線まで草原が続き、空は澄んだ色で晴れ渡っている。
どこだここ?と空は目を丸くした。
葉っぱの一枚一枚が風で踊り、今までの夢と違う不思議な空間に立っている。
「オニキス?」
覚えのある声が後ろから聞こえた。
振り向けば、アニメ5話の私服を着たユーフェミアが走り寄ってきた。
ユーフェミア・リ・ブリタニア本人だよね? どうして彼女が?
きらきらした瞳で、嬉しそうな顔でこっちに来る。
「やっぱり!
あなたオニキスね!!」
「オニキス……?」
誰のことを言ってるのか分からなくて首を傾げれば、ユーフェミアはハッと息を飲んだ。
「ご、ごめんなさい。
『オニキス』というのは私がつけた名前なの。
あなたにそっくりの女の子で、名前は教えてくれなかったから」
あたしの中で、内容を覚えてない夢が繋がりそうな気がした。
「あたし、ここ2日で内容を覚えてない夢を見たの。
誰かがいたことは覚えてるんだけど……」
「ここ2日?」
心当たりがあるのか、ユーフェミアは満面の笑みをパァッと咲かせた。
「やっぱり!! あなたがオニキスね!
嬉しい!! 会いたかったの!!」
ギュッと手を握られた。
すごく戸惑っているのに、目の前のユーフェミアは気づかない。
熱い眼差しに見つめられて居心地がすごく悪い。
「……あなたもしかして、あの時カワグチ湖のホテルにいた女の子よね?
うん! やっぱりあの子だわ!!」
ユーフェミアは心底安心したようにホッと息を吐き、柔らかく笑う。
「よかった。
その様子だと無事だったようですね。
よかったです、本当に。
怪我しませんでしたか?
ひどいことされませんでしたか?」
ユーフェミアの言葉にズキリと胸が痛くなる。
手を振りほどき、後ずさった。
今、彼女の声を聞いて分かった。
誰が言ったか分からないあの言葉は、ユーフェミアが言ってくれた言葉なんだ。
「あたし、撃たれたの。
死んでしまうんだって思うほど、たくさん撃たれたの。
でもあたし、生きてて、傷跡すら残ってなくて……。
前はそうじゃなかったのに、いつの間にか変わってて……。
自分が自分じゃなくなったみたいに、すごく怖くて、気持ち悪くて……」
夢なのに、ボロボロと涙がこぼれていた。
ユーフェミアが何かに気づいたように目を見張り、泣きそうな顔で笑う。
「私、やっと分かりました。
あなたが『オニキス』だった時に泣いてた理由」
震える手を、ユーフェミアは包み込むように優しく握った。
「あなたはあなたのままです。
だから恐れないでください。
私の気持ちは変わりませんよ。
だってあなたのこと、私、好きなんです」
ユーフェミアの手から、彼女の思いが流れ込んでくる。
柔らかくて、優しくて、春みたいに暖かくて、心地いい。
「ねぇ。
『オニキス』じゃない、あなた自身の名前を教えてくれますか?」
なんだかすごく、心が軽くなったような気がする。
満面の笑みが自然と浮かんだ。
「空だよ。
七河空」
「ソラ!
すてきな名前ね!!」
ユーフェミアも満面の笑みを返した。
「私はユーフェミア。
ユーフェミア・リ・ブリタニアです。
ユフィと呼んでくださいね」
笑顔だったユフィが、何かを思い出したようにハッとする。
「ごめんなさい。
実は公務中に居眠りをしてここに来たみたいなの。
お姉さまが呼んでるわ。戻らないと……」
軽くなった心がまた沈む。
寂しいけど、でも心は曇らない。
ユフィとまた会える確信を抱いたから。
「また会おう、ユフィ」
名残惜しそうな顔を、ユフィはパッと笑顔に変える。
「はい! また会いましょう!
待っててください、ソラ。
私、必ず戻ってきます!」
意気込むようにユフィが言った後、夢が終わった。
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