10-3

「……そう。
空ちゃん、帰ってしまうのね」

井上の声は落胆に沈んでいた。
ダイニングに集まる全員が暗い面持ちをしている。

「目覚めたばかりだぜ?
もう少しここに居りゃいいのによォ」

全員の中で、玉城が一番泣き出しそうな顔をしていた。

「あの子がそう望んだんだ。
帰るべき家に帰してやるのは当然だろう」
「分かってらァそれぐらい」

なだめる吉田に玉城は涙声で言い返し、ぷいっと顔を背けた。

「待たせたな」

ゼロが空を引き連れて現れる。
ホテルジャック事件の時の服は血で汚れて処分した為、カレンが用意した服を着ていた。
空は涙をこらえるように唇を結んでいる。
『きっと彼女は自分達と同じ気持ちなんだろう』と扇は思った。

「こうやって話をするのも最後になってしまうな」

ショックを受けたような顔で、空は扇を見つめ返す。

「そんな……。
最後なんて、そんな言い方……」

空も分かっていた。
アッシュフォード学園に戻れば、彼らともう会えなくなると。
部外者の自分がこんな風に話せる機会は二度と無いと。

何も言えなくなり、空の顔がくしゃりと歪む。
扇は慰めるように優しく笑った。

「これでいいんだ。
キミは俺達とこれ以上関わってはいけない。
キミはキミの日常に帰るべきなんだ。
争いや死とは無縁の世界に」

祈るように、穏やかに言った。
空の目が涙でうるんで、扇達に背を向ける。
泣くのを我慢できなくて、ぼろっと涙が溢れた。
しゃくり上げる声が小さく聞こえ、扇達は心配するように表情を曇らせる。

「……あたし、忘れません……。
昨日のこと……今日のこと……助けてくださったこと……絶対、忘れません……。
ありがとう、ございます……!」

玉城の涙腺が決壊した。


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