10-2

怖くて、悲しくて、寂しくて、潰れてしまいそうな────そんな夢を見た。
だけど、誰かが優しく笑いかけてくれたのを覚えている。
不思議な夢だ。
嫌な夢のはずなのに、起きた時の気持ちは穏やかだった。

目覚めてすぐ、そばにゼロがいることに気づいてギクリとする。
昨日の出来事を思い出し、まともに顔を見れなくて寝返りを打つ。
どうしてここにいるんだろう? 知りたいけど聞けなかった。

「……包帯を替えに来た」

独り言のように呟いたけど、どうして?という疑問しか浮かばない。
だってあたしに包帯は必要ない。完治しているんだから。

……ああ、そうか。他の人間が不審に思わないよう、カムフラージュとして包帯を巻いてくれるのか。

疑問は解消されたけど、胸がもっと苦しくなる。
身体を起こして背中を向け、キャミソールをたくし上げれば、ゼロが包帯を替え始めた。
沈黙は気まずいけど、ルルーシュが何も言ってこない事に内心ホッとしていた。
どうかこのまま何も言われませんようにと、強く思う。

「空」

思っていたからこそ、名前を呼ばれてドキッとした。
何を言われるんだろう。目の前が真っ暗になる。

「お、お腹すいた!!」

気づけば声を上げていた。
何か話そうとしていたゼロは黙り込み、あたしも何も言えなくなる。
気まずい沈黙の後、ゼロが立ち上がる気配がした。

「朝食を用意する。
カレンに持って行かせるから待っていてくれ」

扉が開き、閉まる音が聞こえた。
ありがとうを言いたいのに、謝りたいのに言葉が出ない。

お腹をそっと撫でる。
撃たれた時の、血まみれだった時の感覚は今でもハッキリと思い出せる。
だからこそ、自分の身体を気持ち悪いと思ってしまった。

「14発、か……」

悪い夢を見ているようだ。現実感が全然無い。
手首に視線を落とし、ジッと見る。
確かめるのは簡単だ。刃物で切ればすぐに分かる。
手首を包丁で切る光景が頭に浮かび、吐きそうになった。
それだけはやっちゃダメだ。

「今は生きてることを喜ばないと……」

そう考えないとおかしくなりそうな気がした。


 ***


扉が開き、カレンが入ってくる。

「空、おはよう。
朝ご飯持ってきたわよ」

おにぎり4個と味噌汁のお椀が乗っているトレイを、カレンはベッドそばのテーブルに置いてくれた。

「よく眠れた? 具合はどう?」

カレンはおにぎりを指差し、楽しそうに笑う。

「これ、みんなが握ってくれたの。
全面海苔を巻いてるのは南さんで、きれいな三角のは井上さんで、まん丸いのは扇さんで、変な形のが玉城のよ。
空に食べてほしいって」
「ふふ。すごい力作ぞろいだね。
ありがとう」

笑っていたカレンは、顔を上げてあたしを見るなり笑顔を曇らせた。

「……空。
笑いたくないなら笑わなくてもいいのよ」
「え?」
「何かあったでしょ。
引きつってるわよ、あんたの笑顔」

確信を持ったキッパリした言い方だった。
引きつっていた? いつも通りに笑っていたつもりだったのに。

「みんなのこと、怖いの?」

違う。それは絶対ない。
ぶんぶんと首を振って否定した。

「それじゃあ、不安なの?」

カレンはすごいな。ドンピシャで言い当てるんだから。
頷けば、カレンは『やっぱり』と言いたげな顔でため息をこぼした。

「……仕方ないわ。
いくらみんなが優しくても昨日出会ったばかりだもの。
寂しいと思うし不安にもなる。
ゼロがね、一刻も早くあなたを家に帰したほうがいいと言ってたわ」

ゼロの言葉を思い出しているのか、カレンは遠くを見て話す。
あたしへ視線を戻し、寂しそうに笑った。

「私も同じ気持ちよ。
あなたが望むならゼロは今すぐ準備するって」

どうする?とカレンの目が言っている。
井上さん達の顔が浮かんで、次にミレイ達の顔が頭をよぎって、カレンの目を見て頷いた。


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