10-1

ユーフェミア・リ・ブリタニアは夢を見た。
深淵の闇の中、小さな少女が泣いている夢を。

黒い髪の少女が背を向けてしゃがんでいる。
年齢は10歳くらい。
聞いていて胸が痛くなる泣き声に、ユーフェミアは近くまで歩み寄る。

「ねぇ。
あなたはどうして泣いてるの?」

問いかけても少女は泣き止まない。
ユーフェミアは困った顔をして、さらに質問する。

「独りぼっちなの? 寂しくて泣いてるの?」

少女は泣き止まない。
背を向けたままだ。
ユーフェミアは困った顔で、更に質問する。

「私の名前はユーフェミア。あなたの名前は?」

少女は泣き止まず、ユーフェミアの方を見ない。
ユーフェミアは途方に暮れたため息をこぼした。

どうしよう……。
どうすればこの子の涙を止められる?

悩んだ末、パッと名案が浮かんだ。

「そうだ! 寂しいなら私が友達になってあげる!」

少女がやっと泣き止み、ユーフェミアはホッとした。
しゃがんだままこちらを見上げてくる。
大粒の涙をためている瞳は髪と同じ色をしていた。
やっと見てくれたことが嬉しくて、ユーフェミアもしゃがんで少女と目線を合わせる。

「こんにちは! それともこんばんは?
私、ユーフェミアっていうの。
あなたの名前を教えてほしいな」

泣き止んだものの、少女は何も言わない。ジッと見つめてくるだけだ。
ユーフェミアの満面の笑みが苦笑に変わる。

困った。どうしよう……。
ユーフェミアは途方に暮れる中、幼い頃読んだ絵本の内容───7人の小さな妖精に名前をつける女神さまの話───を唐突に思い出した。

「それじゃあ!
私があなたに名前をつけてあげる!!」

素晴らしい宝物を見るように、ユーフェミアの瞳はきらきらしている。

「あなたの髪と瞳が、昔私の大好きだった方が身に付けていた宝石と同じ色をしているわ。
その宝石はね、ブラックオニキスっていうの。
だからあなたの名前はオニキスよ」

ユーフェミアは満足そうに笑う。
少女は涙を瞳にためたまま、ポカンとした。

「私のことはユフィって呼んでね」

そこで、ユーフェミアの夢は終わってしまった。


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