7-2

登校する前にC.C.のところへ行く。
ルルーシュが熱でダウンした事と、咲世子さんが着替えを取りに来る事を伝えれば、『ルルーシュが風邪とは珍しいこともあるものだな。メイドからはうまく隠れてやろう』と言ってくれた。

ナナリーのところに戻り、車椅子を押して外に行く。
右と左の学生寮から生徒が次々と出てきて、それぞれが校舎を目指していく。
ここの登校風景はあたしの世界と変わらなくて、懐かしいなぁと思ってしまった。

「今日は風が気持ちいいですね」
「そうだね〜」

中等部の校舎への道のりは咲世子さんに教えてもらった。
もし分からなくなったら、ナナリーと同じ制服を着た女子生徒について行けばいい。
ルルーシュのことを思い出したナナリーは笑顔を曇らせた。

「お兄さま、本当に大丈夫でしょうか……」
「今日一日しっかり休めば治るはずだよ。
それに、咲世子さんがそばにいるから安心だね」

咲世子さんの頼もしさはナナリーが一番知っている。
曇っていた表情が笑顔に戻り、うなずいてくれた。

「おっはよう! お二人さん!!」

足を止めて振り返れば、ミレイが軽やかな足取りで走り寄ってきた。

「おはよう、ミレイ」
「ミレイさん、おはようございます」
「……あれ? 今日は咲世子さんは?
ルルーシュの姿も見えないけど……」
「風邪引いたからルルーシュは今日はお休み。
咲世子さんがルルーシュのそばに居てくれてるよ」
「……そっか。だから今日は二人だけなのね。
それにしてもルルーシュが風邪か。珍しいわねぇ」

考え込むように沈黙するミレイは、突然ニヤッと笑んだ。

「よし! 学校終わったらルルーシュのお見舞いにでも行こうかしら」

弾んだ声音に、悪いことをたくらんでいるような笑み。
ただのお見舞いじゃないな、とあたしは直感でそう思った。


  ***


プリンを作ったり、C.C.からピザを食べさせてもらったり、あれこれしていたらあっという間に放課後になった
生徒会室には見慣れたメンバーしかいないのに、あたしはガチガチに緊張してしまう。

「みんな知ってるから、あらためての紹介はいらないわよね。
今日から彼女も生徒会の一員になるから、みんな助けるように!」
「よ、よろしくお願いしますっ」

かくかくしたお辞儀にミレイは苦笑し、あたしの目を見てひとつの席を指差した。スザクの隣だ。

「冊子があるでしょ? あの席に座ってちょうだい。
今やってる企画についてまとめてるから」

指定された席に座れば、スザクが優しくほほ笑んで迎えてくれた。

「それじゃあ、今日は三組に分かれて作業するわよ。
まず、一組目は演劇部に行って衣装のチェック。これは私とニーナで行くわ。
二組目は企画関連の書類を先生に持っていく。OKをもらったら配布用に印刷すること。これはリヴァルとカレンさんで。
最後の三組目はシャーリーとスザクくんと空で。
シャーリーは二人に企画の説明をお願い。それじゃあ解散!」

室内がにぎやかになる。
ミレイ達が生徒会室を出ていく中、シャーリーが椅子を寄せて話しかけてきた。

「空、スザクくん。
今進めている企画は『男女逆転祭り』って名前でね、その名前の通りのイベントだよ。その冊子に全部書いてるから読んでね。
分からないことあったら遠慮しないで聞いて」
「了解です!」
「うん、わかった。
『男女逆転祭り』かぁ。面白そうだね」

スザクと共に冊子を開く。
去年は制服の交換で、今年は好きな衣装を着るそうだ。
次のページをめくる手が止まる。
シャーリーがジィーーーーっと見つめていることに気付いた。

「……シャーリー? どうしたの?」
「あ、ご、ごめん! ルルが今日、風邪引いて休みって聞いたんだけど……!
空は、具合どれぐらい悪いか知ってる?」
「どれくらい、か……。
……熱が高くて、すごくしんどそうだったな……」

シャーリーの顔がだんだん青ざめていく。
ジッと見つめていた熱意ある瞳は元気がなくなり、シュンとうなだれた。

「そっか……。
それならお見舞いには行かないほうがいいね……」
「もしかして、シャーリーも生徒会長さんに誘われた?」
「……うん。お見舞いに一緒に行かないかって。
でも私、行くのは止めとくよ。
具合がすごく悪いなら、みんなで行かないほうがいいかなぁ……って思って」

本当は行きたいんだろうな。
どんより沈むシャーリーを励ますようにスザクは笑いかける。

「顔出すぐらいなら大丈夫じゃないかな。ルルーシュもきっと喜ぶよ」
「そうそう!
あたしならお見舞いに来てくれたら嬉しいと思う!」
「そ、そうだよね……?
……そうだよね!」

パァッと笑顔が戻る。
恋する女の子はまぶしいなぁと微笑ましく思った。


  ***


お見舞いに行こうというミレイの誘いに、
カレンは『用事があるからごめんなさい。ルルーシュ君には、お大事にって伝えてください』とやんわり断り、
ニーナは『私もやめとく。ぞろぞろ行ったらルルーシュが疲れちゃうと思うから……。ごめんねミレイちゃん』と謝った。
帰る二人を見送った後、ミレイは残っているメンバーに笑顔を向ける。

「今、ルルーシュは弱っているわ。
こういう時だからこそ! お見舞いに行ってルルーシュを元気づけましょう!!」

キラキラ輝く笑顔で宣言するミレイの手には小さなカメラ。

「ミレイ生徒会長、その手に持っている物は……?」

スザクはここにいる皆が疑問に思ったことを口にする。

「ふふん、よくぞ聞いてくれました。
ルルーシュの弱ってる姿なんて、めったに見られないでしょ?
これをルルーシュにね……」
「そ、それで撮るんですか!?」

驚きの声を上げるシャーリーにミレイはニヤッと笑う。
その場にいるみんなの顔は『ひどい仕打ちだ。病人に対してすることじゃない』と言いたそうな顔だった。
シャーリーがミレイにツカツカと歩み寄り、カメラを奪い取る。

「ちょっ、返してよシャーリーっ」
「だーめーでーす!
今ルル病気なんですよ!! そんなひどいことしないでくださいっ!!
スザクくんお願い!!」

シャーリーはミレイから奪ったカメラをスザクにパスする。
キャッチしたスザクは、取り戻そうと走り寄るミレイに届かないように頭上高く掲げた。

「ごめんなさい。僕もシャーリーと同じ気持ちです」
「俺もそれは無いって思いましたよ。諦めてくださいね〜会長」

ミレイは不満そうに頬をぷぅっと膨らませた。

「つれないわねぇ。本気で撮るわけないじゃない。
私はただ、カメラを出した時のルルーシュの反応が見たかっただけなのにィ」
「えっそうなんですか!? 今のミレイ、写真撮りそうな顔してたよ!!」

ミレイは舌を出してテヘッと笑い、クルッと背を向けた。

「……というわけでぇ、ルルーシュがいる部屋へ進もうぞ諸君!」
「あ! 会長今ごまかした!!」

スタスタ歩くミレイにリヴァルが続き、あたし達も廊下へ出る。
プンプンしていたシャーリーは気持ちの切り替えが早いのか、あきれた溜め息をこぼし、あたしとスザクに笑顔を向ける。

「……そうだ。思い出した。
生徒会のみんなとカワグチ湖に行こうって計画立ててるんだ。
今度の日曜日、一緒に行かない?」

突然すぎる誘いにドキリとする。

次の日曜にカワグチ湖? 生徒会のみんなで?
それって、アニメ8話のホテルジャック事件の話だよね?
嫌な汗がぶわっと出る。

シャーリーは最初にスザクを誘い、スザクは仕事があるからと断っている。
残念がるシャーリーは次にあたしを見た。

「空はどう?」
「あたしは大丈夫だよ。
シャーリー達と一緒に行きたいな」

上手にニコニコできているだろうか。
精一杯の笑みを浮かべながら、強く思った。
あんな場所に、ホテルジャックが起きるところに、シャーリー達を行かせるもんか!!と。
そう決意しても、自分にできる具体的な事といえば、日にちの変更をお願いするしかないんだけど……。

ルルーシュがいる部屋をみんなでのぞく。
顔色は朝よりもマシだけど、苦しそうな顔で眠っていた。
目配せしたミレイにシャーリーとリヴァルはうなずき、何も言わずに部屋を出る。
廊下で会った咲世子さんにあいさつだけして、ミレイ達は帰るようだ。

「なぁんか、ルルーシュのヤツ思ったよりも重病だったなぁ」
「……そうだね。
ルル、すごく苦しそうだった」
「あれじゃあ数日は学校出てこれないわね……」

前を歩くミレイ達の背中はどこか元気がない。
いつも余裕があって涼しげなルルーシュしか見てないから、熱で寝込む姿にショックを受けてしまったんだろう。
空気は重く、ミレイは外に出るなりガッツの魔法をかけてくる。

「会長……また、それですかぁ」
「そうよ! ルルーシュの分まで私達は元気でいないと!
お見舞いはまた今度! 今日はこれにて解散!!」

リヴァルとシャーリーはミレイの宣言にうなずき、こちらを見た。

「空、スザクくん、バイバイ」
「じゃな! また明日!!」
「それじゃあ、また明日学校で会いましょう」

スザクと一緒に手を振って見送り、皆の姿が見えなくなってから手を下げた。

「スザクはまだ時間大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「良かった。
プリンをまた作ったんだけど、持って帰ってくれないかな?」
「え!? プリンを!?」

のけぞって驚くスザクに、大げさだなぁと思う。

「う、うん。
この前、行けなかったからその時のおわびで。
冷蔵庫にあるから持ってくるね」

取りに行こうとすれば、なぜかガシッと両手を握られた。

「ありがとう!!
ありがとう空っ!!」
「……う、うん……」

半泣きで喜ぶスザクとドン引きのあたしで、すごい温度差を感じる。
プリンで何があったの!?と心配になった。


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