6-3

「ただいまー」

C.C.の服が入った袋を手にルルーシュの部屋に行く。
ベッドでゴロゴロしていたC.C.は体を起こし、あたしを見るなり辛そうに眉を寄せた。

「……また、泣いたのか?」
「うん。あたしの世界のこと思い出して。
……でもね、ルルーシュがそばにいてくれた」

『心配しないで』そう伝えたくて笑顔を見せる。
安心したのか、C.C.がホッと息をついた。

「……どうやらアイツは、最初に比べて丸くなったようだ」
「そうだよね、ホント。
最初の頃は絶対想像できなかったよ、あんなルルーシュ」
「だから言っただろう、人は変われると。よかったな、空」
「うん!」

『そのままでもいいや』って思ってたけど、今になってやっと気づいた。
やっぱり優しいほうがいい。

「……あ、そうだ!
これ、ルルーシュが選んでくれたC.C.の服だよ!!」

どんな反応を見せるかワクワクしながら袋を差し出せば、返ってきた反応は素っ気ないものだった。

「必要ない。
言っただろう、私はこのままでいいと」

そっぽを向くC.C.の表情はいつも通りクールで、どこか諦めているような瞳だった。

「あたしはそうは思わない」

強い口調で言えば、C.C.が驚きの顔でこちらを見る。

「囚われているのも、繋がれているのも、束縛されているのも、全部C.C.がそう思ってるだけだよ。
世界に囚われているなら抗えばいい」

『家族や友人、過ごしていた日常を奪われ、もう二度と戻らないんだ』とC.C.は言った。
奪われた、という言葉に、あたしはその通りだと思わない。
助ける事を決めて、自分で選んだ。
進めば戻れなくなるけど進むの?と聞かれて、このまま進むとあたしは答えた。
だから、奪われたわけじゃない。

「世界に囚われているって考えになっちゃった理由がC.C.にはあるんだよね。
けど、C.C.には否定してほしい。自分は囚われていない!って」

否定してほしかった。
だって諦めるのは悲しいから。

「自分は囚われてない……と?」

ムッとした顔でC.C.が聞き返したから、「うんっ!!」と、全力で頷いた。
C.C.はベッドを降り、窓辺に進む。

「……すまない。しばらく一人にしてほしい」

何を考えているか分からないクールな表情だったけど、彼女の声は震えていた。
あたしは何も言わずに部屋を出る。

「……ありがとう、空」

小さい声は今にも泣きそうなほど儚かった。
廊下に出て、止まらずに足を動かす。
本当はそばに居たかったけど、一人にしてほしいというC.C.の気持ちは尊重したかった。

その後、昼食に誘われて咲世子さんのサンドイッチをごちそうになったり、ナナリーと折り紙をしたり、掃除をさせてもらったり、ルルーシュに『ブリタニアが存在しない地球について教えろ』と根掘り葉掘り聞かれたりした。
夕食の準備があるからと解放され、ルルーシュの部屋に足を運ぶ。
扉の向こうにいるC.C.は今どうしているだろう?
中には入らず、扉から数歩離れた壁にもたれ、ストンとしゃがんだ。
隔てているのは壁一枚だけど、C.C.をすごく遠くに感じる。

「……ううん。遠いと思うなら近づいたらいいだけだよね」

もし、今日の夜空も昨日みたいにきれいだったら、C.C.に『星を見よう』って誘いたいな。
扉が開き、驚いて顔を上げる。

「……やはりお前か」

そう言いながら廊下に出たのはC.C.で、彼女の服装を目にして更に驚いた。

「買った服着てくれたんだね!!」

シンプルな色合いの動きやすい服は、足の長いC.C.が着るとすごくスマートだ。
長い髪は後ろでシニヨンにし、いつもと雰囲気が違って見える。

「……ああ。ルルーシュのヤツに乱暴に脱がされたからな」
「他の人が聞いたら勘違いしそうな言い方だね……」

ナナリーが聞いたらショックを受けるだろうな。

「ルルーシュに言われたんだ。
『ここで暮らすなら人らしい服を着れ』と。
本当にアイツは丸くなった」

C.C.は楽しそうな顔でニッと笑った。

「一緒に妹のところに行くぞ。
この前、紙を折っている途中でルルーシュに連れ出されたきりだったからな」
「うん! 行こう!!」

C.C.を先頭に、はずむ足取りでダイニングへ行く。
突然の訪問にナナリーは喜び、キッチンから顔を出したルルーシュは苦い顔をした。
ナナリーがいるから話す声は優しいけど、顔はすごく不満そうだ。
素晴らしい演じ分けが面白くてC.C.とくすくす笑い、ナナリーも釣られて楽しそうに微笑んだ。
充実した時間が穏やかに流れていく。
幸せだと、胸いっぱいに思った。

ルルーシュはC.C.の分の夕食も作ってくれて、料理の皿をテーブルに並べる手伝いをする。
飛び入りのC.C.の分まで更に作るなんて……。
彼女の訪問をまるで最初から知っていたような手際の良さだ。
心の底からすごいなぁと思う。

C.C.と共に席につき、ルルーシュはナナリーにナプキンをセットする。
色とりどりのサラダとふわふわのパン。
きらきらしたスープと高級料理店に出てきそうな肉料理。
全てが輝いて見える。感動で深いため息がこぼれた。

「うはぁ…。
ホント、美味しそう。
いいなぁナナリー、料理上手なお兄さんがいて」
「そうだな。これは確かにうまそうだ。
見ていて腹が空いてくるぞ」
「とっても良い匂いがしますね。私もお腹が空いてきました」
「うん。あたしもぺこぺこ。
ナナリーは毎日ご飯作ってもらってるんだよね。いいなぁ。
ルルーシュと結婚する人は幸せだね。
毎日美味しいご飯作ってもらえるんだもん」
「ふふ。お兄さまはどんな方と結婚するんでしょうね?」
「冗談はそれぐらいにして。
食べようか、そろそろ」

ちぇー。つまんないの。

「いただきます」「いただきまーす」

ナナリーと声が重なる。
まず最初に、肉料理をひと口パクっと食べた。
お肉が舌に触れた途端、とろけるようなおいしさにビックリする。

「ん! んんんんんんまぁ〜い!
ほっぺが落ちそう!!」
「大げさだ。静かに食べれないのか」
「ふふふ、お兄さまったら嬉しそう。
わたしもいただきます」

ナナリーもひと口食べ、顔をほころばせた。

「美味しい!
お兄さま、これはなんて言う名前の料理なんですか?」
「豚肉のフィレミニオン・アルゴネーゼ風だよ。冷蔵庫に豚が残っていたから」

すごい! あたしでは絶対作れない料理だ……!!
好きな味なのか、C.C.は夢中で食べている。

「やっぱすごいなぁ、ルルーシュは。
あたし、こんなの作れないもん」
「そうなんですか? ぷりん、あんなに美味しいのに……」
「お菓子とは別だよ。
こんなすごい料理、ルルーシュしか作れないよ」

年は変わらないのになんだこの料理の腕の差は。
うらやましいぜコンチクショウ。

「でも、空さんには空さんにしか作れない美味しい物がありますよ。
わたし、空さんの作ったプリン、食べたいです」

溢れる嬉しさに、涙がブワッとなりそうだ。

「ありがとうナナリー!! お姉ちゃん嬉しいっ!!」

ルルーシュはドン引きの顔をしていた。

「それじゃあ明日もプリンを作るね!!」
「わぁっ! ありがとうございます!
楽しみです!!」

黙々と食べているC.C.が、グッと親指を立ててくれた。
ルルーシュはムッとした顔で物言いたそうな様子だけど、ナナリーの嬉しそうな笑顔を見て、結局何も言わなかった。

スザクの顔が浮かぶ。
どうせだから、プリンを多めに作っておこうかな。
ロイドがプリンを気に入ってることを、あたしはふと思い出した。


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