5-6

咲世子さんがいるダイニングを目指して廊下を進む。
今は食器の片付けをしているところだろう。
食事の時の会話を思い出して笑みが浮かぶ。まさかナナリーの部屋の隣だったなんて。

「空さん、何か嬉しい事がありましたか?」
「え? どうして分かったの?」
「分かりますよ。空さん、すっごくウキウキしてますから」
「ナナリーってすごいね。大当たりだよ。
あたしの部屋、ナナリーの隣だからいつでも遊びに行けるなって」
「遊びに来てくださるんですね!」

ぱぁあああっと笑顔が咲く。なんちゅう可愛い声だ……!
顔を輝かせたナナリーだったが、なにか言いたそうにソワソワする。

「どうしたの?」
「いいえ、あの……もし空さんさえ良ければなんですけど。
今日、一緒に寝ませんか?」
「えぇっ!?」

思いもしない申し出に胸がキュンとする。

「あ、あの、ダメならいいんです!
ごめんなさい。私、お姉さまと一緒に寝るのがずっとずっと憧れだったんです……」
「お姉さまって……。
……え? あたし?」

恥ずかしそうに頬を染めて、ナナリーはコクリと頷いた。

「か────」

────かわいいこと言うじゃねぇかぁぁぁぁあ!!(2回目)

「か?」

ナナリーはまた、不思議そうに首を傾げた。

「ごめん何でもない。
ふふ、なんか嬉しい。ナナリーみたいな妹、いたらいいなぁって思ってたから。
それじゃあ、今日は一緒に寝よう!」
「はいっ!!」
「うん。元気な良い返事。
寝る前に色々聞きたいな。ルルーシュの事とか♪」
「うふふ。
私、聞かれたら色々話しちゃうかもしれません」

お互い笑いあったところでダイニングに到着する。
食器の片付けが終わったのか、咲世子さんは静かに待っていた。

「お帰りなさいませ。
ナナリー様、空さん」

咲世子さんの声に気づいたのか、ナナリーがあたしにそっと耳打ちした。

「空さん。またお話しましょう」
「うん、また後で」

あたしも、ひそひそ声で返事した。

ナナリーを咲世子さんに任せ、着替えを取りに行くと伝えて廊下に出る。
C.C.に会いたくて、まっすぐルルーシュの部屋に行った。

「ただいま」

ベッドで寝そべるC.C.が体を起こす。
彼女とこうして対面するのが、すごくすごく久しぶりに感じられた。

「聞いたぞ、ルルーシュから。
別の部屋に住むんだってな?」
「うん。
生徒会のお手伝いさんって形で住まわせてもらえることになったよ。
でも寂しいな。この先、C.C.と一緒のベッドで寝れなくなっちゃうなんて……」
「これから先ずっと、というわけではないだろう?
一緒に寝ようと思えば寝れる。寂しくなったら来ればいい」

あたしの部屋があっても、C.C.はずっとルルーシュのベッドで眠りたいのだろうか?

「……どうした? そんな難しい顔をして」
「C.C.がこの部屋にいるのって、ここのベッドが気に入っているから?」

あたしの質問にC.C.は小さく笑った。

「まさか。ここにいる理由が私にはあるからだ」
「ここにいる理由?」
「契約を結んだ。ルルーシュとな。
詳しくは話せないが、それが私の理由だ」

C.C.はそれだけ言って話を終わらせ、布団を手繰り寄せて寝る体勢に入る。

「……空。
お前にひとつ聞きたい」
「なに?」
「最近、変な夢を見ていないか?」
「変な夢?」

『変』と表現していいかは分からないけど……。

「……うん。
毎晩見てるけど、それがどうかしたの?」
「いいや。
少し……気になっただけだ」

C.C.がまぶたを閉じる。
眠るのではなく、まるで何か考え込むように。
扉が開き、ルルーシュが帰ってきた。
なぜか不機嫌そうな面持ちをしている。

「おい。
『眠る準備ができたら部屋に来てほしい』
お前に伝えてほしいとナナリーが言っていた。
……どういうことだ?」
「ああ、それ。
今日はナナリーと一緒に寝ることになったんだ」

聞いた途端、ルルーシュは世界の終わりを迎えたような顔をした。
ツカツカ歩み寄り、ガシリとあたしの肩を掴む。

「ナナリーに変なことしたら殺すからな」

すごい怖い鬼のような形相で、警告する声は本当に殺しそうな迫力があった。
うんうん頷き、スタコラ逃げて、自分の部屋に戻り、寝る準備をして、ナナリーの部屋に行く。
怖い怖いと思っていたが、安心できる場所に避難したら気持ちが変わった。
ルルーシュの先ほどのアレは、すごく面白かった。

「さっき、ルルーシュすっごい怖かったよ」

笑顔で報告すれば、ベッドで待つナナリーがくすくす笑う。

「お兄さまがですか?」
「うんうん。
ナナリーと一緒に寝るって話したらすごいショック受けた顔して、その後すっごい怖い顔で『ナナリーに変なことしたら殺すからな』って言われた」

ルルーシュの台詞だけ、低くおどろおどろしく言えば、ナナリーは声を上げて笑ってくれた。

「うふふ! 変なことって……!
お兄さま、ふふ、心配しすぎです」
「ほんとそうだよね」

ルルーシュのシスコンぶりを思い出してあたしも笑う。
ひとしきり笑いあって、ナナリーが小さな吐息をもらした。

「空さん、私の隣にどうぞ」
「ありがとう。お邪魔します」

ベッドの空いてるほうにモゾモゾと潜り込めば、ナナリーが手を差し出してきた。

「空さん。
……手、繋いでもいいですか?」

返事の代わりに手を握る。
ナナリーがふわりと微笑み、あたしの手を確かめるように握り直した。
部屋は暗いけど、差し込む月明かりがナナリーを淡く照らしている。
手から伝わる温度はじんわりと温かくて、目を閉じたら眠ってしまいそうだ。
小さな寝息が聞こえてくる。

「ナナリー?」

声を掛けたけど返事はない。

「……もう寝ちゃってる。
早いなぁ、ナナリーは。
安心したのかな?」

あたしも眠くなってきて、ふわぁっと大きなあくびが出る。

「おやすみ、ナナリー」

呟き、あたしもまぶたを閉じた。


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