5-5

ルルーシュが作った夕食(高級レストランに出てきそうな名前の料理)を食べ終わり、時刻は夜。
帰るスザクを見送る為に全員で外に出る。
無数の星が輝く空を仰ぎ、スザクは晴れやかに笑った。

「ナナリー、明日は良い天気になるよ。
星がたくさんある」
「星がたくさん……ですか?」
「そう、お月さまも出てる。
……ナナリーは覚えてる? 『とっておきの秘密の場所』
あんな感じだよ」
「わぁっ! 懐かしいですね、その言葉」

7年前の事だろうな。
詳細は知らないけど、嬉しい気持ちが溢れているナナリーの顔を見ると微笑ましくなる。

「『とっておきの秘密の場所』って?」
「昔、スザクが俺とナナリーをある場所に連れて行ってくれたんだ。
『とっておきの秘密の場所がある』って言ってな」
「はい。スザクさんは私を、夜の海に連れて行ってくださったんです。
月の光がほんのり明るくて、静かなさざ波の音が聞こえて、すごく素敵な場所でしたよ」
「へぇ。それはすごいロマンチックだね」

ルルーシュはからかうような意地悪い笑みをスザクに向けた。

「そう言えば俺もひとつ思い出した。
その帰り道で、確か幽霊を見たんだよなぁ、スザク?」
「……うん。僕も今思い出した」

嫌な事を思い出したように、スザクは引きつった苦笑を浮かべる。

「幽霊って?
え? スザクが?」

意外だ。霊感なさそうに見えるのに。

「帰り道の……森の中を歩いてる時だった。
突然、スザクが言ったんだ。『女の幽霊がいた』と。
木を幽霊と見間違えたのに、ずっと『見た』の一点張りでな。
ナナリーが怖がるから止めろと、結局はケンカになってしまったんだ」

今ではいい思い出だよ、とルルーシュは遠くを見て笑う。
スザクは不満そうにムッと眉を寄せた。

「いや。あれは見間違いじゃなくて幽霊だった。
透けて見えて、でも確かにそこにいて。
すぐ消えたけど、でも僕はしっかり見たんだ。
女の人で黒髪の────」

ハッと息をのみ、途中で言葉を切る。
沈黙するスザクを不安に思ったのか、ナナリーの笑顔が曇った。

「スザクさん、どうしたんですか?」

押し黙っていたスザクはナナリーの声にハッと我に返る。

「……ご、ごめん。ちょっと気になることがあって。
僕は大丈夫だから気にしないで」

無理に平然を装っているように、声と言葉が一致しない。
ナナリーの表情は更に曇る。

「すまないが、先に部屋に戻っていてくれ。
スザクと話したいことがある」

ルルーシュならスザクを元気づけられるだろう、そう考えたナナリーは安心したように笑った。

「分かりました、お兄さま」
「それじゃあナナリー、あたしと一緒に行こうか」
「はい。
それでは、おやすみなさいスザクさん。また遊びに来てくださいね」
「今日はありがとうね、スザク」

ナナリーの車椅子を押し、玄関をくぐる。
ふと視線を感じて振り向いたら、スザクがジッとこちらを凝視していた。
いつもの笑みは無く、思い詰めた顔で。
どうしたんだろう……。

「空さん、何かありましたか?」

足を止めてしまっていた。
ナナリーの声に「何でもないよ」と返事をしてまた歩く。
スザクの事は気になるけど、今は部屋に戻らないと。

「スザク、おやすみなさい」

あたしの挨拶にスザクは応えてくれたけど、どこかぎこちない笑顔だった。


  *** 


空とナナリーが中に入ったのを見届けてから、ルルーシュはスザクに向き直る。

「スザク。さっきはどうした? 急に話を打ち切って」
「……うん。ちょっと引っ掛かったことがあって。
さっき幽霊について話していたよね? 女の人で、黒髪の」

幽霊を見たという証言をそもそも信じていないルルーシュは、『まだそれを言うのか』と呆れ顔になる。
しかし、スザクの神妙な面持ちに、笑い飛ばさずに黙って聞くことにした。

「ルルーシュは見なかったから信じられないかもしれないけど、その幽霊は空みたいな顔をしていたのを、思い出したんだ」
「あいつに?
それは気のせいだ。ただ単に似ているだけだろう。
7年も前の話なんだぞ」
「……うん。そうだね。
ごめんルルーシュ、今のは忘れてほしい。
残ってくれてありがとう」
「気にするな。俺も気になったから。
それじゃあ俺も戻る。
また食事しに来いよ」
「うん。軍がない時は必ず行く」

晴れやかな笑みでルルーシュに手を振り、スザクは歩き出した。
クラブハウスが遠くなって、浮かべていた笑みを消す。

「……気のせいなんかじゃない」

そして、かすかな声で呟いた。


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