27-3
あと4時間で夜明けだ。
もぞ、と動いて時計を確認したルルーシュは、腕の中で眠る空に視線を戻す。
(横になってすぐに寝るとはな……)
ルルーシュは空の頭を何度も撫でる。
良い夢が見られるように、優しくゆっくりと。
顔には出さずに話を聞いていたが、ルルーシュは内心ひどく驚いていた。
母と行き逢い、対話までするなんて。
昏睡状態で見ていた夢を、一般人ならただの夢だと言うだろう。
しかし、ルルーシュはそう思えなかった。
(本当に夢か?)
夢ではなく過去に行ったのでは、とルルーシュは考える。
まずは、空が熱心に話してくれたアリエス宮についてだ。
ナイトオブラウンズをイメージした巨大な絵画は直接見なければ説明できない。
書庫にある蔵書もだ。本のタイトルを次々と言い当てて驚いた。幼いルルーシュはどれも読んでいる。
赤い瞳と桃色の髪の少女はひとり覚えがある。行儀見習いで来ていた子だ。
そしてジェレミア・ゴットバルト。
まさかアリエス宮の警護を担当していたとは。
さらにV.V.という名前の謎に包まれた人物や、ギアス能力者の少年、あとは中華連邦のリー・シンクーという名の武官と89代目の天子を名乗った幼子まで登場する。
接触するならリー・シンクーか。
空の名前を出して反応したなら、空は過去に飛んだことになる。
(恐ろしい力だな……。
まさか過去の人間にまで影響を及ぼせるとは)
『幽霊としての姿』を奪って一体何がしたいのかと疑問には思ったが、それなら赤目が空の力を欲しがるのも納得がいく。
ルルーシュはさらに考えようとしたが、聞こえる寝息に眠気を感じた。
「……そろそろ寝るか。
おやすみ、空」
小さく呟き、額にキスしてからまぶたを閉じる。
それでもすぐには眠りにつかず、ルルーシュは意識が沈むまでの間、スザクの事を考えた。
「みんなが大切な人を失わなくてすむように、力を貸してくれませんか?だったかな。
ユフィはそう言って、スザクにお願いしたの」間違った方法で手に入れた結果に価値はない、とゼロの勧誘を拒絶したスザクだ。
ユーフェミアのその言葉に進む道を決めたのだろう。
説得も勧誘も、ゼロが懇切丁寧にやったところでスザクの心は動かない。
無力化する方法はたったひとつ、ランスロットを再起不能になるまで破壊するのみだ。
(ランスロットの活動を停止させる装置が必要だな……)
そこまで考えた後、ルルーシュはストンと眠りに落ちた。
***
早朝、起きたルルーシュは自室に戻った。V.V.の情報をC.C.に聞き出す為だ。
まだ眠っているだろう、と思っていたが、ベッドは無人だった。
起きているなら都合がいい、とルルーシュはC.C.が居そうな場所に足を運ぶ。
彼女はバスルームにいた。
扉にロックがかかっていて、廊下の壁にもたれてルルーシュは待つ。
しばらくしてから扉が開く。
湯を浴びて血色が良くなったC.C.が出てきて、驚き顔をして「ルルーシュ」と呟いた。
「おはよう、C.C.」
「待たせてすまなかった。
まさかお前に、早朝に湯を浴びる習慣があったとは」
「それはこっちのセリフだ。
驚いたぞ。まさかお前がこんなに早く起きれるとはな。
悪い夢でも見たか?」
C.C.はニヤリと笑んだ。
しかし、目元は不機嫌そうに険がある。
「坊やは探究心旺盛だな。
知りたいのか?」
「いいや。悪い夢を見たなら空のところに行け。
あいつはまだぐっすり寝ている。
隣で横になっていれば良い気分転換になるだろう」
予想外のアドバイスにC.C.はキョトンとした。
「それは……それはお前がそうなのか?」
「ああ」
涼しい顔して返事する声は聞き慣れないほど柔らかい。
C.C.の目元の険がほどけていく。
「……そうか。
なら、あいつのベッドにお邪魔させてもらおう。
夢の上書きができればいいが」
泣き笑いでどこか強がっている顔だ。
V.V.の事を聞こうとしたが、後日にしようとルルーシュが思うほど、話を持ち出せない雰囲気だった。
大切な人を失い、C.C.は今も孤独を拭い去れないのだろう。
「空だけじゃない。
俺もいる。忘れるな、C.C.」
「……ああ……そうだな。
そうだったな」
C.C.は穏やかな顔で微笑んだ。
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