33-5

生徒会室にはナナリーとシャーリーとリヴァル、そして深い眠りにつく空がいた。
全員一ヶ所に集まったほうがいいとの判断で、空はリヴァルが運んでソファに寝かせている。

「『反乱軍の接近により、ゲットーの治安が悪化しています。
市民の皆さんは、政府より通達があるまで家から出ないようにお願いします』」

テレビから聞こえるニュースの音声に、ナナリーは不安そうにうつむいた。

「ここも戦場になるのでしょうか……」
「ま、まさかぁ。コ一ネリア総督の正規軍がいるんだせ? ないないっ」

わざと明るく振る舞うリヴァルに、シャーリーは暗い表情を返す。

「そうかなあ……」
「んなこと言うなよ、怖いだろ!
ナナリーまだ帰ってきてないの? ルルーシュは……」
「明日まで戻れないと、先ほどお兄さまから電話が……」
「交通機関マヒして帰れないのかぁ?
あーもー何やってんだよルルーシュのヤツ!!」
「そ、そうだ! ミレイ会長はまだニーナの所に居るのかなっ!?」
「ミレイさんもニーナさんも……早く戻って来てほしいですね……」

不安が晴れないまま1時間が経過した後、ミレイだけが戻って来た。
黒の騎士団が放送局をジャックし、今まで見ていたテレビが映像を映さなくなる。
唯一生きているのはリヴァルのポータブルテレビの放送局だ。
しかしそれも、黒の騎士団がジャックして映像が止められた。

「これで全部の放送局が……」

ミレイが困惑の声で呟いた時、廊下が騒がしくなった。
扉が開き、黒づくめの男達がドカドカと入ってくる。

「手を上げて後ろを向け!!
この学校は俺たち黒の騎士団がもらったぁ!!」

目をゴーグルで隠したチンピラみたいな男がミレイ達に銃を突きつけた。
リヴァルがとっさに前へ庇い出る。

「銃を下ろせ!」
「はあ? なに言ってんだこの状況で!」

アーサーが鋭く威嚇する。

「リヴァル……」

ミレイの不安を払拭しようと、リヴァルは両手をさらに広げた。

「ここはかっこつけさせてくれよ。俺がみんなを守る!」
「ああそうかい!!」

チンピラの男は銃をバッと振り上げた。
リヴァルを殴ろうとしたのを、

「やめろ!!」

現れたゼロがすかさず止める。
ゴーグルで目を隠した女と共に生徒会室に入ってきた。

「手荒なマネはするなと言ったはずだ」
「で、でもよぉ……ここに司令部を置くって言うから……」

チンピラの男が情けない声で言った瞬間、ミレイ達の顔が緊張で強ばった。

「司令部って……」
「この学園は我々、黒の騎士団が徴用し、司令部として使用させてもらう」
「拒否権はないのよね?」
「君たちの身の安全は保証しよう」
「そんなの信じられるかよ!
戦争してんだろ?俺たちブリタニアと!」
「リヴァルお願い、言う通りにして」

静かに言ったのはゼロと一緒に来た女だ。彼女はゴーグルを外す。
素顔を見たシャーリーは大きく驚いた。

「あ! カレン!?」

リヴァルとナナリーは言葉を失った。
ミレイだけが冷静だった。

「……そう。あなただったのね。
ねぇカレン、約束してくれる?
私達だけじゃなく、学園の生徒全員に手を出さないって」
「男子寮も女子寮も外には出られないようにしたから大丈夫だと思うわ」

カレンが言うなら嘘じゃないだろう。
ミレイ達はホッと息を吐いた。

「……ねぇ、そこで寝てる空はずっと眠っているの?」
「え? ああ……空なら……」
「特区日本の式典が始まってから、ずっと眠っています」

堂々と答えたのはナナリーだった。
カレンは顔色を悪くして「まだ……帰ってきてないの……?」と小さな呟きをこぼした。

「ゼロ! ランスロットが!!」

廊下から別の男が飛び込み、ゼロは「やはり来たか!」と生徒会室を後にする。
それに他の騎士団員がバタバタと続く。
最後にチンピラの男が「こっから逃げるんじゃねぇぞ!! 俺らの仲間が見張ってんだからな!!」と捨て台詞を吐いて出て行った。
室内がシンと静まり返り、ミレイもリヴァルもシャーリーも、緊張が解けて気が抜け、ドサッと椅子に座った。

「ニーナ……まだガニメデの倉庫にいるのかしら?」
「それよりカレンでしょ。
あーどうなるんだろ! 俺たち……」
「大丈夫よ」

確信を持って言うシャーリーの力強い言葉に「え?」とリヴァルは目を丸くする。

「黒の騎士団は……いいえ、ゼロは絶対に私達に危害を加えないから」
「な、何で言い切れるんだよ」

シャーリーは答えない。
祈りの形で手を組み、何かを深く考え込んだ。
不安を掻き立てる静寂が支配する生徒会で、ミレイ達は沈黙する。
軍が助けに来るのをひたすら待った。

それからしばらく後、状況が大きく変わる。

『卑怯者!!』

外からスザクの声が聞こえた。

「あ……え!?」

窓の外には黒いナイトメアがいて、空にはランスロットがいる。
黒いナイトメアは武装をこちらに向けていた。

『人質のつもりか、何が一騎打ちだ!』
『仲間になる機会をことごとく裏切ったのはお前だ!』

一触即発の空気にリヴァル達は身を縮ませる。

「お、おい。あの黒いナイトメア、ニュースで出ていたやつだろ?」
「そんな……ゼロがここを狙うなんて……。
嘘よ! 嘘!! だってそんなことしたら……!」

空にいたランスロットが急降下で黒いナイトメアの懐に入ろうとする。
しかし、地面が緑色に発光し、ランスロットの動きが止まった。
黒いナイトメアはランスロットを攻撃することなく、どこか遠くに飛んで行く。
リヴァルは目をこらす。緑色に発光するのは丸い機械で、あれがランスロットを強制的に停止させているんだろうと考えた。
外では騎士団の人間がぞろぞろと現れ、ランスロットを囲んでいく。
リヴァルは頭を抱えた。

「ああ……このままじゃスザクまで……」

ミレイが途方に暮れた重いため息をこぼした時、ふと廊下でバタバタと右へ左へ行き交う騒がしい足音が聞こえた。

「何かあったのかしら?」
「今のうちです。行ってください」

ナナリーの言葉にミレイ達は目を見開いた。

「スザクさんを助けてあげてください。
今一番頼りになるのは……」

ナナリーの願いを三人は聞いた後、

「うん」 ミレイは頷いた。
「分かった! 任せろ!!」 リヴァルは力強く拳を握った。
「スザク君は絶対助けるから!」 シャーリーは勢いよく席を立った。

廊下が静かになったのを確認し、ミレイ達はそっと生徒会室を出ていった。
ナナリーは強く祈る。

「……どうか、スザクさんが無事でありますように」

ガバッと起き上がる音が聞こえた。
ナナリーはハッと顔を向ける。

「空さん、お帰りなさい!」
「ただいま、ナナリー」

かけられていたブランケットを押しのけ、空はソファから立ち上がる。

「今ひとりだね。ミレイ達はいつここからいなくなった?」

その声には余裕が無い。
素早く背後に回り込む空に、ナナリーは少しだけ戸惑った。

「ついさっきです。ミレイさん達はスザクさんを助けに……」
「助けに行ったんだね。
ごめんナナリー、ここを出るから声を出さないでほしい」
「えっ」

空は車椅子を押し、急ぎ足で生徒会室を出る。
黒の騎士団から逃げようとしているのだろうか?とナナリーは息を殺した。
廊下を進んですぐ、どこかの部屋に入る。
この部屋は多分、イベントで使った物が並ぶ保管室だ、とナナリーは思った。

「あたしがここを出たらすぐに扉をロックしてほしい。
ボタンは右側のここだよ」

手を握って誘導される。
ナナリーの指が丸いボタンに触れた。

「ロックは長押し3秒だよ。解除も3秒。
外でどんな音が聞こえても、誰かがナナリーを呼んでも、絶対にここを開けないでほしい。外にも出ないで」
「空さん……?」
「あたしをユフィの所に行かせてくれてありがとう」

ぎゅっ……と抱き締められる。
いつもより少し強くて、ナナリーは理由も分からず泣きたくなった。

「静かにね。しばらくは喋ったらダメだよ」

そして離れた。
空がすごく遠い所に行ってしまうのでは、とナナリーは思った。
足音を忍ばせて空は保管室を出て行った。
ナナリーは言われた通りにすぐ扉をロックする。
ボタンから指を離した後、手が震え始めた。
ひどく恐ろしい何かが近づいてくるのでは、と思ってしまった。

数分後、遠くで銃声が聞こえた。
一発、二発……間を置いてさらに三発目。

ぶるぶる震える両手でナナリーは口を塞ぐ。
心の中で何度も空の名前を叫んだ。

廊下は静かだった。
誰もここを通らない。

やっと震えが収まった。
口を覆っていた両手を外し、ナナリーはゆっくりと呼吸する。
静寂は不安を濃くしていく。

ミレイさん達はスザクさんの元へ行けただろうか? スザクさんは無事だろうか? お兄さまは今どこにいるんだろう? 空さんは戻ってきてくれるのだろうか?
大切な人の安否が気になった。

せめて兄からの電話はすぐに出れるようにと、ナナリーは携帯を握ろうとした。その時だった。
廊下でコツ、コツ、コツ……とこちらに近づく足音が聞こえてくる。
耳をすませば、ふたり分の足音だとナナリーは気づいた。
黒の騎士団の人間だろうか?
迫る足音は保管室の前でピタリと止まった。

「ナナリー、ここを開けて」

自分より年下の子供の声だ。

「君を迎えに来たんだ」

無邪気な声だ。なのに恐ろしく感じた。
ナナリーは悟った。
空はこの声の主から自分を守る為に、自分をここに隠してくれたのだ、と。


[Back][34話へ]
 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -