33-4

「式典は……日本はどうなったかしら?」

「日本人の皆さんは……喜んでくれた?」

「おかしいな。あなたの顔……見えない」

「学校……行ってね。
私は……途中……やめちゃった……から……。
私の……分まで……ね」

「ああ……スザク……」

「あなたに……会えて……」



頭がぼんやりとして、身体に力が入らない。
ながい、ながい夢を見ているような気がした。

僕の傍らにはユフィが横たわっていた救護カプセルがある。
ユフィの亡骸はアヴァロンのどこかにあるんだろう。医療スタッフが運んだのか空っぽだ。

「ああ……ユフィ……どうして……。
僕には分からないよ。どうして君があんなことを……」
「教えてあげようか?」
「えっ?」

顔を上げた。
開いたままの出入口に貴族の子供が立っている。
金糸を束ねたような長髪の子供が。

「……子供? どうしてアヴァロンに……」
「初めまして、枢木スザク。
僕の名前はV.V.」

ブイツーと名乗る子供が医務室に入る。
扉が閉まり、密室になった。

「君に真実を伝えに来たんだ」
「え?」
「ユーフェミアはゼロにギアスをかけられたんだよ」

聞き慣れない単語に耳を疑った。

「ギアス……?」
「そう。ゼロは超常の力を持っている。
ユーフェミア皇女殿下はなぜ急に人が変わった?
そしてルールを遵守しようとした君は式根島で何をした?」
「まさか……」
「人を操り、その時の記憶を失わせる力をゼロは持っている。
ゼロはきみにもギアスをかけた。
だから君には分かるはずだよ。ギアスをかけられた者の瞳の色が変わるのを」
「……!
そうだ! ユフィはあの時……!」


「そんなことより……スザクは日本人でしたよね……」


血の気の失せた白い顔でそう言ったユフィの瞳は確かに違う色をしていた。
呪いをかけられたみたいに真っ赤だった。
でもユフィは抗っていた。そんなこと考えちゃいけない、と。

「ユフィは……ゼロに操られて……あんな事を……!!」

目の前が真っ白になる。
握った拳がギシ、と音を立てる。

ユフィと話した日が不意によみがえった。
キュウシュウブロックで澤崎さんが起こしたテロ事件を解決した後、帰還した僕をユフィが笑顔で迎えてくれた時の景色だ。


「スザク。私ね、分かったんです」

白い雲が流れる大空は青く澄みきっていた。
地面の草は鮮やかな色をしていて、色とりどりの小さな花が風で小さく揺れていた。
ユフィのいる世界が、僕には奇跡みたいに美しく見えたんだ。

「理想の国家とか大義とかそういう難しいことじゃなくて、ただ私は笑顔が見たいんだって。
今大好きな人と、かつて大好きだった人の笑顔が」


飾らない素の声。
笑いかけてくれるユフィの表情。
守りたいと思ったんだ。

「私を、手伝ってくれますか?」

手伝いたいと、ユフィと共に生きたいと、思ったんだ。

戦場で言われたユフィの言葉は、今でもはっきりと思い出せる。

「わたくしを好きになりなさい!
その代わり、わたくしがあなたを大好きになります!」


「スザク、あなたの頑ななところも優しいところも、悲しそうな瞳も不器用なところも、猫に噛まれちゃうところも全部!
だから自分を嫌わないで!!」


嫌いだった。許せなかった。
俺は俺自身が。
でもユフィの夢を叶える手伝いができたら、こんな自分でも生きてていいんだって、ほんの少しだけ思ったんだ。
光が射したように思えた。
すごく大切で特別な人だったんだ。


いつの間にか子供はいなくなっていた。

行かなければ。ゼロのところに。
騎士の服を脱ぐ。
ユフィのドレスはゼロに撃たれて血に染まっていた。一目見て、助からないと思えるほどの出血量だった。
なのにどうして俺の着ていたものは少しも汚れていないんだろう。
俺が数分早くユフィの元へ飛んでいたら、ユフィは撃たれなかったんだ。

パイロットスーツに着替え、ルルーシュに電話をかける。

「ルルーシュ、僕だよ」
『スザクか。どうした? こんなときに』
「ルルーシュは今、学校?」
『いや。でも、もうすぐ帰るよ』
「電話をしたのはみんなに伝えてほしいことがあって」
『何だい? こんなときに』

ルルーシュの声はいつも通りだ。
心の奥底が冷えていくような感覚がする。

「……空を。
空を見ないでほしい」

ずっとたいせつにしていたものが、ぼろぼろと崩れていくような感覚がする。

「ねぇルルーシュ。
君は殺したいと思うほど憎い人がいるかい?」
『ああ、いる』
「そんなふうに考えてはいけないと思っていた。
ルールに従って戦わなければ、それはただの人殺しだって。
でも今、僕は憎しみに支配されている。
人を殺すために戦おうとしている。
みんながいるトウキョウの空の上で人殺しを。だから……」
『ユフィのためだろ?』

どうしてここでユフィの名が。
ルルーシュ、やっぱりキミは……。

『それに、俺はもうとっくに決めたよ。
引き返すつもりはない』
「ナナリーのため?」

ルルーシュは沈黙した。
そうだろうなと何となく思った。

『……切るぞ、そろそろ』
「ありがとう。ルルーシュ」
『気にするな。俺たち友達だろ?』
「7年前からずっと」

覚えている。
キミが7年前に言った、ブリタニアをぶっ壊す、という言葉を。

『ああ、じゃあな』
「それじゃ、後で」

後で、の真の意味を、キミは理解しているんだろう。
通話を終えた携帯をギリ、と握る。

トウキョウにはゼロがいる。
ゼロを倒さなければ。
俺は、俺の手でゼロを倒す。

「……俺がやるんだ!!」


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