33-3
ゼロとC.C.とカレンは式典会場に戻った。
「空はどうしてユーフェミアを……日本人を殺した女を庇ったんでしょうか……」
カレンの呟いた疑問に、ゼロは答えを返さなかった。
ガウェインと紅蓮弐式がいる格納庫を出ると、扇や玉城や神楽耶、桐原率いるキョウト六家が出迎えた。
「ご無事でしたかゼロ様!
脚を負傷されたと聞きましたが……!!」
「差し支えありませんよ、神楽耶様。
それより桐原公、会場の虐殺に巻き込まれなかったようですね。安心しました」
「ああ。
正気ではないと教えてもらったからな。すぐに身を隠した。
ゼロよ。これからの事だが、わしらの下で……」
「いいえ。逆です」
桐原達の顔が強ばった。
「こうなった以上、キョウト六家の方々は私の指揮下に入っていただきます。
反論は許しません。他にあなた方が生き残れる道はなくなりました」
神楽耶の後ろでキョウト六家が渋い顔をする中、桐原だけは諦めたように頷いた。
そしてゼロ達は会場に足を運んだ。
保護された日本人達が会場の中心に集まっている。
現れたゼロを歓声が出迎える。
ゼロは日本人達の前に立った。
「日本人よ!!
ブリタニアに虐げられた全ての民よ!!」
ゼロの足元に設置されたマイクが声を会場全体に響かせる。
「私は待っていた!
ブリタニアの不正を影から正しつつ、彼らが自らを省みる時が来るのを。
しかし……私たちの期待は裏切られた。
虐殺という蛮行で!」
血で汚れた観客席を見た扇の瞳が、顔が怒りで震えた。
「ユーフェミア……許さない!
みんなの気持ちを踏みにじって!!」
玉城も怒りに震えている。
「何が平等だ! 行政特区だ!!
よくも俺たちを編し討ちにしたな!
もう許さねえ!! ぜってえに許さねえからなあ!!」
玉城の怒声に「そうだ !」と傷ついた男が声を上げる。
「ブリタニアを許すな!」 ぼろぼろになった男が声を張り上げる。
「ユーフェミアを許すな!!」 妻を殺された男が慟哭する。
「卑怯者が!!」「魔女め!!」「嘘つき!!」 会場の外で式典を見守っていた人間達が口々に怒鳴る。
「そう! ユーフェミアこそ、ブリタニア偽善の象徴、国家という体裁を取り繕った人殺しだ!」
ゼロのよく響く声に「地獄へ落ちろユーフェミア!!」と騎士団員が腕を振り上げる。
「もう騙されないぞ!!」 父を殺された男が声を上げる。
「ブリタニアに死を!!」 子を殺された女が声を上げる。
虐殺で変わり果てた式典会場には怨恨の空気に満ち溢れていた。
それでも怒声が静まったのは、目の前にゼロがいるからだ。
ゼロの言葉を聞く為に静まり返る。
「……私は今ここに、ブリタニアからの独立を宣言する」
怒りに、憎しみに、悲嘆に暮れる人間の意識がゼロに集まる。
「……だがそれは、かつての日本の復活を意味しない。歴史の針を戻す愚を私は犯さない」
会場にいる全ての人間が聞き入った。
「我らがこれから造る新しい日本は、あらゆる人種、歴史、主義を受け入れる広さと、強者が弱者を虐げない享受を持つ国家だ。
その名は────」
マントで身体を隠していたゼロが、大きく動き、大きく両手を広げた。
「────合衆国、日本!!」
ゼロの宣言に、人々が歓声を上げる。
熱狂的な声援はゼロが舞台を後にするまで続いた。
***
ゼロはひとり、式典会場の連絡通路を歩き、C.C.が待機する控え室へ行く。
扉を開ければ、窓のブラインドを下げたC.C.が振り返った。
「トウキョウ租界に攻め込むつもりか?」
「ああ、今が最大のチャンス……」
返事をしながら仮面を外したゼロは、暴走状態の左目を思い出してサッと顔を逸らした。
「大丈夫だ。私にギアスは効かない。
知っているだろう?」
ああそうだった。何を恐れているんだ俺は────と思ったルルーシュはフッと苦笑した。
「……そうだったな」
仮面をソファに置き、腰掛ける。
「ギアスの制御ができない以上、みんなとはもうお別れか……」
ついこぼした独り言を、C.C.はあえて聞き流した。
ルルーシュに背を向けたまま彼女は言う。
「ギアスの切り替えができなくなった他に、変化はないか?」
「別に。
ただ、ユフィは俺のギアスに、命令に逆らおうとした」
『嫌だ』と。
『殺したくない』と。
ひどく苦しみながら、拒もうとした。
「能力が落ちたのかとも思ったが、それは多分、彼女にとってとても許せないことで。
とても……当たり前のことで……」
「それで?」
「……それだけだ。ひょっとした……」
組んだ両手がかすかに震える。
気づけばC.C.の足がすぐ目の前にあった。
立っていた彼女がしゃがみ、項垂れていたルルーシュの頭を包み込むように抱く。
「契約したろ。私だってそばにいる。
おまえはひとりじゃない」
耳元で声がする。
温かいと思った瞬間、手の震えが止まった。
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