32.私の名はスカイブルー・シュワシュワソーダ


花火の音がパンパン聞こえる。
屋台もたくさん並び、一般のお客さんもあちこちいる。

いつもと見える景色が違うせいか、キョロキョロしていたらドンと後ろ足に何かが軽くぶつかった。
振り返れば幼女が衝突していた。今の身長だと幼女が本当に小さく見える。
上目遣いでびくびくしてて、しゃがんで目線を合わせてみた。

「お嬢さん、大丈夫? 痛くないかい?」
「いっいたくない……。
あっあの、あの、ごめんなさい……!」

すごく爽やかなスザクをイメージして微笑めば、幼女がホッと表情を和らげた。

「今日は誰と一緒に来たのかな?」
「エミーはママときたの!」

満開の笑顔で幼女が答えた時、遠くから幼女の名前を呼ぶ女の人の声が聞こえた。
幼女は顔をパァッと輝かせて女の人のほうへ走っていく。

「ママー!!」

一生懸命走る幼女は可愛いなぁ。
微笑ましく見てたら、走る幼女が転びそうになってドキッとしたものの、女の人が走り寄ったおかげで転ばずに済んだ。

「ママ! おうじさまいるの!!」

こちらを指差す幼女と、目を向けてお辞儀する女の人に手を振り、歩いていく。
『おうじさま』か。今の格好では最大の賛辞だ。
つまずかないようにゆっくりと歩く。
練習はしたけどシークレットブーツはやっぱり歩きづらい。

「学園祭の思い出に、記念写真はいかがですか〜!」

写真部の屋台で部員さんが呼び込みしている。
これは撮らなければ、いそいそと行った。

「すみません」
「きゃっ」
「驚かせて申し訳ない。
記念写真、私も一枚撮ってほしいんだが」

きらきらした爽やかさを全面に出せば、部員さんは顔を赤らめて「はっはいっ!」と返事した。

ポラロイドカメラを向けられ、優美なポーズをとってパシャリと撮影。
出てきた写真を受け取り、料金を払って退散した。

「……ふむ。なかなか素晴らしい仕上がりだな」

もらった写真をしげしげ見つめる。
写真には金髪碧眼のイケメンが写っていた。


「篠崎流変装術にかかれば、空さんを全くの別人に仕立てるのは容易です」
「すごいな。ありがとう咲世子さん」
「ルルーシュ様の衣装準備が完璧でしたわ」



変装する事は前もってみんなには伝えている。
だけどこの姿ならこっちが言うまで気づかれないだろう。
生徒会メンバーのいるブースに行こうとすれば、校内放送のピンポン音が聞こえた。

《みなさ〜ん! お待たせしました!!
世界で一番オープンな、アッシュフォード学園の学園祭を始めまぁ〜す!!
スタートの合図はこのひと声から!!》

ミレイの明るい声の後、

《にゃ〜》

聞こえた猫の鳴きマネに、屋台のあちこちから『萌えーー!!!』的な歓声が湧き上がった。
関係者だけが入れるブースに足を運べば、いるのは女子メンバーだけだ。
みんなが一斉にこちらを見る。

「すみません。
こちらに副会長さんはいらっしゃいますか?」
「え? ルルーシュ、ですか?」

キョトン顔のシャーリーがみんなにボソボソと「どこ行ったか知ってる?」と耳打ちしてる。
ルルーシュはシャーリーと話し合ったようだ。
ルルーシュ君からルルーシュに変化していることをホッと思った。
マイクを持ったニーナが「副会長は最終調整で外回りに行ってますよ。3年生の方ですか?」と聞き、ミレイは難しい顔で「こんな人……いたかしら……」とブツブツ言った後、ナナリーが「もしかして空さんですか?」と正解を口にした。
「ナナリー大正解!」と告げれば、ミレイ達はすごく驚いた。

「す、すっごい変わったね……」とシャーリーがボケッとしたながら呟き、
「別人みたい……」とニーナはきらきらした笑顔で褒めてくれて、
「見事だわ。これなら安心ね」とミレイは目を輝かせて言って、
「声も全然違います」とナナリーは微笑んでくれた。

「変装に時間かかっちゃって……。
……リヴァルとスザクは今どこに?」
「リヴァルは巨大オーブンのエリアよ。
スザクは資材エリアで材料切ってるわ」
「そうか。なら私はスザクの手伝いに所に行って来るよ」

笑みを浮かべながら朗らかに言えば、女子メンバーは複雑そうな顔をした。

「どうしたのかな?」
「なんか……違和感は無いんだけどすごく違和感が……」
「空だと思ってる頭が混乱しちゃうかも」
「行ってらっしゃい、空さん。後で一緒に学園祭を見て回りましょうね」

ふんわり笑うナナリーに見送られ、ブースを出た。
一緒に、か。
誰が来ても気づかれない姿に変装してよかった。


  ***


その後、スザクの様子を見に、まっすぐ調理室に足を運んだ。
材料の詰まった箱がびっしり保管されてる室内は薄暗い。
他の部に協力依頼しているものの、材料だけでとんでもない量だ。
開いた自動扉をくぐれば、奥で切り続けているスザクの後ろ姿が見える。
スザクも驚かせてやろうかな。

「こんにちは。助太刀しに来たよ」とキラキラな王子様を意識しながら言えば、
「ありがとうございます」と振り返ったスザクが一瞬だけ目を丸くし、微笑んだ。

「……なんだ空か」
「えっ!? なんで分かったの!?」

声の段階では気づかなかったのに!

「分かるよ。だってそんな顔の生徒はこの学園にはいないからね」
「まさかスザク……生徒全員の顔覚えてるの?」
「もちろんだよ。僕は風紀委員だから」
「すっごいねぇ……」

材料を切る手を止めないスザクに、あたしもやらなければと腕まくりする。
手を洗えばスザクが隣のスペースを空けてくれて、今度は二人並んで材料を切る。
スザクの顔つきが柔らかい。どこか幸せそうだ。

「良いことあった?」

澤崎アツシの件が終わった後、何かあったんだろう。
スザクは笑顔で頷いてくれた。

「うん。あったよ。
すごく良い事が」

知りたいけど、その『良い事』はスザクの心の中にある宝石みたいなものだろう。
触れてはいけない、詳しい話は聞いちゃいけないと思ってしまった。

「幸せだと思える事があったんだね」

それだけ言えば、ふふ、と息を洩らしてスザクは笑う。
本当に幸せそうな笑顔だった。

「……すごいなぁ空は。その通りだよ。
自分のやるべき事を見つけられた気がしたんだ」

自動扉が開く。
反射的に振り返れば、怖い顔をしたカレンが入ってくるところだった。
視線がぶつかるなり、カレンはお嬢様の顔をする。
切る手を止めて振り向いたスザクはホッと息をこぼした。

「良かった。
もう学校に来ないと思ってたよ」

スザクを見るカレンの目付きが、何も喋るなと言いたげに鋭くなる。
それも一瞬で、次にあたしを見る時にはお嬢様の瞳に戻っていた。

「ごめんなさい……。
スザクとふたりで話をさせてほしいんだけど……」
「ああ。構わないよ。今すぐ外に行くから」

カレンの横を通りすぎれば、ガッと腕を掴まれた。

「待って、あなた空ね」

なんでバレたの!?
思わずウワァという顔をすれば、カレンは長いため息をこぼした。

「なんて格好してるの」
「アハハ……ちょっと事情がありまして……。
ビックリした……なんで分かったの?」
「何となくよ何となく。だって私の友達だもの」
「ありがとう、カレン。
それじゃあまた後でね」
「ええ。後で甘いものを食べましょう。
外部参加の屋台で私の好きなものが売ってるの」

その言葉にピンと来た。
公園で屋台してるあの人が来ているようだ。

何だかんだで全然挨拶できていない。
お客さん居なかったら少しだけ話そうかな、と思って屋台エリアの中心部にハリーさんの屋台があった。
上品な青いシャツを着ていて、屋台には女子生徒がひとり。
後ろで二つ結びしている髪色に、その生徒がC.C.だと気づいた。
まさか潜入していたなんて。巨大ピザのアナウンスに釣られたのだろうか。
クレープの屋台に近づくにつれ、C.C.の横顔がよく見える。
怒った顔で対面していた。
近づけない空気を感じて通りすぎる事にする。
屋台エリアを奥へ奥へと進んでいけば、通りに置いているベンチに座るルルーシュを発見した。
サラリと流れる漆黒の長髪は美しい。見事な女装だった。


「おまえにだけ負担をかけさせるわけにはいかない」


……なんて、覚悟を決めた顔をしていたっけ。
後ろに周り込み、「だーれだ」をする。
顔がぽかぽか温かい。軽く笑う音が聞こえた。

「私が心から愛する人だな」

なんて言葉を超イイ声で言った。
目隠しの手をソッと外し、隣に座る。
ピピピ、と着信音がルル子のヒザ上のトランクから聞こえた。
「またか」と低い声で呟き、ルル子はトランクを開けて通信機を出し、耳に当てる。

「はい。
……ピザは午後からです」

ピッと音が聞こえ、通信を終えたルルーシュは忌々しそうな顔でため息をこぼす。

「こんなことやってる場合じゃ
ないというのに……」

間髪いれずにピピピ、とまた鳴った。
ルルーシュはすぐに反応する。

「はい。
……演劇部の? 映研に話してありますから」

ピッと切り終わった後のルルーシュは疲れた顔をしていた。
何か飲み物でも買っておこうかな、と周りを見れば、ヒューンとピコハンが飛んでくる。
ルルーシュに当たる前にパシッと取った。

「よしナイスキャッチ」
「おまえすごいな。すまない……」
「ごめんなさぁい!! 柄が折れちゃって!!」

覚えのある可愛らしい声に目を向ける。
走ってきたのはセシルだった。

「大丈夫ですよ。どうぞ」
「まぁありがとうございます!」
「このピコハンは2年生の出し物ですね。
柄が折れても予備はあるはずなので、どうぞ続きを楽しんでくださいね」
「はい! たくさん叩かせていただきます!!」

パタパタと走って行ったセシルさんの姿が見えなくなった後、ルルーシュが「軍人相手に堂々とできていたな」と感心したように言った。

「知ってるお姉さんだから」
「……人を捜している様子じゃなさそうだったな」
「すごい楽しんでいたね」
「おい、おまえ。
世界一のピザというのはどこで食べられるんだ?」

いつの間にC.C.が後ろにいて、ぶっきらぼうに聞いてくる。
ルルーシュは苛立ちを顔に浮かべて「クソッ一番見られたくない奴に……!」と呟きながら振り返った。

「なんだいたのか」

ニヤァとC.C.は笑う。

「美しくなったな。よく似合うぞォお。
……ん? 隣にいる奴は誰だ?」
「初めまして可憐なお嬢さん。
私はスカイブルー・シュワシュワソーダと申します」
「おまえ空だな。なんだその名前は」
「命名センスが全然無いな」

なんだその呆れた顔は。ルルーシュも容赦ないし。
ちょっとぐらい笑ってくれてもいいではないか。

「世界一のピザはあっちだ。案内してやる」

トランクを持ってベンチを立ったルルーシュは有無を言わさない空気でC.C.の腕を掴んだ。
あっちだ、と指差した方向は、巨大オーブンエリアとは逆方向だ。
人の目につかない所に彼女を連れていくつもりだろう。

「ナナリーは咲世子さんが一緒に見て回っている。
おまえは落ち着ける場所でゆっくりしていろ」

と、言ってからルルーシュはC.C.をどこかに連行していった。
ナナリーはどこだろう? ベンチを離れて歩いてみれば、屋台エリアにカメラを持ったディートハルトがいた。
姿を発見した瞬間、きびすを返してすぐ逃げた。
この変装で気づかれないとは思うが、できれば顔を合わせたくない。
足早に巨大オーブンエリアへ行き、会場がよく見えるブースに避難する。
ここは関係者しか入れない。扉を閉め、やっと息を抜いた。
進行表を確認し、時計を見ながら、そろそろディートハルトもどっか行ったかなぁと思ったら、窓の外で生徒がたくさん集まっているのが見える。
もうすぐで巨大ピザ作りが始まりそうだ。
扉を開けてルルーシュが来た。

「おかえり。C.C.は?」
「……屋上で待機させた」

すんなり行かなかったのか、ルルーシュの長髪はくたびれていた。
椅子に座り、進行表を一瞥してテーブルに戻す。
横顔がキレイだなぁ、とボケッと見つめていれば、紫の瞳がこちらに向く。

「どうした?」
「逆転祭りの時よりキレイになったなぁって」
「おまえもな。眉目秀麗な男になった」

ピピピ、と通信機がまた鳴った。
ルルーシュはすぐに応じる。

「はい。
……それなら今向かっているはずです。到着を待ってください」

指示を出した後、またピッと切る。
そして今度は違う着信音。ルルーシュの携帯からだ。
チラッと画面を見てからルルーシュは電話に出た。

「もしもし、シャーリー?」

思いもしない相手に驚いてルルーシュを凝視する。
まさかシャーリーからルルーシュに電話を掛けられるようになっているなんて。

「……ああ。分かってるってシャーリー。ちゃんと時間つくるから」

ピピピ、と通信機が更に鳴り、ルルーシュは「学園祭が終わった後日にまた」と言って電話を終わらせ、次は通信機を耳に当てる。

「はい。
……ステージ? ヘルプならビーハをステージに」

指示を出して通信機を切れば、短く息を吐いて椅子にもたれた。

「大変だね……」
「いいや、ちっとも。
ミスしたところで誰が死ぬわけでもないからな」

気を抜いたリラックスした顔だ。
ガチャと扉が開く。入ってきたミレイがにっこり笑った。
すぐに出ていくつもりなのか扉は閉めない。

「さすがね。時間どおりいけそうじゃない?」
「最近、人を使うことを覚えましたから」
「本当にすごかったよ。
色んな人に的確に指示を出して」
「やっぱり実行委員長はルルーシュしか出来ないわね」
「リヴァル達の準備があったからですよ。
……しかし、みんな能天気ですね。ついこの間、中華連邦が攻めてきたばかりだというのに」

確かにそうだ。
学園祭の準備をしている時に、リヴァルが戦争だと不安そうな顔をしていたくらいだったから。

「だからじゃない」

あっけらかんと言ったミレイに、ルルーシュもあたしもポカンとした。

「祭りは必要よ。どんな人にもどんな時でも」

ミレイはにっこり笑う。見ているだけで心を明るくするような表情だ。
ルルーシュは苦笑した。

「どんな時でも、ですが……」
「そうよ。あんた、まだまだねえ」

ルルーシュは息を吐いて笑って肩をすくめた。

「勉強になります」
「お兄さま」

ナナリーの声が外から聞こえてルルーシュの表情がやわらかくなる。

「ナナリー、ピザは……」

一緒に食べたいな、と思いながら出入り口を見れば、ナナリーの後ろにサングラスと黒い帽子で髪を隠して変装するユフィがいてギョッとした。
ルルーシュも動揺してガタッと席を立つ。

「すみませんちょっと! 何かあったら連絡を……!!」

口走ってブースを出ていった。
慌てる理由を知らないミレイはキョトンとする。
どうしてユフィがここに? どうしてナナリーと一緒に? 疑問が頭をぐるぐるする中、あたしもジッとしていられなかった。

「すまないミレイ! 私もルルーシュの所に行ってくる!」

「変装が板についてるわねぇ」と感心するミレイの声を背中で聞き、あたしもすぐに外へ出た。
ピザ作りが開始されたようで、リヴァルが司会を始めている。
ルルーシュの事だから生徒や客で賑やかな場所は避けるだろうと周囲を捜し回れば、誰もいない正面玄関前の石段で発見できた。
穏やかな顔のルルーシュと笑顔を輝かせるユフィと嬉しそうに笑うナナリーが話しているのが遠く見える。
ユフィがここに来た理由を知りたかったけど、それ以上に『邪魔したらダメだ』と思ってしまった。
ミレイの所に戻ろうと一歩後ずさった時、ユフィと話しているルルーシュが何故かこちらに視線を向けた。
そして小さく手招きする。こっちに来いと言いたげな紫の瞳で。
気づいてくれた。ルルーシュには勝てないなぁ。緩む顔をそのままに歩いて近づく。
ルルーシュはユフィに何かを話している。変装の理由を話しているのか、こっちを見たユフィがすごい驚いた。
ルルーシュはナナリーにも何か言ってるみたいで、ナナリーも驚きの顔をした。
近くまで寄れば、「すごいわ! 別人に生まれ変わったみたい!!」と溢れんばかりの笑顔で迎えてくれた。
みんな座っているからあたしも腰掛ける。

「今日は驚くことばかりね。
ルルーシュとナナリーがこんな近くにいて、ソラもそばにいて、しかもスザクの友達がルルーシュだったなんて」
「わたしも驚きました。
まさかユフィ姉……ユフィさんと空さんが仲良しだったなんて」

言い直したのがかわいくて苦笑する。
そりゃそうか。あたしは一度もナナリーから『自分はナナリー・ヴィ・ブリタニアだ』っていう話を聞いていないから。
隣のルルーシュを見つめていたユフィが視線を前に向ける。
遠くの────ピザ生地を回すガニメデを操作するスザクを見つめた。
嬉しそうだったのに、泣きそうな悲しそうな眼差しだ。

「私はみんなが幸せにならないと嫌なの……」

心にある思いが溢れてこぼれ落ちたような呟きだった。

「会うのは今日が最後だ」とルルーシュはユフィを見ずに淡々と言う。
「そんな事ないわ。いい方法を見つけたから」とユフィは首を振りながら否定する。
いい方法?とルルーシュは怪訝そうにユフィを見た瞬間、強い風がブワッと吹いてきた。
とっさに顔を背ければ隣で「あぁっ」と小さく悲鳴が聞こえた。
何かトラブルがあったみたいな声に視線を向け、納得する。
黒い帽子が風に飛ばされたようで、ユフィの長い髪もふわぁっと風で舞い上がっている。

「ユーフェミア様!?」

遠くで誰かの驚く声が聞こえた。
ピザ生地を回すガニメデを見に集まった大勢のお客さん達が一斉にこちらを見た。
ヤバイと思って立ち上がれば「ルルーシュ! ナナリーを!」とユフィが言う。ルルーシュはすぐに行動した。

「悪いがそうさせてもらう!」

ルルーシュはナナリーの車椅子を素早く押す。あたしも急いで後に続いた。
ユフィを見ようと大勢の人達が我先にユフィを目指して駆けてくるのを横目に見ながら、恐怖と焦りの気持ちで足を動かした。
人が集まりすぎて揉みくちゃになってるユフィが遠くに見える。
すぐに逃げたおかげで誰にも目撃されずに近くの屋台に避難できた。
幸いスタッフがいないからナナリーとルルーシュを先に中に入れ、あたしも中にサッと飛び込んで扉を閉める。
ホッと一息着くことができた。

「無事か? ナナリー」
「ええ。大丈夫です。でも……」

ナナリーはユフィが心配なのか不安そうだ。
接客カウンターから外の様子を覗き見る。
もみくちゃになってたユフィをスザクが操縦するガニメデが救出していた。

「無事だ。スザクが助けた」
「怪我もしてないよ」
「よかった。ユフィさんの声が聞こえないほど騒々しかったから……。
……ねえ、お兄さま」
「ん?」
「さっきユフィさんと話したの。
スザクさんとうまくいったんですって。
お似合いですよね、お2人なら」

寂しそうに笑うナナリーに、ルルーシュもあたしも言葉に詰まった。

「大切な発表があります!」

ユフィの声が、拡声器を通じて大きく聞こえた。
ルルーシュと同時に顔を上げる。
ガニメデの手のひらで凛と立つユフィは、何か決意したような表情だ。

「神聖ブリタニア帝国、エリア11副総督のユーフェミアです。
今日はわたくしから皆様にお伝えしたいことがあります」

改まった物言いにルルーシュは真剣な顔をユフィに向けた。
あたしもジッと見つめる。

「わたくしユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジサン周辺に“行政特区・日本”を設立することを宣言いたします!」

思いもしなかった宣言に「えっ」と驚きの声が漏れる。

「この“行政特区・日本”では、イレヴンは日本人という名前を取り戻すことになります。
イレヴンへの規制、ならびにブリタニア人の特権は、“特区日本”には存在しません。
ブリタニア人にもイレヴンにも、平等の世界なのです!」

ユフィは誇らしげに笑う。
彼女の声がちゃんと聞こえるのに、頭はすぐに理解してくれない。
ルルーシュが怖い顔をしているのが横目に見えた。

「聞こえていますか? ゼロ!」

突然の呼び掛けにドキリとする。

「あなたの過去も、その仮面の下もわたくしは問いません!
ですから、あなたも特区日本に参加してください!!
ゼロ! わたくしと一緒に、ブリタニアの中に新しい未来をつくりましょう!」

無理だよ────と、あたしの心はそれだけ思った。
バンザイの声が、拍手喝采の音が聞こえる。歓声が遠く聞こえる。
ユフィの姿がすごく遠く感じてしまった。

 
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