30-3


浮游航空艦アヴァロン。
所有するのはブリタニア第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアだ。
早朝、彼は艦内の医務室にいた。

「彼女の容態は?」

シュナイゼルが問えば、白衣を着た軍医の一人がすぐに答える。

「一命を取り留めましたが失血がひどいです。
右腕と左脚に処置を施しましたが、意識が戻るかは……」

軍医は医療用カプセルへ視線を移す。
中には右腕と左脚が欠けている少女が横たわっている。
黒の騎士団が退避した場所に唯一残っていた人物だ。

「全力を尽くしてほしい。
彼女は騎士団について有力な情報を握っている可能性が高いからね」
「有力な情報……ですか?」

とてもじゃないがそうは見えない。
医務室にいる4人の軍医全員が、半信半疑の眼差しを少女に向けた。

「彼女を見るのはこれで二度目でね。
最初は黒の騎士団が公の場に出たホテルジャック事件の時だ。
一部始終をまとめた映像に一瞬だけ出ていたのを覚えている。
彼女は人質のひとりだったよ」
「はぁ……」

軍医は感嘆のため息をこぼす。
過去に一瞬だけ映っていた人物を、シュナイゼルが今も覚えているからだ。

「式根島に来た騎士団の人間は一握りだよ。
戦力にならない人間をあのゼロが連れていくとは思えない。
彼女にも何かあると、そう考えたんだ」

シュナイゼルは微笑んでそう言った。
優美で穏やかな表情だが、内心どう思っているか読めない瞳をしている。

突如、医療用カプセルと直結している心音パネルから警告音が大きく響く。
軍医達が慌てた様子でカプセルに駆け寄る中、シュナイゼルだけは表情を変えることなく、ゆったりした足取りで医務室を出る。
その瞳に、彼女への興味は完全に失せていた。死ぬことも想定の範囲内だった。

医務室では心音停止の音が絶え間なく響いている。
軍医は時刻を確認し、それを記録する。

「死亡を確認しました」

軍医の一人がカプセルの生命維持装置を停止させる。

「全力を尽くしたが……さすがにこれでは……」

カプセルに横たわる少女は死者の顔をしていた。
軍医達はシュナイゼルに報告するため医務室を出ていった。
その後だ。静かなカプセルの中で物音がした。
軍医達がもう少し長くこの場にいれば、現実離れした異常を目撃できていただろう。


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