30-1 


ゼロ、紅月カレン、空の三人が式根島から姿を消した。
藤堂の指示で撤退した騎士団は、今は式根島近くの海底に身を潜めている。

夕食の時間になり、食堂に全員が集まった。
ブリタニア軍は今海上をうろついている為、ほとんどの団員が落ち着かない様子だった。
緊張に座るだけで食べない者、そわそわと周囲を見回す者もいれば、いつもと変わらず食事している者もいる。

『《敵戦艦、通過しました》』

食堂に響くアナウンスを聞いた全員がホッと安堵の息をこぼす。

「……ったく!
空中で停まれる戦艦なんて冗談じゃねぇ!!」

玉城の怒鳴る声に扇も頷いた。
式根島で襲撃をかけた巨大な戦艦は今も近くにいる。
肝を冷やしたのはこれで何度めだろう。

「やはりこれ以上この海域に留まるのは危険だ。引き返そう」

藤堂の意見はもっともだ。
敵のそばに居続ければ、それだけ敵に見つかるリスクは高くなる。
発見された瞬間、攻撃されて簡単に沈んでしまうだろう。
扇は降り注いだ赤黒い閃光を思い出して重い溜め息を吐く。
彼自身、引き返すべきだと分かっていた。
それでも扇は頷かない。迷っているからだ。

「いえ。あくまでここに留まり、ゼロを捜すべきです」

反対したのはディートハルトだ。
扇の向かいに座る彼を、藤堂は厳しい眼差しで見据える。

「だが、捜索隊すら出せない状況。
ラクシャータのおかげで隠れていることは出来ても、もはやゼロ達が生存している保証すらない。
一歩間違うと組織の存亡に関わる」
「何を言うのです!
逆です! ゼロあっての私達!!
ゼロがいて、初めて組織があるのです!」
「人あってこその組織だ。
貴様の物言いは実にブリタニアらしいな」

食堂が緊迫した空気に包まれる。
言い合う二人を全員が固唾を呑んで注目していた。

「ではお聞きしたい。
ここには様々な主義主張の人が集まっています。
しかし、まがりなりにもそれがまとまっているのはなぜですか?
結果が出ているからでは?
そしてその結果を出しているのは誰なんですか!?」

藤堂はテーブルを大きく叩いた。
離れた席の食器がガシャンと揺れる。

「結果は認めよう。
しかし、全員の命と比べられるのか?」
「時として一人の命は億の民より重い。
元軍人なら常識のはずです」
「ここでそれを言うか……!」
「ちょっと待ってくれ!! 話がそれてる!!」

怒りで席を立とうとする藤堂に、扇は慌てて仲裁に入った。

「ともかくこうしよう。
ブリタニアの警戒網の外、安全な海域ギリギリでとりあえず明日の日没まで待つって言うのは!
時間制限をつければ……」
「……よかろう」
「仕方ありませんね」

渋々と納得する二人に、扇は内心ホッとする。
待つとは言ったものの、捜しに行けるならすぐに行きたかった。

「こんな時、空がいてくれたらな……」

頭に一人の少女が浮かび、願望を無意識に呟いていた。
彼女なら海に潜り、空を駆け、大陸すら余裕で渡ってしまう。

「言っても現状は変わらない。やめておけ」

藤堂のぶっきらぼうな言葉に扇は苦笑する。
夕食を貰いに席を立った時、場違いな格好をした女が食堂に入ってきた。

あの子の名前は、確かC.C.だったよな……?
と、思いながら扇はまじまじと見てしまう。

なぜ拘束衣を着ているのか? あれは趣味なのか?と扇は不審がる。
ゼロの協力者だと言っていたけれど、彼女は戦闘にも作戦にも参加しない。
扇は眉間にしわをよせながらC.C.をジッと見る。

「話は終わったか?」
「……あ、ああ」

彼女の表情から喜怒哀楽は読み取れず、扇はどうしても気圧されてしまう。

「せっかくだから教えてやろう。
あいつは生きてるぞ」

C.C.が言う『あいつ』は一人しかいない。
藤堂は顔をしかめた。

「ゼロが?
おい、願望を聞いてるヒマは」
「確定情報だ。私には分かる」

藤堂の言葉を切り捨てる物言いに、玉城がガタッと立ち上がる。

「預言者かお前は!!」

C.C.相手に食って掛かれる玉城に扇は感心した。

「んなことよりナイトメアの練習しとけって言っただろう!
このダァホ!!」
「……ダァホ?」

ここで初めてC.C.は表情を変える。
眼差しは鋭く冷ややかで、ハッと息を吐いて嘲笑う。

「久し振りだぞ。
私に向かってそんな口のきき方をした奴は……」
「なんだ偉そうに?
ゼロの愛人だからって」
「違うと言っただろう。
ゲスな発想しか出来ん男だ」

玉城を見据える眼差しは絶対零度だ。
さすがの玉城も言葉を失い圧倒される。
興味が失せたのか、C.C.は西原のいるカウンターに歩いて行った。

「おいそこの。ここにピザはあるか?」

そして聞こえたのは無愛想な声。
そこの呼ばわりに扇は唖然とする。
なんだアイツ、とわずかな不快感が生じた。
聞いていた団員も扇と同じ顔をする。

「あー……ピザは作ったことないなぁ。
キミ、トマトソースが好きなの? それともチーズ?」
「チーズだ」
「そうかぁ。
それならグラタンでどうだ? チーズたっぷりのやつ。
焼きたてのパンもつけてやるから」
「たっぷり、か」
「そうそうたーっぷり」
「……ならそれでいい」
「あいよ。用意できたら持って行こうか?」
「ああ。頼む」

感情を見せない愛想が無いC.C.が口角を上げて笑んだ。
嬉しそうな表情に扇は目を見張る。
頼むって言えるんだ、と意外に思った。

ゼロの個室に戻るのか、C.C.は食堂を後にした。
姿が見えなくなってから玉城が「んだよアイツはよォ!」と声を荒らげる。

「作ってもらったメシくらい自分で取りに来やがれ!」
「まぁまぁ玉城。
気持ちは分かるが落ち着け」
「落ち着けるかよォこっちゃ幹部だぜ幹部!!
ゼロの野郎どうしてあんな女引き入れたんだ!?
弱味でも握られてんじゃないだろうなぁ!」
「ゼロの弱味をですか……!?
あの緑髪の女について話を伺っても?」
「うわこっち来んじゃねェ!!」

賑やかで騒がしい声を扇は意識の外に追いやって考える。
『何をきっかけにゼロとC.C.は出会ったんだろう?』と。


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