21-2
別の不安要素を抱えてしまった。
扉の前でジッと立ち、どうしようかとルルーシュは考える。
「ナナリーのそばには誰もいない……。
……今はナナリーのところに行き、咲世子さんを一度呼び戻して……」
連絡を取ろうと携帯を出せば、ダイニングがある方向からナナリーがたったひとりでこちらに向かってくるのが見えた。
「ナナリー!? どうしておまえが……!」
「その声はお兄さま!」
ナナリーは近くで止まり、ルルーシュはすぐに走り寄った。
「何かあったのか!?」
「あの、わたし空さんのところに行こうと思って……。
お兄さまがいて良かった。
空さんは部屋にいますか?」
「ああ。今は眠っているよ」
「あの……」
「どうした?」
「……お兄さま、お願いがあります。
今、空さんのそばにいてくれませんか?」
「空のそばに?」
唐突なお願いにルルーシュは疑問を抱く。
ナナリーは念を押すように深く頷いた。
「はい、そばに。
空さんをひとりにしないでほしいんです」
どうしてここまで必死に?
ルルーシュはハッと異変に気づいた。
「ナナリー。俺が席を外している間に何かあったんだな?」
「それは……」
ナナリーは唇を結び、沈黙する。
話したいけど話せないような苦しげな表情だった。
「俺には話すなと空に頼まれたのか?」
ナナリーは黙ったままだ。
それが何よりの肯定で、ルルーシュは内心で舌打ちする。
タッチパネルを押して再び部屋に入った。
靴はそのまま。
ベッドには人間ひとり分のふくらみがあり、潜り込んでいるのか頭は隠れている。
違和感を覚え、ルルーシュは早足でベッドへと進み、布団を掴んでバッとめくった。
布団の下には枕や衣服の塊だけ。
空はどこにもいない。
「あの女……ッ」
ルルーシュは怒りに低く呟いたものの、ナナリーを思い出してすぐに冷静になる。
廊下に戻ってナナリーを説得し、マオと空が電話で話していた事を聞き出した。
電話機本体を完全に外しておくべきだったと後悔する。
ルルーシュは2階の部屋で待機するC.C.にナナリーを任せ、クラブハウスを全力疾走で飛び出した。
走りながら咲世子に電話をかける。
早朝、表はお任せくださいと申し出た咲世子なら、窓から抜け出した空をすぐに確保できるはずだ。
電話をかけたものの、圏外なのか電源が切れているのか、咲世子には繋がらない。
マオはこの学園のどこかにいる。
学園内のどこかにある通話機器から、クラブハウスに電話をかけてきた。
空も学園内にいるはずだ。
「『あたしはここにいる。そばにいる。信じて』か。
なにが信じてだ……!」
苛立ちでムシャクシャしながら、ルルーシュは血を吐くように言い捨てた。
校舎内を走り、空が行きそうな場所とマオが居そうな場所を回っていく途中、大量のノートを抱えたスザクとばったり出くわした。
「ルルーシュ!!
あれ? 今日って休みじゃ……」
「……色々あってな。
スザク、空を見なかったか?」
ルルーシュから余裕の無さを感じ取った瞬間、スザクの顔つきが変わった。
「空がどうかしたの?」
「急いでるんだ。
すまない、見たか見てないかで答えてくれ」
ルルーシュの声音から、スザクは一刻を争う状況だということを察した。
真剣な表情で答える。
「いいや、空は見てない。
だけど咲世子さんがあっちの廊下を歩いて行ったのを見たかな」
「咲世子さんが?
どこの廊下を歩いていた」
「あっちだ。行こうルルーシュ」
抱えていたノートを廊下の端に置き、スザクは小走りで先頭を行く。
すぐにルルーシュも追いかけた。
「いいのか?」
「いいんだよ。
キミが余裕なくなるってことは、キミの大切な人に何かあった時だけだ。
急ごう、ルルーシュ」
「ああ!」
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