「ん…」
フッとたゆむような眠りから目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。
「起きたか……フレイヤ」
「フレイヤ…?誰……です、か?」
すぐ近くに座っていたらしい黒髪の男性。
「誰?」そう聞くと男性は、軽く目を開いたかと思うと次いで目を伏せる。
ポツリと何かを言ったようだけど、私の耳に届く前に開けた窓から吹いてきた風の音に掻き消された。
「今、何か……?」
「いや……。フレイヤ。それがお前の名だ」
「私の、名前…?」
「あぁ。俺はザンザスだ」
フレイヤ。
それが私の名前?
……わからない。
名前も、年齢も、職業も…。自分のことが何一つわからない。
「あ、の…ザンザス、さん…?ここは……?」
「ここは――」
__コンコンッ
不意に、話を遮るかのようにして部屋に響いたノック音。
いきなりのことに、内心ドキドキしてる。
『ボス〜?私よぉ、入ってもいいかしら?』
「ルッスーリアか……。入れ」
ルッスーリア?
すんなりと通したと言うことは知り合いなのは間違いないのだけど…
女性にしては少し低いように思うアルトの声。
どんな人なのかな…?
__ガチャッ
…………え?
「何の用だ」
「あの子の包帯を変えに来たのよぉ。って、あら?」
「おお、お、おと、おと…!」
「まぁ!目が覚めたのね!!良かったわぁ
ボスに連れて来られた時は血だらけでどうなることかと思ったわ」
「男の人…!」
「んまぁ!失礼しちゃうわ!私は乙女よ。お・と・め
」
「おと、め…?」
どこにそんな筋肉隆々とした乙女が……。
使い方間違ってない?
記憶はないけど多分これに間違いはないと思う。
だから...
「あの、辞書を…引き直してみませんか……?」
「ちょっとそれどういう意味!?」
「あの、えっと…やっぱり乙女とはちょっと違うんじゃないかと……」
「そんなこと言ってると手当しないわよ!?」
「それは……困ります…」
私は事実を述べただけであって非はない筈。
でも…少しストレートに言い過ぎた?
素直すぎるのもダメ、かな。
それはともかく…手当はしてもらわないと困るのだけど……。
結構痛いし。
というか何で私は怪我をしてたの…?
わからない。
わからないことだらけだよ。
1粒 : 目覚めた場所