不揃いの靴でワンツーステップ

二限の始まる十五分前に教室に入り、机に突っ伏して寝る体勢になった。この講義は出席すれば単位が貰える。単位さえ取れればいい。一限はギリギリ間に合ったものの走って来たせいか妙に目が冴えてしまい寝れなかったのだ。いい感じにぼんやりしてきたところで脇腹をつつかれ現実に引き戻された。

「おーい何で黙って帰ったんだよナマエちゃんよお。しかも電話出ねえし」
「…出たよ暴食兄弟二号」
「売れない芸人みてえに呼ぶな」

昨日私を拉致った犯人のうちの一人であるサボは二日酔い?何が?みたいな顔でしれっと隣に座っている。ちなみに一号はエースだ。ミントガムを手渡されたが断ってまた突っ伏した。

「おいおいそんなだるんだるんでいいのかよ」
「何でサボはそんな元気なわけ…」
「若さ」
「同い歳なんだけど」
「クッキー食う?ひと口サイズの」
「食う…」
「食うのかよ」

だってコンビニで百円で買えるそれ美味しいじゃん。だんだんと教室内に人が増えてきてざわついてきた。飲み込むと同時にサボの手によってぽんと口に放り込まれるクッキーを堪能しているととある事に気が付いた。

「あれ、ボニー来ないのかな。昨日最後までいたでしょ?」
「めっちゃ食ってたな。休むなら連絡来てんじゃねえの?つーか鳴ってね」
「ちょっと!何勝手にバッグ漁ってんのさ」

「もしもーし」と出てしまったサボから何とか奪い取って耳にあてた。

「はい、ミョウジでーす」
「やっと出やがったな」

ボニーとは似ても似つかぬ低い男性の声に携帯を落としそうになった。電話越しなのに不機嫌オーラばりばり伝わってきて怖い。ごくりと息を呑む。そして誰。

「あの…どちら様ですか」
「トラファルガーだ。昨日の夜ロシナンテを迎えに来ただろ」
「……あぁ昨日の。どうされたんですか?…てか何で私の番号…」
「お前が今使ってるそれはおれの携帯だ」

ハッとして通話画面からホーム画面に戻した。毎日遊んでいる猫のアプリが無い。つい先日新機種に変えたばかりのスマートフォンで壁紙やアプリなどはほぼ初期設定のままにしてあるのだが、これも同じような感じだ。電話帳をタップしてずらりと表示される名前と電話番号はまるで見覚えがなかった。

「…何で!?」
「仕事で昼は取りに行けそうにねえ。夜空いてるか」
「空いてますけど…え…?昨日そのまま帰りましたよね!?」
「悪いが今忙しくて説明してる暇はねえ。詳しい事は後でまた連絡する」
「ちょっ!……切れた」

画面には通話終了の文字と私の電話番号が表示されているので相手が私の携帯を持っているのは確かなようだ。てか今日初めて携帯触ったんだ。気付くわけないだろう。サボが今も不思議そうな顔をしながらぱくぱく食べているが私にもよく分からない。

「誰?」
「これ私の携帯じゃないんだって…」
「は?まだ酒抜けてねえのか?」

そんなに飲んだかな。普通にロシナンテ先生とトラガルファーさん?を見送ったはずだよね?…全然記憶に無い。

「美味いのは分かるけどおれの指まで一緒に食うなって」
「ごめん。つい」

ポケットティッシュでサボの親指と人差し指を拭きながら何が何でも酒は程々にしようと誓った。



  

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