鍵穴にそぐわぬ洞

二軒目を目指して夜の繁華街をゲラゲラと笑いながら闊歩する友人達の隙をついてそそくさと逃げ出し電車に飛び乗った。まだ月曜だというのに半ば拉致るように店に連れ込まれ、グラスが空くと即座に注文されるというのが何度か続いたせいでそこそこ酔いが回っていた。最寄り駅で降りてロータリーへ足を早め、ベンチに座ってバスが来るまでぼーっと待つ。明日は一限から講義があるのだ。ギシリとベンチが軋む音とアルコールの匂いが隣から漂ってきてふと顔を向けた。

「…ロシナンテ先生?…いやいや何でピースするんですか」
「ん?」
「ん?じゃないですよ。先生も飲み会だったんですか?」
「違うな…え?あれは飲み会だったのか?…え?ミョウジも合流したのか?飲むか?…酒がねえ」

どんだけ飲んだんだこの人。ロシナンテ先生は大学の養護教諭で、何度か保健室に通っているからなのか顔を覚えられている。煙草に火を付けたと思ったら「やべ、煙草どっか行っちまった」と呟いた先生はいつにも増して危なっかしい。

「…先生?ちょっと!こんな所で寝ないでくださいよ!」

もたれ掛かってきた先生の肩を揺すぶっても起きない。どうしようこのまま放置するわけにもいかない。てか寝たいのはこっちの方なのに。先生の持つスマフォの画面が通話中になっていて、男の人が何か言っている。迷ったが出る事にした。

「も…もしもし?」
「コラ………ロシナンテはどうしてる」
「今一緒にいます。あの私、先生の大学の生徒なんですが、先生寝ちゃって…」
「全部聞こえてた。場所は」
「XX駅のロータリー前にいます」
「すぐ行く。無理矢理叩き起こせ」
「無理矢理って…!」
「鼻でもつまんどけ」
「えええ……」

深い溜め息の後に電話が切れた。淡々とした人だ。どう起こすか、本当に鼻つまんじゃおうかと考えているとパッと目が覚めた先生に不意に笑ってしまった。酔うと笑いの沸点が低くなる。

「お知り合い?の方が迎えに来てくれるみたいなんでもうちょっと踏ん張ってください。これどうぞ。口付けてないので」

手渡したペットボトルの水を飲むとやっと落ち着いたみたいだった。何回かフィルターに火を付けてたけど。

「あー…すまない」
「週の初めなのに何でそんなに飲んじゃったんですか?」
「兄に呼び出されてな…まあおれの事はいいじゃねえか」
「はあ…あ、クラゲ育成アプリやってるんですね。私ねこ集めてますよ」
「やるか?おれ猫集めてみてえ」

お互いにアプリを起動させたスマフォを交換した。

「ここの…鍋を置いて…そうですそうです!」
「おっ、白猫来た!何だこれすげえ!」
「でしょでしょ!ほらこっちには三毛猫も!」
「端のこれが餌だぞーほれ、やってみろ」
「うわ意外と食事グロ!」

アルコールが入ってる分、私もテンション高いと思う。何分か熱中してると黒いセダンが目の前に止まり、運転席から黒いスーツを着た男性が降りてきた。

「ロー!」
「ガキに迷惑掛けてんじゃねえよ。…悪かったな付き合わせちまって」
「いえいえ、おやすみなさい」

助手席に先生を押し込んでセダンはあっという間にいなくなった。そのタイミングでバスが来た。何だか疲れたな。着くまで一眠りしよう。



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