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「遅くなりました。私、雪鬼と言います。」
「こちらこそ、遠い所からはるばるありがとうございます。どうぞ、そちらに。」

名前1は自分の手前の場所を示し、男を室内に入れた。男は素直に従い、示された場所に座る。そして、単刀直入に話し始めた。

「いきなりで失礼ですが、この場を設けて下さったということは、もう婚約しても宜しいでしょうか?私は雪女さんのことはお噂でよく存じております。ぜひとも、ご結婚したく思っております。」
「…………失礼ですが、私、貴方のことをよく知らないのです。よく知りもしない殿方と結婚するというのは気の引ける話です。そうよね?お父様。」
「あぁ、そうだな。」

名前1はそっと顔を隠すように着物の袖を口元に持ってくる。流す様に鯉伴を見やり、首をかしげた。

「まずは、雪鬼様の事を私に教えてくださいませ。」
「そうですね……。ここではなんですから、お庭でなんてどうでしょう?」
「まぁ!良いですね。私、このお庭大好きなんです。」

頬笑みながら名前1は言い、そっと立ち上がった。

「では、どうぞこちらに。今年は、梅がとてもよく咲いたんですよ。」
「ほう。確かに綺麗だ。」
「ふふ。雪鬼様が草木花に関心のある方で嬉しいです。」

名前1が頬を染めて雪鬼に顔を向けると雪鬼は微かに眉を動かした。名前1は視線の先に雪女がいることに気づき、その顔がとてもげんなりしているのに首をかしげた。

「どうかしましたか?」
「あぁ、いえ。少し席を外しても…?」
「はい、どうぞ。」

軽く会釈しながら名前1は雪女の元へと向かった。

「どうした?さっきから視線がちくちくと痛いんだけど。」
「だって、名前2!貴方、あの人と仲良さげに話してるじゃない!私は振って欲しいのに。」
「いやぁ、さっき庭に出た時、花とかに興味が無かったら趣味が合わないからって振ろうかと思ったんだけどさ。無理だったんだよ。」
「もー!上手くやってよ!」

名前1は軽く息を吐いて、雪女の頭を撫でる。安心させるように微笑むとまた雪鬼の元へと戻った。

「すみません、お待たせしてしまって。」
「大丈夫ですよ。それにしても、この屋敷には子妖怪が多いですね。」

雪鬼が遊んでいる三の口や納豆などを見て少し嫌そうに口をこぼした。名前1はそれに、気づかなかったかのように微笑む。

「ええ。みんな可愛い子達です。」
「可愛い……?」
「?ええ。」
「子供など自分の為の道具でしかないのに?それに子供は私の地位を脅かす存在になりかねない。」
「そう、ですか。」
「そうです!少しあの子妖怪達に場所を変えるよう言ってきます。」

歩きだそうとする雪鬼の袖を名前1は軽く引いた。それによって子妖怪達の元へと行けなかった雪鬼は胡乱げに名前1の方へと顔を向ける。

「どうかしました?」
「………この縁談、反故にしましょう。」
「ど、どうしてですか!?俺の何がいけない!」
「私は子供を蔑ろにする方とはお付き合いできません。あなただって子供の時はあったでしょう?それを守ってきたのは周りの大人です。」
「俺の、周りにはそんな大人はいなかった!」

雪鬼は名前1の言葉に外面が外れ必死の形相で名前1に詰め寄る。名前1は冷静に雪鬼を見つめ返す。そして、息を吸い込むと一際大きな声を出した。

「ならばあなたが変わりなさい!」
「俺が変わって何になる!俺は力が、地位が、名声が欲しいんだ!子供は俺から全てを奪う。なにも………残らない。」
「あなたは、一族を背負っているんでしょう?頭がそんなんでどうするんです。この先ずっと、あなたの一族が存続するために尽力するんです。そうすれば、あなたが思い描くようにあなたの名は語り継がれる。あなたの一族を変えた英雄として。」
「そんなの、分からない。」

項垂れる雪鬼は名前1にもたれかかった。名前1は雪鬼を支え、子供に接するように頭を撫でた。ゆるやかに、穏やかに。

「では、私の名にかけて誓いましょう。あなたの名は今後語り継がれ、後世に残る。」
「ふはは。なんだろうね。君にそう言われるとそうなるような気がしてきた。」

雪鬼は微かに目元を赤くし笑った。名前1も連れられるように笑う。雪鬼は結い上げている名前1の髪の一房をすくい上げキスをした。

「いつか、俺が子供を愛せる様になったらまた縁談を受けてくれるか?」
「そうですね…。あなたが私が認めるくらいの男になれたら。」
「……なんだか、心が暖かいな。」

名前1は満面の笑みを雪鬼に向かい浮かべて言う。

「そーゆーのを小さな幸せって言うんですよ。」





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