はやくその毒をください




「黒の化身、ねぇ?」

今、マグノシュタットの街では黒の化身と金属器保有者が戦っている。本当は俺も戦うべきなのだろう。この体の主は金属器保有者だったようだし。ただ、面倒臭い。この一言に尽きる。ここで俺がやらなくても勝てるだろ。可哀想な子供は。

「なまえ!来てくれ、お前の力が必要だ!」
「なまえ、来なさい。お前の力が必要だ。」

ダビデさ、ま。ダビデ様!遂に、なり変わられた!あぁ、貴方が仰るなら俺は何でも致します。

「あっは。魔装なんていつぶりだろうか。ダビデ様、今お助けいたします。」

コイツの金属器は重力を操る。この黒の化身を動かなくさせることなんて簡単だ。
魔装をすると、気が大きくなるからあまりしたくないが、ダビデ様が言うんだからやらなくては意味がない。

「あっははは!ねぇ、動けなくて苦しい?あ、そっかぁ……堕ちちゃった君はもう話せないんだったね!」

全てのことが明るく見える。もう、黒の化身なんてどうでもいい。早くダビデ様に会いたい!


プツンッ――と嫌な音が耳の奥でした。魔力切れだ。

「こんな、時、に………。」

意識がなくなる前に見たのは可哀想な子供の嫌な笑み。こちらが食べられそうになる程の嫌な笑みだった。

***

「………という夢を見たんです。シンドバッド様。この夢は何か意味があるのでしょうか?」
「いや、ただの夢だよ。」
「そう、ですか。分かりました。聞いていただきありがとうございます。」

お辞儀をしてシンドバッド様がいる部屋からでる。部屋に戻る途中外が騒がしいことに気づいた。

「なんだろ。」

窓から城下を見下ろすとそこは俺が思っていた街とガラリと変わっていた。昨日まではこんなことになっていなかったのに。
急いでシンドバッド様の所に戻ると驚いたような顔をされた。

「どうした?」
「街が、変わっているのですが……!」
「なまえが眠っている間に色々なことが合ってね。君が昨日だと思っている日は大分前のことなんだ。」

シンドバッド様の言葉にしばし固まる。私の記憶は大分前の事だというのか。シンドバッド様を見つめるとその瞳に映る自分に違和感を感じた。急いで部屋の鏡を探して自分の顔を見た。

私はこんな顔だっただろうか。
私はこれほどまで髪が長く、まつげが長い、"女性"だっただろうか。

「シン、シンドバッド様……。私はこんな人でしたか?何かが、なにかが違うんです。これは私ではない。」
「なまえ、落ち着きなさい。"それ"は、君の体だよ。大丈夫。ほら、俺に委ねて、少し寝なさい。」

シンドバッド様が私を抱きしめて背中をなでる。それがとても心地よくて眠りに落ちそうになる。けれど、急に胸に激痛が走った。

「う、ぐっ!あぐっ!」

苦しくて仰け反るように天を仰ぐ。その時シンドバッド様の顔が見えた。その顔は焦りもせずただ、冷静に私を見つめていた。

「この体もダメか。でも、今回は長くいったほうか。また探してこなければなぁ。今度は男にするか。」

痛みに苦しむ私を持ち上げ歩き出すシンドバッド様。

あぁ、目が霞む。









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