緩やかにいま堕ちてゆく




「へぇ。練家の皇子様ですか。それに、バルバットの第三王子にマギ様。」

シンドリアに新たなる食客が来た。また面倒な者達だ。しかも、俺が体を変えている間に来たと。この体で洗脳したら体が動かなくなったからって休養を取るんじゃなかった。洗脳する人数が増えると体がさらに使える期間が短くなるから嫌なのだが。しかし、仕方ない。完全なるダビデ様ではない今何を言っても可哀想な子供は自分のしたいようにやる。
それに合わせてやるのもまあ良いだろう。

「俺はここの食客としてシンドリアにいるなまえと言います。どうぞよろしくお願いしますね。」

今回取った体は優男だったから敬語だ。それに、敬語の方が心を許されやすい。心に隙が出来ると洗脳もまたやりやすい。
それに、面白い人たちだ。国を取られた王子と国を取った皇子が共にいるなんて。ああ…そこにちょっとした火種を放り込んだらどうなるのやら。
でも、マギはダメだ。この感じはソロモンとシバの子なのか?もし、そうなのだとしたら俺はコイツを殺さなければいけない。殺さないと俺の気がすまない。ダビデ様を殺した奴の子供なんて万死に値する。

「マギ様達はこれからどちらへ?」
「近くにある迷宮を攻略しにいくんだ!」
「ザガンを、ですか。失礼ですが、その、戦力は大丈夫なのでしょうか?」
「こう見えてもアリババ君はアモンを攻略した迷宮攻略者なんだよ。」
「こう見えてもはよけいだ!」

こんなひ弱な男が迷宮攻略者とは。それはそれで隙に付け入れられれば一国が手に入るか?いや、でもこの王子は国を取られたと。使えるようで使えなさそうだな。

「……それは面白いですね。アモンを持つ攻略者とザガンとは。帰ってきたらそのお話良く聞かせてくださいね。」


***

「迎えに行ってくれないか?」
「俺もですか?マスルールさんとシャルルカンさんとヤムライハさんだけでいいのでは……?」
「一応、な。頼めるか?」
「分かりました。貴方の命とあればなんなりと受けましょう。」
「悪いな。」

そんな申し訳なさそうな顔しなくていいのに。俺は別に可哀想な子供のためにやっている訳では無いのだから。ただ、体を変えなければ。あの三人に洗脳をかけたらこの体使い物になんなくなった。元々コイツの魔力が少なかったのが原因か。顔で選ぶんじゃなかった。でも、見目がいい方が可哀想な子供は夜も凄いからな。唯一シンドバットという子供になれるあの時を無くすのはあまりやりたくないものだ。魔力を選ぶか、見目を選ぶか。どちらもある人間はいないものか。
ふと、空から町中を見下ろすとちょうど良さそうな男が1人。

「いい奴見っけ。」

周りのルフも大量だし、顔もいい。というか、昔の俺の顔に似ている。自慢じゃないがアルマトランでは俺は顔はよかったのだ。
あれぐらいの魔力があれば楽に洗脳できる。男にそっと声を掛け裏路地に誘い込む。こちら側に来てしまえばもう俺の手に堕ちたも同然。
魂を吸い出して食べてしまい俺が体の中に入る。元いた俺の体は移った瞬間から灰になって跡形も残らない。

「結構若い体だし動きやすいな。…さて、やるか。」

足を地面に叩きつけると魔法陣が生まれる。それを徐々に大きくしていき街全体を覆う。もう一度足で地面を踏んだら完成だ。この魔法は1度洗脳した者なら誰であろうと何処に居ようとまた洗脳が掛けられる。大量に魔力を使うがやはりこの体はとても魔力があるらしい。大掛かりな魔法を使ってもなおまだ余力がある。

「なまえー?どこー?」
「ここにいるよ。ごめんね遅れて。行こうか。」

帽子の女が俺を探しに来たらしい。この子は、あのマグノシュタットの子。この子を体にしたらどれほどの魔力を得られるだろうか。でも、女より男の方が俺としてはやりやすい。魔力がなくとも体が動く。


***

「あー、アル・サーメンか?」
「十中八九そうでしょうね。なまえは私達の弟子頼めるかしら?」
「承った。」

楽な方にしてくれてありがとう。マグノシュタットの子よ。戦うと無駄に魔力を使うから嫌なんだよ。それに、そこまで相手も強くなさそうだしどうでもいいか。あの三人で事足りる。
ふらっと3人の前に行き立ち塞ぐように立つ。観察するように戦況を見ていたら白髪が叫んだ。

「あ、なまえ!そっち1匹行った!」

はぁ、相手3人だけじゃ無かったのか。面倒臭い。可哀想な子供もダビデ様もいないんじゃやる気が出ない。
別にこの子達助けたいわけでもないし。

「………貴方は、誰ですか。」
「ん?俺はなまえだよ。」

疑うような声音で尋ねられ後ろを振り向くとそこには赤髪の女がいた。はて?コイツは誰だ。バルバットの王子といる所からみてこいつらの仲間か?昨日あの時いなかったな。

「貴方はなまえさんなんかじゃありません!だってあの人と貴方はどう見ても違う。」

コイツは何故前の俺を知っている?まさか。有り得ない。俺の洗脳は絶対的だ。なのに何故。俺がこんな女を見落としていたとでも?信じたくないがそれが1番可能性が高い。

「何言ってるんだよモルジアナ。さっきも会ったじゃないかなまえさんだよ。」
「アリババさん!この人はさっき会った人ではありません。顔が全く違うじゃないですか!」

あぁ、やはり俺はコイツを見落としていたらしい。だから、3人に会ったと思ってかけた洗脳もコイツはかからなかった。失敗した。もっと可哀想な子供の話を聞いておけば良かった。

「っなまえさん危ない!」
「これぐらいで負ける程ヤワではないよ。アリババ君。」

後ろから襲ってきた輩を振り返る反動をつけて顔面にケリを入れてやると直ぐに気絶した。あ、勢い良すぎた。でも、こっちの方を早く片付けないといけない。

「なぁ赤髪のお嬢さん。知らないふりしていたら良かったのに、ねぇ?それ程までに無知だったのか、それ程までに正義感が強かったのか、それ程までに君は愚かだったのかなぁ?ま、いいや。君が俺の事を思い出す度に悪夢を見せてあげよう。」

女の頭に手を置いて耳元で囁くと女はガタガタと震え出す。いい顔をする。そういう顔は凄く好きだ。1回足で地面を叩く。すると女の瞳は虚ろになる。もう一度足で地面を叩くと瞳に光が宿り出す。この瞬間の人間の顔は好きだ。絶望に染まりかけるその顔が。たまらない。

「誰にも言ってはいけないよ。分かった?お嬢さん?」

コクリと首を縦に振られる。
とてもいい気分だ。このままここにいる人間共全員絶望させたいくらいには。けれど、抑えなければ。ダビデ様復活のために。



ああ………。早くお戻りください!我が神よ!

どうしようもないくらいの快楽に堕ちてゆきそうなのです。

どうか、私をお救い下さい。





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