深い闇の中で1つポツンと明かりが灯っている家があった。そこからは夕食の匂いだろうか、美味しそうな香りが漂っていた。宵はここは何処だっただろうかとあたりを見渡す。
森の中の家、まるで自分達の家の様だと感じた。そして、確信する。ここは自分の家、山吹乙女と宵が二人で過ごした家だと。
家の中からは楽しそうな声が聞こえていた。

夢だと、そう宵は思う。自身が願った叶わぬ夢。そうでなければ、この光景は有り得ない。父がいて、母がいて、宵が居る。その皆が笑顔だ。

「有り得るわけないんだ。」

さらさらと宵の長い髪を風が攫う。そこで宵は自分が妖怪の姿でいることに気がついた。だが、あの家の中にいるのは人間の姿の宵。

「自分の中にも……、俺は宵に劣等感があるのか。」

宵と夕月。二人は同一人物であり、違う者でもある。人を作るのは記憶や、環境であると言ったのは誰だったか。夕月は宵に対して微かな劣等感を抱いていた。それは、夕月では成し得ない親子のやり取り。宵は夕月は、二人とも認めて貰いたかったのだ。二人とも愛してもらいたかったのだ。あの2人の子供として。

「俺とあいつは同じなのに。面と裏のようにまるで何もかもが違う。」

夕月は子供のように蹲る。でない涙を拭うふりをして乾き笑いをする。
どうして、どうして……。そう小さく呟きながら3人が笑い合う家を見つめる。

「そんなに悲しいのなら、消してしまえばいい。」
「え?」

どこからか声がする。その声に夕月は違和感を覚えた。

「君があの子の居場所を奪えばいい。」
「お前は、誰だ……。宵の居場所を奪うなんて、そんな。」
「あの子はお前なんだろ?ならいいじゃないか。だからさ、ほら、ゆっくりでいい。じわじわとお前があの子になり変わればさ。」

夕月の視界が黒くなり、何も見えなくなる。耳元で夕月を堕とすように声が響く。

「ゆっくりとでいいんだ。ゆっくり、ゆっくり、じわじわと、ね。」



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