夏の情緒なら今この部屋にある【裏 】
「…何その格好。」
「何って…浴衣。」
「なんでパチンコ屋の姉ちゃんが浴衣なんか着てんだよ。」
いつものようにパチンコ屋のカウンターで仕事をする私に絡んできているのは、言うまでもなく半ニートの天パギャンブラー。
ただ今日は"いつも"と違うのが、一点だけ。
「うちの店長イベント好きっていうか、変人だからさ、時々こういうコスプレイベントみたいなことするの。だから今週はずっと浴衣。」
「お前さ、そういうのちゃんと報告しろよ!!」
「…なんで?」
「なんでってお前、"滅多に着ない浴衣姿銀さんに見せたいな(ハート)"とか思わねぇの!?」
「…だってこれ自前だし、着ようと思えばいつでも着れるかな、と…」
「はぁ…まぁ丁度いいや。今日なんの日か知ってる?」
「…?なんの日だっけ?」
「知らねェの?納涼祭。」
「あぁ、なんかポスターみたかも。花火上がるんだっけ?今日だったんだ。」
「今日早番だよな?」
「うん。」
「それ自前なんだろ?なら、そのまま上がれよ。迎えに来るから。」
言われなくても、着替えるの面倒だからこのまま帰るつもりだったけど、予期していなかったお誘いに、ちょっとテンションが上がった。
「じゃあ銀さんも浴衣で来てよ。」
「あ?なんでだよめんどくせェ。」
「私好きなの、男の人の浴衣姿。銀さんが着てこないなら、祭りで目移りしちゃうかもなー。」
「だからそういうのは女のセリフじゃねぇんだよアバズレが!!ふん、たかが浴衣ごときに銀さんのこの一張羅が負けてたまるかっての。」
ブツブツ文句を言いつつ、店の出口へ向かった銀さんを、緩んだ顔で見送った。
17時。
浴衣のまま店の自動ドアを潜ったら、正面のコンビニの前でアイスをかじる銀さんがいた。
「……ふふ、浴衣、似合うよ。」
「てめっ!!笑ってんじゃねえ!!」
文句を言ってた割りに、ちゃんと浴衣で来てくれるあたりが可愛くて、笑いが止まらなくなった。
まだまだ残暑の残る、夕方のジメジメした商店街を歩いて、お祭りの会場を目指す。
アイスを加える銀さんの首もとに、滴る汗が見えて、改めて思う。浴衣姿っていいなぁと。
「…今日、神楽ちゃんたちは?」
「志村姉弟とその辺にいるんじゃねえ?」
「……デートしてくるって言ったの?」
「………"今日帰らないから"って言った。」
わざとらしく舌を覗かせてアイスを舐めながら覗き込まれる。
その言葉のせいもあるけど、笑えるくらい銀さんしか目に入らなくて、銀さんの色気にしてやられてて、これっぽっちも"目移り"できないのが逆に悔しい。
「ビール2つ下さい。」
「綿飴いっこ。」
「イカゲソ下さい。」
「りんご飴、このデカいのな。」
思い思いのものを食べ、射的や型抜きをしながら縁日を進み、手頃な段差に腰をかけた。
二人でチョコバナナを食べていたら、暗くなった空に、始まりの合図の花火が上がった。
「あ、始まるね!」
「んー。」
夜空に花が咲くように、キラキラと光が散る。
遅れてドンッと響く大きな音が、お祭りの喧騒を消していくみたいだ。
ふと、隣を見てみたら銀色の髪が花火の色を映すように煌めいていて、こっちの方が綺麗かもなんて思った。
こんなこと言ったら、また"女のセリフじゃねぇ"なんて言われそうだけど。
「何見てんの。」
「悔しいな、花火にすら、目移りできなくて。」
「あ?なんつった。」
「なんでもない。」
「……歩きながら見るか、花火。」
行き先が何処なのかは、聞かなくても分かる。
"早く帰りたい"私がそう、思ってしまってるから。きっと銀さんもそうなんだろうと、分かってたけど、敢えて聞いてみた。
「花火より大事なことでもあるの?」
「花火より、祭りより、楽しいこと。」
チョコバナナを持つ手を上から包まれて、私の唇にチョコバナナが這う。
……こんな下ネタみたいなことで、興奮する方がどうかしてる。
だから、私は、どうかしてる。
ついでに、負けじとチョコバナナを舌で舐めてみた。
「バカか変態が!!もうコレ没収な!!」
「そっちがやり始めたくせに。」
「早く帰んぞ。あ、ちょっと待て。」
立ち上がった瞬間、明るい夜空から影がかかるように目の前が暗くなって、唇が濡れた。
「ついてた、チョコ。」
「…つけたんでしょ。」
いつもなら、外でそんなことしないでって怒るけど、今は…夜空に上がる花火のおかげで、誰もコッチなんて見てないか。
ーーーーーーーー
「んっ、待っ、て。お風呂、入りたい!汗だくだから。」
「バカなのお前。浴衣はなぁ、眺めるより、脱がすのが楽しいんだろ。」
「っ、」
帰宅早々に始まった行為を止める術はなくて。
部屋の手前のキッチンで、溺れるほどのキスが降ってくる。
まだクーラーもつけてない、窓も閉めきった部屋は熱気が籠っているせいで、肌はどんどん汗ばんでいく。
もうどうにでもなれ…思考が鈍っていくのは暑さのせいなのか、それともキスのせいなのか。
それとも…
「で?どう?銀さんの浴衣姿。」
「ん、だから、似合うってば。」
「目移り、できないくらい?」
「…うん、」
銀さんに手を掴まれ、キッチン台に掴まるように誘導される。
背後に来た銀さんの口元が耳の後ろに寄って、浴衣のの襟元を割るように汗ばんだ手が侵入してくる。
「じゃあ、俺と同じだな。」
ズルい。"似合う"とか"目移りできない"とか全部私に言わせておいて、自分は言葉にしないんだから。
そんな小さな苛立ちも、結局全部快楽に掻き消されるから、またズルい。
浴衣の中で胸を揉みしだかれ、指に突起を弄ばれる。
汗まみれのうなじを舌が這って、後ろから固くなったモノを擦り付けられれば、欲求に抗うこともできず腰が動いてしまう。
胸で遊んでいた指が下へと向かって、また浴衣の隙間に忍び込むように太ももに触れる。
「浴衣って、完全にエロい作りしてるよな。」
どうしょもない発想だけど、正直同感だ。
こんな都合よく隙間が開いてるんだもん。
浴衣の中でゴソゴソと動く手に、下着の上から蒸気した肌を撫でられ、足の力が抜けていく。
銀さんの左手が後ろで動いて、お腹を締め付けていた帯が緩み、ストンと床に落ちた。
少し弛んだ襟元を音を立てて吸いながら、器用に胸紐や腰ひもを外していく手つきに胸が高まってしまう。
「コッチ向いて。」
キッチン台に腰を預けるように振り向くと、浴衣姿の銀さんに舐めるように見下ろされた。
その恍惚とした表情と、汗の流れる首筋が、どうしようもなく艶目いて見えて、引き寄せるように首に手を回し、そこに吸い付いた。
「しょっぱい。」
「お互い様な。」
クーラーくらいつけたらいいのに。そう思いつつ、こんなドロドロになってまで求め合う状況が少し好きだった。
溶け合うみたいで。
深くキスをしながら下着を落とされ、片足を持ち上げるように掴まれると、もう一方の手が既に濡れた場所を優しく解していく。
腹部で高まる熱に耐えかねて、銀さんの帯に手をかける。
投げ捨てるように帯を外すと、緩んだ襟元から鍛え上げられた胸筋が現れて、そこに目線を奪われる。
窓の外でまだ鳴り響く花火の音も、綺麗な光りも、五感に届かない。
目の前の銀色に、全てを支配されてるから。
「っ、ん!」
下から響く水音に鼓膜を。
熱い舌に口内を。
骨張った指に身体の奥を。
満たされて、逃げられない。
絶頂間近になったことを、知ってか知らずか指を引き抜かれ、身体が疼いて脳までおかしくなりそうになる。
下着を脱ぎ捨てた銀さんが、私を抱えるようにキッチン台に乗せて、ドロドロになった場所に熱棒をなぞらせる。
私がこの、入りそうで入らない動作に弱いことを、この人は知ってる。
続きを求めるように汗でグショグショになった首にしがみつく。
「入れていい?」
「っ、は、やく」
許可なんて必要ないこと、分かってるクセに。
意地悪くゆっくり入ってくるソレに、神経を犯されていく。
もうどちらのものかも分からない汗が、前開きになって身体を隠す役目を失った浴衣を濡らす。
敢えて全部脱がさないのは、お互い、浴衣姿に欲情した証拠なのかもしれない。
「ここじゃ、イけねェな。」
この体制じゃ、"出す"場所に困るのか、絶頂間近まで高まっていた私を気にも止めず、挿入したまま担がれる。
「ぁ、っ!」
自分の体重がかかったせいで、最奥まで押し込まれた熱に声が漏れる。
私を軽々と担ぎ、繋がったまま部屋まで歩く。
その振動すらも刺激になって、思考はただ、更なる刺激を求めることにしか機能しなくなってしまう。
相変わらず繋がったままで、座った状態になったのをいいことに、勝手に腰を動かした。
答えるように下から突かれ、荒い息を飲まれるようにキスをされる。
「んんっ、ぁ、は、ぁ」
倒されるように寝転び銀さんを見上げると、丁度外で花火が光って、暗い部屋が一瞬だけ明るくなった。
「うん、趣あるな、この光景。」
何バカなこと言ってるんだろ。
そう思うけど、この暑さも、花火も、銀さんの浴衣姿も、夏だけのものだと思うと、これも趣と言えるような気もする。
それくらい、汗に濡れた浴衣姿の銀さんは、色っぽい。
「ぁっ、あ!」
そんな光景を眺めていられたのも一瞬で、再開された律動に、ずっと疼いていた場所が限界を迎える。
「っ、んぁっ!ぁっ、イ、クっ、ーーっ!」
私の弱点を知り尽くした動きに、ついに絶頂へと登り詰める。
私の声を掻き消すように、花火の重低音が何度も響いた。
気付けばお腹の上に放たれた銀さんの残骸をピンク色の光が照らしていた。
後処理を済ませ、浴衣を軽く羽織直して窓を開けた。
風はじめっとしていたけど、それでも汗まみれの肌を冷やすには丁度いい。
丁度最後のフィナーレだったのか、無数の花火が夜空を染め上げた。
「あーぁ、花火、終わっちゃった。ほとんど見てないのに。」
窓の側に座って外を見上げる私を、銀さんが後ろから抱き締める。
暑いのに。
「祭りはこれからだから安心しろ。」
ギュッと抱きすくめるように、また身体を奪われていく。
そのせいで、花火の後の綺麗な星空にさえ、また目移りし損ねた。
「言っとくけど、目移りなんて、100年早ェからな。」
悔しいけど…お祭りより、花火より、星空より、その銀色がキラキラして見えるんだから、他の男に目移りなんて…到底、無理な話だ。
そう思いながら、クーラーのスイッチを押した。
*コメント&お返事*
蓮様!リクエストありがとうございました!!
縁日ほぼすっ飛ばして裏に持ち込んでしまいました!orz笑
それほどお互い浴衣姿に見とれたということで…お許しください(T_T)
浴衣からの裏!とても楽しかったです←
浴衣はやはり着衣プレイに限りますよね←←
浴衣からのぞく汗だくの肉体…情緒に溢れてますね←←
すみません、黙ります。笑
最近めっきり寒くなってしまいましたが、夏の蒸し暑さを思い出しながら読んでいただければ幸いです!
素敵なリクエストありがとうございました!
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします!
byゲスやば美