20万打リクエスト | ナノ




仮装の張り切り具合で自己顕示欲明確になる



「あの、さ…」

「んぁ。」


いつものように一晩夕日の家で過ごた帰り際、玄関で呼び止められる。


「今週末ね…店でハロウィンイベントやるから、…その、」

「…なんか着んの?」

「うん…。一応、報告しとこうと思って。」


夏の浴衣イベントのとき言われたことを覚えていたのか、あまりノリ気は感じない報告を受けた。
今週末は町のどこもかしこもハロウィンイベントで、万事屋にもガキの引率やら菓子の買い出しやらイベントのゾンビ役なんかで数件依頼が入ってる。
つまりパチンコなんかしてる暇はない。


「ちなみに何着んの。」

「まだ分かんない。店長がチョイスしてくるらしいけど…。あ、日曜は遅番だからね。」

「りょーかい。」


手をヒラヒラさせながら玄関を出たが、頭ん中じゃどうやって仕事を抜け出して店に行くかの算段を必死に考えていた。



迎えた土曜日。
商店街の定食屋に朝っぱらから菓子の買い出しと、小分けの袋詰めを頼まれ、午前中が終わる。
そのあと寺子屋のクソガキどもが近所の家を回って菓子をタカるのを見守り、帰らせる頃には15時。
それから商店街を歩行者天国にしてコスプレパレードと称したナンパ祭りが始まり、イチャつくリア充どもを引き離しつつ菓子を脅し取るゾンビ役としての活動。


で、気付けば夜。

土曜は早番つってたし、もうとっくに仕事を終えた時間だろう。

つーかいつからハロウィンはこんなにデカいイベントになったんだ。
テメェら何かしらにこぎ着けて騒ぎてェだけだろ。
コスプレして非日常楽しんでんじゃねーぞコラ。
ゾンビメイクとか言ってドぎつい化粧で顔面誤魔化してんじゃねーぞコラ。
デブとブスは露出すんじゃねーよなんの得にもなんねーんだよ公然わいせつ罪で逮捕されやがれ。ホラそこのお巡りさーん養豚所から大量のメス豚が脱走してま…アレ。


「…おい。」

「あ、旦「ギャアアアアアアアア!!!!」


お巡りさんのコスプレかと思いきや、ガチのお巡りさんだった。
そしてゾンビ姿の俺を見て絶叫したのは紛れもなく夕日。


「あ、なんだ銀さんか。脅かさないでよ!」

「何やってんの。」

「こんなに賑わってるハロウィン初めて見たから気になっちゃって、歩き回ってたら見廻り中の総悟に会ったの。」

「いやどう考えても見廻り中に見えないけど。」


沖田くんは小脇に大きな袋を抱え、そこには大量の菓子が詰まってる。どっから巻き上げたんだよそれ。
夕日は夕日で片手にフランクフルト、片手に缶ビール。


「旦那は珍しく仕事してるんですねィ。」

「この仕事で半年分の糖分賄うつもりだからね。」


かくいう俺も、ビニール袋に大量の菓子を詰め込んである。


「つーかお前コスプレはどうした。」

「明日も着るから店に置いてきたよ。」

「旦那、見てないんですかィ?コイツのナース姿。」


ナース…………。


「パチンコ屋から鼻血と血へど吐きながら出てきた奴がいたんで何事かと覗いてみたらカウンターにナースがいやした。血へど吐かせるってアンタどんな手術施したんでィ。」

「だから何回も言ってるでしょ、私なにもしてないよ!」


血へど吐くほどエロいナース………。


「ちょっと銀さーん!!!神楽ちゃんどこ行っちゃったんですかー!?神楽ちゃんあの調子じゃお菓子貰えなかったら本当に傷害沙汰になりますよ!?」

「チッ、あー。銀さん明日も忙しいんだよなー。過労で死ぬかもしんねーなー。ナースに診察されないと死ぬかもしんねーなー。」


新八の方へ歩きながら、わざとらしく呟いてみた。
沖田くんの「手術してやった方がいいんじゃねェの?頭の。」という声が聞こえたけど聞かなかったことにする。



結局そのあと夕日に会うことはなく、片付けやらゴミ拾いまで付き合わされた。
帰宅後死んだように寝て、次の日も前日と同じようなスケジュールをこなす。
だが今日こそはなんとしてもナース姿を拝んでやる。


と思ってたのに!!!


「銀さーん!こっちも屋台の撤去手伝ってくれー!」

「うるせえジジイ!!そんくらい自分でやりやがれ!!!」

「売れ残りのクッキーと飴全部やるからよぉ。」

「3秒で終わらせてやらぁあああ!!!!」


アイツのパチンコ屋の閉店時間は22時。
現在21時50分。
血眼になって屋台を片付け始めたものの、終わる気配はなく、ついに仕事を放り出して走り出した。

ここまで必死になる俺ってどうなの。どうなってるの。
けどこの二日間見渡す限りメス豚だらけで眼球が保養を求めてんだよ!!!


開店中なら開くはずの自動ドアが開かず、閉店してしまったんだと悟る。

だがまだ店内は明るく、仮装した店員が掃除をしている。
その中にナース姿を見付けて、ガラスのドアをバシバシ叩いた。


「ひぇっ!!!」


ドアの向こうで夕日がビクッと肩を揺らした。
ちなみに今日の銀さんはドラキュラの仮装。
これでもビビるのかよ。

俺の必死の形相に気付いたのか、自動ドアに近付いてきた夕日が、ドアを開けてくれた。


「もしかして仕事抜け出して来たの?」

「わざわざ抜け出すわけねぇだろ、休憩中だっつー
「夕日ちゃーん。何してんのー?」

「あ、店長、すいません。サボってました。」

「正直だね。」


店の奥から現れたのはマジシャンのような仮装をした男。どうやら店長らしい。


「アレ、夕日ちゃんのお知り合い?いいねぇハロウィン楽しんでるねぇ。私こういうイベント事が大好きでねぇ。」

「店長は普段からその格好じゃないですか…」


そういやここでパチンコ打ってる時、時々変な格好のやつが彷徨いてんの見かけてたけど店長だったのかよ。


「夕日ちゃん、このあとデートならその格好のまま上がっていいよ。そのナース服あげるから。」

「えっ、」

「さすが店長!話が分かる!!これからもこの店贔屓にさせてもらいまぁす!」

「え、ちょっ、てんちょ
「じゃ、あとミーティングだけだからちょっと待っててねドラキュラさぁん!」

「了解っすー!」


自動ドアを閉めて夕日の背中を押しながら店内に消えた店長。なかなか空気の読める奴で助かった。

しばらくして店長に放り出されるように店から出てきた夕日が気まずそうに周りを見渡した。


「なんで皆コスプレなんかして平気でいられるの…!こんなの変態プレイするときにしか着ちゃダメなやつじゃん…!」

「お前の思考が一番ダメだろ。まだまだ町中賑わってるし全然目立たねぇから安心しろ。」

「神楽ちゃんたちは?」

「あ、やべ。」


仕事抜け出してきたんだった。


「まだ出店の片付けやってっかな。」


夕日に怒られながら元いた場所へ戻ってみると、丁度仕事を終えたのか、新八が報酬を受けとっていた。


「どこ行ってたアルかこの腐れ天パー!!!」

「神楽ちゃん!!可愛い!!」

「あ、夕日。」


魔女っ子スタイルの神楽を撫で回し始めた夕日のおかげで、血まみれにならずに済んだ。


「夕日、トリックオアトリート!」

「あ、ごめん私今コレしか持ってないや!」


夕日がナース服の胸ポケットから取り出したのはチーかまだった。


「糖分に飽き飽きしてたから丁度いいアル。でもやっぱりまだタカり足りないアルなー。そうだ銀ちゃん!!夕日がいればそこら辺の親父どもから金品巻き上げられるんじゃないアルか!?」

「神楽ちゃんそれもはや犯罪だよぉおお!!」

「でも私も店でお菓子配る側だったから、まだトリックオアトリートしたことないしちょっとやってみたいなー!」

「よし、いっちょ最後のタカりと行くか!行くぞお前ら!」

「「「オヤジ狩りじゃぁああああ!!!!」」」

「ハロウィンの楽しみ方間違ってるよアンタらぁあああ!!!!」


とりあえず近隣の居酒屋に乗り込み、試しに酔っ払いの親父にトリックオアトリートしてみた。

夕日のおかげで瓶ビール2本と割きイカを手に入れた。


「ハハハ、楽しいねハロウィン!ちょっと注射の真似するだけでアルコールが手に入ったよ!」


居酒屋の外でおもちゃの注射器をシュコシュコ動かしながら瓶ビールをラッパ飲みし始める。
ナースより小悪魔の方が似合ってたなコイツは。

数件飲み屋をハシゴする頃には、いい感じに酒が回ってきていた。


「さっきから酒ばっか貰ってて腹が満たされないアル!!」

「そうですよ銀さん!僕たちさっきから枝豆ばっかり食べてるんですけど!」

「しょーがねえだろガキはもう寝る時間なんだよ!!」

「そうだよーこんな時間まで子供がフラついてたらお巡りさんに捕まっちゃうんじゃないのー?」


「分かってんならさっさと帰れ。」


後ろから煙と共に現れたのはお巡りさんのコスプレをした芋侍集団。


「誰がコスプレだコラァ。」

「心の声読まないでくれる?言わなくても分かるってことは薄々自覚してるんじゃないの?やっぱそれって着ててちょっと恥ずかしいの?どうなの?」

「テメェまじでしょっぴいてや
「土方さぁあん!!トリックオアトリックー!」

「何イタズラ熱望してんだアバズレェエ!!」

「イタズラなら任せて下せェ。」


土方君に向けて差し出していた夕日の手首に手錠を掛けたのは言うまでもなくあのドS王子。


「アンタも旦那もガキの監督不行届きで逮捕でさァ。もう深夜だし、酔っ払いだし。」

「えぇええええ!!!」

「夕日を離すネドSバカ!!まだまだ夕日に食料稼いで貰わなきゃいけないネ!!」

「あ?テメェらハロウィンに託つけて変な商売してんじゃねぇだろうな?」

「商売なんかしてねェよ。ハロウィンはそういうイベントだろうが。お宅らも見廻りに託つけて実は祭り感楽しんでんじゃねえの?」

「んな訳あるか。俺たちはテメェらのようにハメ外すバカを取り締まってるだけだ。」

「へぇ、アレはハメ外してないんだ。」


そう言って指差した先では、組織の代表が裸になり、部下に臓器を描かせて人体模型化していた。


「何やってんだ近藤さんんんんん!!!!」

「今だ逃げるぞ!!」

「え!わぁあ"ああああ!!!」


手錠がかかったままの夕日を神楽が担ぎ、一目散に駆け出し、しばらく走ると万事屋が見えてきた。
ちなみに夕日の手錠は神楽がバカ力でこじ開けた。


「お前ら、まだタカってねぇ場所が一ヶ所あんぞ。」


ババアの店を指差すと神楽と新八はニヤリと笑った。
それを見て夕日も微笑む。


「「「「トリックオアトリート!!」」」」


言いながら店に飛び込んで目に入った光景に、全員思考が停止した。


「アレぱっつぁん、俺間違えて魔界への扉開いちゃったかな。」

「ギャハハハハハ!!化物の巣窟アルー!!」


魔女のとんがり帽子を被ったババアと、小悪魔のような尻尾がついたスカート姿の化け猫と、何故か某ジブリ映画のカオ●シ化したタマ。
完全に化物屋敷だ。そのお陰か町は賑わってるっつーのに客はほとんどいない。

ギャーギャー騒ぎながら喧嘩を始めた神楽と化け猫を横目にカウンターに座る。
軽く挨拶をしながら夕日も隣に座った。


「おいおいハロウィンなのにここは茶菓子のひとつも用意してねぇのか?」

「その前に出すもん出しな。」

「んだよ。」

「アンタたちここ2日のお祭り騒ぎで結構稼いだんじゃないのかい?それで溜まった家賃とツケ払えつってんのさ。」

「いやいやそれはさ…アレだよ?報酬なんてほとんど売れ残りの食料ばっかで現金は
「デスオアマネーじゃ腐れ天パァアアアア!!!」

「ギャアアアアアアアア!!!」

「アハハハハ!!」

「笑ってないで助けろ!!お前ナースだろグフェアッ!!!!」

「怪我してなきゃナースの出番なんかないんじゃぁああああ!!!」

「はい、麻酔しますねー!お口開けてくださぁい!」

「おまっ、それ注射器に何入れてんギャアアアアアアアア!!!」


この後どんちゃん騒ぎになったのは言うまでもない。



「ヒック…ちょっと銀ひゃん、みんな寝ちゃったんだけど。」

「たりめーだろ何時らと思ってんだ。」

「アンタたちも飲みすぎさね。もうよしな。」

「らに言ってんだババア。俺がこの注射器でどんだけ飲まされたと思ってんだ。お前ももっと飲むか銀しゃんの注射器ブチ込むまでは寝かさねグファッ!」

「ちょっと麻酔が足りないみたいれすねー。下ネタ言う余裕があるくらいじゃまだしゅじゅちゅできませんよー。」

「ゴクッ、言えてねーんだよしゅじゅちゅ!」

「そっちこそ言えてないよ!」

「言えてるわ!しゅじゅちゅ!ホラな!」

「アハハ!…バカみた…い」


ニヤケ面のまま、夕日はゴンッと音を立ててカウンターに突っ伏した。


「え、もしかして寝たの…!?オイ!!どんなスイッチの切れ方してんだよ!!」

「…………。」

「生憎ソファーはもう満席さね。責任もって上まで連れてってやんな。」

「ふざけんなババア!俺も酔っ払いなんだっつーの!」

「もう店も閉めたし私も寝るからよろしく頼んだよ、万事屋さん。」


なんでどいつもこいつも都合の良い時だけ万事屋扱いしやがんだ!!

と思いつつも、自分も睡魔が迫ってきていることに気付き、重い腰と重い酔っ払いを持ち上げた。

酔っ払いの体温を背中に感じながら階段を登り、足で戸を開けると、肩に乗っていた頭が少し動いた。


「ホラ起きろ、布団まで歩け!」

「んん、…ね、銀さん…」

「あ?」


首を回して肩から持ち上がった虚ろな目を覗くと、子供みたいな表情が視界いっぱいに広がった。


「トリック、オア、トリート。」


糖分か、イタズラか。
生憎俺は欲張りだから、どっちかなんかに絞る気はない。

つーか、こうやってイタズラっぽく触れてる時間が、飴玉よりも甘ったるい…なんてちょっとクサいことを、夕日に触れながらぼんやりした意識で思った。


「ねぇ、銀さん…勃たないね…?」


………飲みすぎて"銀さんの注射器"が役に立たなかったのは、また別の話ってことで…。



*コメント&お返事*

縞様リクエストありがとうございました!
「銀さんの誕生日やハロウィンなど秋らしい話」ということだったんですが、銀さんの誕生日は見事に間に合わなかったのでなんとかハロウィンに滑り込みセーフさせて頂きました!
リクエストに「似て似つらしいグダグタ」とあったのですが、本当にグダグタしているだけになってしまい…長い割に…笑
ろくにギャグもぶっ込めずただの日常感が半端ないですorz
でもハロウィンできて楽しかったです♪
あ、それからいつか本編で書こうと思ってたんですが、ヒロインの働くパチンコ屋は、本誌のマユゾン回で襲撃されたパチンコ屋のつもりです。
長谷川さんが住み込みで働いてたあの変な店長の…。笑
謎のタイミングでの設定披露すみません(笑)いつかマユゾン回書こうと思ってたんです(笑)
いつもメッセージや応援ありがとうございます!
リクエストありがとうございました(*´∀`)

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