20万打リクエスト | ナノ




アメでも鞭でも



仕事を終えて、ロッカーで携帯を開く。

"メール 1件"

メール画面を開き、差出人の名前を見ると、不覚にも胸がトクンと鳴った。

内容は至って簡潔。"次の休みいつ"それだけ。
せめてハテナくらい付けようよ。

まぁ、そんなとこも総悟らしいけど。


"明後日"


負けじとシンプルな本文で返事をしてみた。
きっと返事はないまま、明後日うちに来るんだろうな。



…と思ってたんだけど。

当日になってもなかなか総悟は来なくて、来る可能性があるのに外出するわけにもいかず家でゴロゴロと過ごし、電話をかけてみようか迷いながらも、いよいよウトウトし始めた時。


ピンポーン


「…やっぱ来た。」


眠くなった途端に現れるあたり、無意識下でもドSだなぁとちょっとおかしくなりながら玄関の戸を開けた。


「出掛けるから準備しろィ。」

「え、どこに?」

「早く。」


着流しで現れた総悟は、草履を脱ぐこともなく玄関に仁王立ちをして準備をする私を目で急かした。

どうせ家飲みかなんかだろうと思ってたから、スッピン部屋着だったけど、超特急で準備したら5分で済んだ。私すごい。


「で、どこいくの?」

「デートに決まってんだろ。」


キッパリ言い放たれた言葉に、少しの照れ臭さと少しの恐怖を感じた。
総悟の企みに嫌な予感を感じてしまうのは、もう癖みたいなものだからしょうがない。

だけど家の下に停めてある乗用車を見て、少しの嬉しさが勝ってきた。

わざわざ車まで借りて、どこ行くんだろ。
聞いても答えてくれないだろうから、行き先は聞かずに他愛もない会話をした。


「とりあえず飯食うぞ。」

「え、ここで!?」


総悟がハンドルをきって入った駐車場は、割とお高い有名なホテル。

え、何これホントにデートなパターンなの?


総悟は堂々とホテルのエントランスを歩き、ホテル内にあるレストランへ入った。
普段行くファミレスとは比べ物にならないくらい格式高い雰囲気に、無意識に背筋が伸びる。


「ねぇ総悟…なんで、ホテルなの…?」

「とっつぁんに、これ貰った。」


総悟が懐から取り出したのは、小さな2枚の紙切れ。
だけどそれはただの紙切れじゃなくて、確かに記してある"VIP御優待券"。

な、なるほど。VIPの恩恵か。ご優待されてるわけね。
総悟が自腹でこんなとこ連れてきてくれるわけないか。

順に運ばれてくる料理はどれもオシャレで美味しいし、料理に合わせて注がれるワインやシャンパンもとにかく全てが最高だった。


「お腹いっぱい!すっごい美味しかった…総悟、連れてきてくれてありがとう。」

「じゃ次行くぞ。」

「え、」


席を立った総悟は、戸惑う私を気に求めず次の目的地へと進んだ。
エレベターに乗ってたどり着いたのは、高層階。

受付らしき場所で、総悟が先ほどと同じ優待券を提示する。


「さっき電話した沖田でさァ。松平公の紹介の。」

「お伺いしております。準備ができておりますので、こちらにどうぞ。」


え、待って、なんの準備!?

お姉さんに案内されたどり着いたのは更衣室。
総悟は男性更衣室に案内されてしまって、離れ離れになり更に不安にかられる。


「こちらからお好きなものをお選び下さい。」

「え…な、なんで…水着?」

「アラ、サプライズだったんですか?素敵ですね。」

「す、素敵ですかね…?というかもう夜なのに…室内プールですか?」

「いえ、あっ…内緒にしておきますね!サプライズ好きな彼氏さんの為に。着替え終わりましたら、あちら側から出てください。」


ニコニコとそう言うお姉さんの言葉に、苦笑いしか返せない。
お姉さん…ドSのサプライズはね、安心できないんだよ…。

そう思いつつも、果てしなく自分勝手なサプライズの流れに逆らうこともできず、妥当な水着を選びロッカーを選んで着替えをした。


お姉さんが教えてくれた方向へ向かうと、キラキラした空間が目に入った。

夜空の下でオシャレにライトアップされたプール。
カラフルな光が反射して水面が煌めいている。
そのなかで、可愛い浮き輪に掴まってゆったりと浮かぶ若い女子、カップル。

なんだこのオシャレ空間…
私が知ってるプールと違う…

呆気にとられてボーッとしていたら、後ろから肩を掴まれ、総悟だと思って振り返った。


「お姉さん、一人?友達と来てんの?」


誰だ。


「俺たちとアッチで飲まない?ホラ、あそこの個室。ま、VIPルームなんだけどさ。」

「いや、大丈夫です。一人じゃないので。」

「え?もしかして彼氏?」


彼氏…では、ないのかな…まだ。
お互い時間があれば一緒にいたくて、うちに泊まることもある。
でも本当にそれだけで、肝心な言葉や行為はまだ何一つない。


「迷うくらいなら俺らにしときなよ。ぜってェそいつより金あるからさぁ。」


考え事をしていたら、隙が生まれてしまったのか、一人の男が私の肩を抱くように触れてきた。
水着しか纏っていないせいで、直に肌が触れ合って気持ち悪い。このままあの個室に引き摺り込まれたら、何をされるか分からない。
というか…これはマズイ…


「ちょっと、離して!」

「一杯だけだからさ!」

「オイ。」


メリッという音と共に、後ろから聞こえたのは間違いなく"彼"の声で。


「てめェら…人のオモチャ借りるときは、何て言うのか…母ちゃんに教えてもらわなかったのか?」

「あだだだだだだだだ!!!」


総悟に首の後ろを思いっきり掴まれた男が、私の肩を解放し悶え始める。
ホラ、…だからマズイって言ったのに…あ、言ってはないか、思っただけで。


「人から物借りる時は、こうやってやんだよ。」


そう言って総悟は、男の首根っこを掴んだまま、真っ黒いオーラを纏い言い放つ。


「お前らのVIPルームちょっと貸してくれねェ?いいよなァ?」

「どっどうぞご自由にぃぃいいいい!!!!」


一目散に逃げ出した男達を目で追っていたら、今度こそ総悟に肩を叩かれ、目が合う。
もしかして…心配されたり、"隙ありすぎ"なんて怒られたりするかな、なんて一瞬淡い期待を抱いた。


「でかした。おかげでVIPルーム手に入ったぜィ。」


悪い顔でニヤつく総悟に、タメ息くらいついてやろうかと思ったけど、周りのライトのせいなのかその瞳がやけにキラキラして見えて、頬が緩んでしまった。


とりあえずVIPルームに入ってみると、狭い空間に大きなソファーがあって、なんとも厭らしい空間としか言いようがなかった。


「よし、ヤるか。」

「え!!!?」


突然の爆弾発言に総悟の方を振り返ると、頭を押さえられ更に「目ェ瞑れ」と指示をされる。

ちょっちょっちょ!!ちょっと待ってまだ心の準備がっ!!!
……ってアレ、なんだこの締め付け。


「行くぞ、調きょ…特訓してやる。泳げねェんだろ、アンタ。」


頭に装着されたのは、ゴーグルだった。

拒否する私をもろともせず、腕を引いてプールサイドまで連れていかれる。

待ってぇえ!!ここそういうプールじゃないでしょ!!オシャレにプカプカするプールで
「ぎゃあああああぶっふぇ!!!」


はい、突き落とされたよ。


「とりあえずバタ足からな。そこ掴まれ。」

「いやいや待って総悟!!おかしいから!!すごい白い目で見られてるから見てごらん!?」

「沈められてェか?」


頭を上からゴゴゴと押され、また逆らえなくなる。

仕方なくプールサイドの縁を掴むと、総悟が水の中で私の太ももを掴み、プールの底から無理矢理足を離して水中に浮かべる。


「バタバタしてみろ。」


ここで逆らえばどうなるか学んでしまった故に、大人しく足をバタつかせてみた。


「ちげェ。膝から動かすな。バタ足は、足の付け根から動かすんでさァ。じゃなきゃ沈む。足伸ばせ、そう。で、こう。」

「は、はい。」


私の足首を掴んだ総悟が、レクチャーをしながら足を動かす。
何これ…本格的な特訓なんですけど…。
ココって絶対もっとこう…カップルだったら、イチャイチャしながら写真とったりとかそういうの楽しむ場所だよねたぶん…まずゴーグルしてる人なんて一人もいないから。すごく浮いてるんですけど…いや水中に浮いてるとかいう意味じゃなくてね!?


「よし、次は俺に掴まれ。」


そう両手を差し出されて、少しドキッとしつつ手を重ねた途端、手を水中にグイッと沈められて、その勢いのまま頭の天辺まで水の中に沈んだ。


「ぐえっゲホッ!!何すんの!!」

「これも訓練でさァ。」

「もうやだこのドS教官…」


それからもバタ足の特訓はしばらく続いた。
顔に水をかけたくない女子が多数派なせいか、どんどん周りに人気がなくなる。
醜態を晒すという点に置いて、調教と言っても過言じゃないよホントに…ドSの戯れだもん…
完全にアメと鞭だよ…アメが最高だっただけに、鞭の威力すごいよ…


「最後は息止める訓練な。30秒潜れ。」

「無理!!イケて20秒!!」

「じゃあ40秒。」


何も譲歩してない!!!?!!?

しかもゴーグル外されたんだけど!!
今が一番必要な場面でしょ!!!!


「早くしなせェ。はい、せーの。」


仕方なく息を思いっきり吸って、目をギュッと閉じ、水の中に潜る。

数秒後、水の中で鼻を押さえていた手をどかすように掴まれ、何事かと身構えたのも束の間、唇に何かが触れた。

驚きのあまり水から出た。

だ、だって今のって…絶対…


「そろそろ次行くか。」

「ま、まだ何かあるの…?」

「…調教。」


"何の?"と聞こうとしたけど、水に濡れた髪を撫でられて、言葉を詰まらせた。
そんな私の反応に、満足げに口角を上げた総悟の口元が耳に寄ってくる。


「"あんなVIPルーム"より、もっと良い部屋取ってある。」

「………。」

「ちなみにアンタ明日も休みになってるから。こういう時国家権力振りかざせるのって便利ですよねィ。」

「………。」


新たなサプライズに戸惑いが隠しきれなくなる。
年下なのに、どうしてこんなに優位に立てないんだろうか。


「で?断るなら今のうちだけど。」


ホラ、断るわけないって、分かってるのに敢えて聞くんだから、ズルい。


「次こそ…大人しく、調教される気ないけど、いい?」

「上等でさァ。」


次に待ち受けているのは、アメか鞭か…
どっちだか分からないけど、どっちにしたって嬉しいと、そう思ってしまう私は…

ドMなんでしょうか?



*コメント&お返事*

天李様!リクエストありがとうございました!!
すみません、すっかりプールの季節終わってしまい…orz
しかもせっかくお洒落なナイトプールというお題を頂いたのに、ドSな楽しみ方しかしておらず…笑
両思いでくっつく直前の設定で書いてみました!
沖田くん書くの楽しかったです♪

素敵なリクエストありがとうございました!!
是非また遊びに来て下さい♪

byゲスやば美

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