20万打リクエスト | ナノ




写真加工技術が進歩した現代じゃ見合い写真も信用ならない


休日の朝。
突然騒ぎだした携帯に、快適な睡眠を妨害される。
ブーブーとバイブレーションしている液晶画面に表示されているのは、言わずもがな、お馴染みの名前。


「もしもし…何、こんな朝から…」

「今から屯所来い。緊急事態でさァ。」

「え、どうした
「念のため着物着てこい。急げよ。」


相変わらず、こちらの言い分など何も聞いてもらえずに、これまた訳の分からない命令をされた。
もうこうなると抵抗のしようなどない。

急いで化粧をして、久しぶりに着物に袖を通す。久しぶりすぎて、帯を絞めるのに少し手こずった。


準備を終えて屯所の前まで来ると、門の向こうの玄関に腰掛けていた総悟が気だるげに歩いてきた。


「……何その格好…。」

「いいから、来い。」


総悟が着ていたのは紋入りの黒い着物。

な、何…誰か結婚でもするの?


「近藤さん、連れて来やした。」

「おぉ待ってたぞ夕日ちゃん!!急に呼び出して悪いな!!」


連れて来られた客間にいたのは、近藤さんと土方さんと終兄さん。


「今回夕日ちゃんを呼んだのは…、実は…終の見合いを阻止して欲しいからだ!!」


バン!と両手でテーブルを叩きながら大声を放った近藤さんに、土方さんも続いて口を開く。


「とっつぁんからの見合い話には…俺達も散々振り回されてきたんだ。面倒な話を持ち込まれる前に、あらゆる手を使って阻止してきた…。それが今回はついに…物言わぬ終をターゲットにしてきやがった…!!」


土方さんも握り拳をテーブルに叩きつける。


「いくらとっつぁんでも…今回ばかりは許せねぇ…!!ただでさえシャイでコミュ障の終が…結婚なんか出来るわけねぇだろ!!俺達を援助金の餌に使うのもいい加減にしやがれって話だ!!」


近藤さんと土方さんは、なんだか白熱した雰囲気だ。というか終兄さんに対して、ちょっと過保護なようも見える。


「そこで何とかして見合いを阻止してやろうって話になりやしてね。終兄さんの顔見知りで、いかにも暇そうな女なんて、アンタくらいしか思い浮かばなかったんで呼んだ次第でさァ。」


クッソーー悔しいぃい!!!なんでたまたま休みなんだよ私ぃい!!なんで休日にデートの約束ひとつもないんだよ私ぃい!!

悔しさと共に、ひとつ疑問が沸き起こってくる。


「……終兄さんは本当に、結婚したくないんですか?」


静かに座ったままの終兄さんに問いかけると、一瞬だけ交わった視線はすぐ剃らされて、躊躇いがちにスケッチブックを取り出した。

静寂の中でマジックが走る音が響き、少し俯いた終兄さんがスケッチブックをこちらに向けた。


"分かりません。"


そこに書かれた文字に、勝手に騒いでいた保護者達は一時停止する。

まぁ、…アレだよね、まだ相手もどんな人か分からなければ、恋愛がどんなものかもよく分からないからだよね?きっと。


丁度その時廊下の奥から豪快な声が聞こえてきて、慌て出した近藤さんに"とりあえずここに座って!"と指示をされた。

並び順は、奥から近藤さん・土方さん・私・終さん・総悟。
きっと向かい側にお見合い相手が来る…。


「夕日。とっつぁんは…以前近藤さんが無理矢理縁談組まれて結婚まで持ち込まれそうになった時、近藤さんに想い人がいると分かって大人しく諦めたんだ。」


隣に座っている土方さんが、小声で訴えてくる。
黒い着物似合います男前です…終さんはアレとしてとりあえず私と結婚して下さ


「なんとかして終の恋人のふりをしてくれ。終はあの調子だ…俺達も協力するが、お前の演技力が鍵だ…。」


心の声を遮った土方さんの言葉に、盛大な不安を抱きながら反対側の隣を見ると、鼻提灯を揺らしながら独特のイビキをかく終兄さんが目に入った。

ちょ、思った以上に責任重大っぽいんだけど…!!


「よぉおおおおおう!!!役者は揃ってるかぁあああああ!?!?ん?誰だその姉ちゃん。」


近藤さん達がとっつぁんと呼ぶその人が、警察庁長官であることは以前から知っていた。ニュースで見たり、総悟に話を聞いたことがあったけど、やっぱり直接会うと威圧感が半端ない。なんといっても声がデカい。

顔を強ばらせた私を庇うように、近藤さんが切り込んでくれた。


「と、とっつぁん。見合いを勝手に組むのもいい加減にしてくれ!見ての通り、終には恋人がいる!!」


そう私達の方を指され、口を開かずにはいられなくなる。


「お、お初にお目に掛かります。終にい…終さんとお付き合いしております…夕日と申します。」


総悟につられていつの間にか"終兄さん呼び"が定着してしまっていたのを慌てて隠し、松平公に向け頭を下げると、松平公は渋い顔をしながら自分の背後に隠れていた人物を前に押し出した。


「…じゃあ代わりにどうだトシィ。どうよ、可愛いだろぉ佐江子ちゃん。」


私達の前に佐江子ちゃんと呼ばれた子を座らせ、その隣に座った松平公が、佐江子ちゃんの肩をポンポンと叩いた。

………めっちゃ可愛いんだけどこの子ぉお!!!!!小柄で女の子らしい雰囲気だし、育ちの良さが滲み出ている!!!


「初めまして。佐江子と申します。突然お邪魔してしまい…すみません。父に見合いを迫られているものですから…。」


声も可愛い…!!!!
ちょっと待ってコレ…誰かこの子と結婚した方がいいよ…土方さん以外で。


「とは言え…うちの終は真選組の要だ。いつどんな目に合うかも分からねェ人間を夫にさせようなんざ、お宅の父上様は何が狙いなんだ?」

「おいトシ!!女の子に向かってそんな怖い顔しないの!!」

「そうだぞてめェはそれだからモテねぇんだよトシぃ。」

「貴方は、副長さんですね?父から話しは伺っております。ならば逆にお伺いしたいのですが…私はダメで、何故彼女なら良いんですか…?」


切な気な丸い瞳と目が合う。
小さな矛盾を突くような問いかけに、一同押し黙ってしまった。


「…わ、私は…名のある家の娘でもなければ、一緒に戦う力もない、ただの一般人です…。だけど、」


この場を乗り切る為もある。
だけどこれは、私が心から…思っていること。


「だけど大好きなんです。誰よりも、強い志があって。誰よりも、一生懸命生きてて。誰よりも、優しい…この人達が。この人達の為なら、辛い思いをしても構わない。この人達の為なら、自分の出来ることならなんでもしてあげたいって思えるんです。」


口を開いたら溢れだした言葉は、"真選組"への想いで、終さんの彼女役としては不十分だったかもしれないと気付き、フォローを求め隣に目を向けた。
すぐ隣の土方さんもその奥の近藤さんも、少し目を見開いて私を見ている。


ア、アレ…私、なんか…すごい恥ずかしいこと言っちゃったんじゃないコレ…


恥ずかしさに目を逸らして反対側に首を回してみると、総悟と終兄さんも同じように私を見ていた。


コレ絶対…好きアピールしすぎたよね…本当の恋人がいるわけでもないのに…恥ずかし過ぎる!!


「そ、そう言うことだ。ぽっと出のお前に、こんだけの覚悟があんのか?」


土方さんがフォローを入れると、目の前で切な気に眉を下げていた佐江子ちゃんは俯いてしまった。


「あぁあ、泣かした。」

「トシィイイイイ!!そんな怖い顔するからぁああああ!!!!」

「仕方ねェだろ生まれつきなんだよ!!!」

「それにしたってあの言い方はないと思いやすぜ。」

「俺もそう思う!」

「私もそう思う。」

「俺のせぃいいいい!?」

「トシィ、てめぇ死ぬ覚悟出来てんだろうな?」

「もとはと言えば無理矢理縁談持ってきたアンタのせいだろぉおおおおお!!!!」


いつもの如く始まった喧騒の中、小さな溜め息が耳に入り、全員が押し黙る。


「あーあぁ。何なのアンタ達。失礼だしうるさいし、超冷めた。」


え、誰ですかこの子?さっきまでここには可愛くておしとやかないい子が座ってたはずなんですけど。


「武装警察って言うから、結婚すれば護衛代わりになるし幹部はイケメン揃いって聞いたからお見合いしてあげようと思ったのに…野蛮すぎてお話にならないわ。」


ポカンとする一同に向けて冷たい目線を送りながらそう言ったのは間違いなく佐江子ちゃんで。
私は女の怖さというものを改めて思い知った。たぶん横に並ぶ男達も。

とっつぁんが機嫌を取りながら佐江子ちゃんを見送りに行き、部屋には何故か無言の重い空気が立ち込める。


「俺…もう何を信じて生きていけばいいのか分からない…」

「近藤さん…大丈夫だ。アンタの想い人は顔こそニコニコしたままだがちゃんと感情は全部拳に乗せてくるだろ。」

「佐江子ちゃん…可愛かったのに…」


私も釣られて落ち込んでいると、隣からキュッキュッとマジックを走らせる音が聞こえてきた。


「"結婚はやっぱりまだしたくない"」


こちらに向けられたスケッチブックにはそう書いてあった。
そして終兄さんはペラとページを捲るとまた文字を書き始めた。


「"でも、友達が 欲しい"」


スケッチブックを強く握る終兄さんは真っ赤な顔を伏せてギュッと目を瞑っていて、その友達候補が自分だと言うことに気付いた。


「私で良ければ、もちろん!友達になって下さい!さっき言ったでしょ?貴方達の為なら、なんでもしてあげたいと思う、って。」


躊躇いがちに目を開いた終兄さんと目が合って、私はこの人にこうやって思ってもらえたことが嬉しくて、ニッコリと笑った。


「なんでもしてくれるらしいですぜィ終兄さん。どうしやす?阿波踊りでもさせやすか?土方と一緒に。」

「なんで俺まで!!!!」


またギャーギャーと言い合いを始めた総悟と土方さんが庭に出て争い始めて、そこに近藤さんが止めに入って殴られる。

そんな姿を笑いながら眺めるのが大好きだから、もしかしたら私はここの嫁に向いているのかもしれない。なんて、こっそり思った。



*コメント&お返事*

深雪様リクエストありがとうございました!!遅くなって本当にごめんなさい(ToT)
真選組の誰かのお見合いで彼女役というリクエストで、最初は土方さんで書いてみたり、総悟で書こうとしたり色々考えたんですが、今回のリクエストで出番が無さそうだった終兄さんをチョイスしてみました!!
終兄さんと恋愛まで発展させるイメージがなかなかできず、とりあえずお友達から…という感じで終わってしまったんですが、いつかは恋愛まで発展させてみたいです!
素敵なリクエストありがとうございました!

[ prev |next ]