20万打リクエスト | ナノ




ムードはなくても愛はある


「なっ、どうしたんですか銀さん!びしょ濡れじゃないですか!って夕日さんも!?服濡れてますよねそれ!」


万事屋の戸を潜ると、出迎えにやってきた新八が早々に騒ぎだす。


「うわっ、袋もドロドロだし!何してたんですか!?」

「「……転んだ。」」


重なった声に少し驚きながら隣を見ると、夕日は小さく吹き出すように笑った。

"無駄な心配かけたくないから、言いたくない"
きっと同じ事を思ったんだろう。


バダバタと慌ただしくタオルを用意し風呂を沸かし始めた新八。
こういう時この眼鏡は本当に気が利く奴だなと感心する。かと言って何か手伝う訳でもなく寒い寒いと文句を言う俺に、夕日が呆れたようにタメ息を漏らした。


「夕日さん!お風呂どうぞ!風邪引いちゃいます!」

「おい新八!どう見ても銀さんの方が濡れてんだろ!銀さん風邪引いちゃう!」

「アンタは丈夫だから平気ですよ!ホラ、しばらく定春にくっついてたらどうですか?」


新八の提案に、毛で覆われた湯たんぽに目をやってみたが、迷惑そうな顔をされた。
飼い犬にすらこんな扱い受けてる俺…可哀想すぎねェ?

そんな事をしている間に夕日はしれっと風呂に向かったらしく、薄っぺらい戸の向こうからシャワーの音が微かに聞こえた。

新八は買い物袋の中身を冷蔵庫に仕舞い出し、神楽はドラマの再放送に釘付け。
誰も俺を構ってくれないのを良いことに、そろりと風呂場の方へと潜り込んだ。

雨に濡れて肌に張り付く冷たい服を脱ぎ捨て、風呂場の戸を勢いよく開けた。
イチゴ牛乳の香りの入浴剤が入って白濁した湯に浸かった夕日がビクリと肩を揺らす。

コイツの裸は散々見てるけど、実は一緒に風呂に入ったことはない。
文句でも飛んでくるかと思ったが、夕日は何も言わずに顎先まで身体を湯に沈めた。


「あーさみっ。」


頭の天辺から熱いシャワーをかぶると、冷たい雨水が身体を伝って流れていくのを肌で感じた。

小さな湯船の僅かなスペースに身体をねじ込むと、ほんのりピンクがかった湯が湯船の外に溢れて、狭い空間にイチゴ牛乳の香りが舞った。


「…狭い。」

「あっち向いてみ。」


狭いと文句を垂れた割には、素直に従った夕日が背を向けた。腹に手を回し引き寄せる。只でさえ軽い夕日の身体は、水の浮力のせいで子供のように軽く、その小さな身体は足の間にすっぽりと収まった。
細い首筋も腕も、少し叩けば簡単に壊れそうだ。

そんなコイツがあんな目に合って、恐怖を感じないわけがない。

コイツだけじゃねェ。
この手に抱えた時から守る覚悟は出来ていた筈なのに、いざコイツを失うかもしれない場面に直面したら、俺もその恐怖を痛感させられた。


「ねぇ銀さん。」


静まり返った風呂場に、夕日の声が反響する。


「戦うのって、怖い?」


記憶を掘り起こされるような問い掛けに、胸の奥の方をギュッと掴まれたような痛みを感じた。


「怖ェし、痛ェし、めんどくせェよ。」


ちゃんと答えてやったのにそれに対する返答はなく、代わりに、湯船の中で手が重なる。
表情は見えないが、何時になくシュンとしているのは明らかだ。


「……怖かったろ。」


黙ったままの夕日の髪の間から覗く火照った首筋に、目を凝らさなければ見えないほどの小さな切り傷を見つけた。
手入れの整った日本刀は、少し触れただけでも切れる。

その傷に吸い付くように後ろから唇を寄せると、動いたせいで風呂のお湯がちゃぽんと水音を立てた。

肌の一番表面の薄皮が切れた程度の傷だが、コイツの細胞の一片でも傷付けてしまった事に腹が立った。
…高杉がコイツに指一本でも触れたかと思うと、無性に腹が立った。

今すぐコイツが自分のものだと確めたくて傷を含んだ口の中で舌を動かそうとすると、それに気付いたのか夕日は逃げるように身体を反転させて俺の首に腕を回すと、火照った顔で微笑んだ。


「怖かった、けどね……高杉さんはきっと、私を殺さないよ。」

「んなことなんで分かる。」

「…勘。」

「…ギャンブラーかよ。まぁお前ギャンブル強ェからなぁ。」


得意気に笑った夕日の太股を風呂の中で撫でると、夕日は自分の頭に乗せていたタオルを開いて俺の顔に被せた。


「何コレ目隠しプレイ?」

「こんなとこで出来るわけないでしょ。」


わざとらしく俺の胸板に身体を押し付けながらタオル越しにキスを落とした夕日が、ザブンと湯船から出ると短くシャワーの音が響きそちらに目を向けてみるも、タオル越しではさすがに何も見えない。

当然のようにタオルを捲って、戸を開けようとする夕日の後ろ姿を舐めるように見ていると、振り返った夕日が誘うような目で言う。


「後で、ね。」


躾のなっていない下半身は"待て"も出来ないらしく、暖かい湯の中で勝手に元気になっていた。
この身体も、アイツがいなきゃダメらしい。高杉なんかに渡してたまるか。
なんてカッコつけた事を思いながら、秒速で一発抜いたのは秘密にしておく。


風呂から上がってソファーにドカリと腰掛けるとニヤニヤした神楽が寄ってきた。
新八と夕日は夕飯の準備をしているらしい。


「一緒に風呂入るなんて随分ラブラブアルな。」

「凍え死にそうだったからですぅ。」

「ホントは何かあったんじゃないアルか?」


眉を下げた神楽は傍らにある、真新しい傷が増えた木刀を見つめている。
…女ってのは何でこう勘が鋭いんだ。


「…心配すんな。」


オレンジ色の頭に手を乗せ、わしわしと撫でる。


「アイツの勘は当たるから。」


神楽は首を傾げたが、それ以上は何も聞いてこなかった。

暫く経ち夕飯の支度ができると、いつものように食卓を囲む。


「夕日、今日こそは泊まっていくヨロシ!」

「そうしようかなぁ、まだ雨も降ってるみたいだし。」


当たり前だろさっき"後でね"つったもんな!と心の中でガッツポーズを決めつつ、夕飯を早々に食らい日本酒に手を着け始めた。

新八と神楽は最近あったバカみてぇな出来事を夕日に話す。
夕日は、俺達の有り得ねぇ程バカげた日常に半信半疑になりながらも、ケラケラ笑って話を聞く。

この光景すらも今じゃ、俺の…俺達の日常になってる。


「それじゃ僕そろそろ帰りますね。夕日さん、風邪引かないように暖かくして寝てくださいね。」

「ありがとう新八君。」

「心配するなヨ新八ィ。きっと銀ちゃんが暖めてくれるアル。色んな意味で。」

「どういう意味ぃいいいい!?!?」


新八が帰った後は、お決まりのようにテレビ番組に文句をつけながら晩酌をする。
眠くなった、と神楽が押し入れに消えると向かいのソファには夕日一人になる。


「なぁ」

「ん?」


隣のスペースをぽんぽんと叩くと、夕日はテーブルを回って隣にストンと腰かけた。


「どうしたの?なんか今日の銀さん……彼氏みたい。」

「ちょっと待てお前。お前銀さんの事なんだと思ってんの?雨の中迎えに行ってやって、指名手配犯から守ってやって、一緒に風呂入って飯食って、これから同じ布団で暖め合うっつーのに…」

「じゃあ銀さんは…私の事なんだと思ってるの?」


ほんのり赤く染まった顔が、覗き込んでくる。


「だから…アレだろ…」

「アレ?」


具体的な答えを求めているのか、どんどん距離を詰めて来た夕日の後頭部に手を添えて鼻先が触れるくらいに近付いても、恥じらう表情ひとつ見せない処か、色っぽく唇を薄く開く辺りは、からかいがいが無くて可愛くねェ。
嫌いじゃねェけど。そういうとこ。


「アレだろ…雨が降ったら傘刺してやりたくて、身体が冷えたら暖めてやりたくて、腐れ縁の指名手配犯には渡したくねェ…そういう存在ってやつ。」

「…大事ってこと?」

「…そういうこと。」


満足げに微笑んだ唇に、磁石の様に自然と吸い寄せられる。
徐々にもっと深くの熱を追うよう、舌を絡め取ると夕日は小さく声を漏らした。


「ふぁ、っ…まっ、て、っんぅ」


目尻の涙と苦しそうな声に煽られて、逃げようとする後頭部を押さえ、もっと奥へ浸入を試みた。


「んっん、ぅっ、うぇっおえっ」


え、


「げっほ!おぶぅええええええええ」

「おいいいいいいいいいいい!!!!!」


ちょっとぉおおおおおおおおお!!!
吐いたんだけどこの子ぉおおおおおおおおお!!!


「てめっおいいいいいいいいいいい!!!!なんつうタイミングでゲロってんだよぉおお!!!!」

「ケホッ、いや、ごめん…舌突っ込まれたらなんか…込み上げてきちゃって…うっ!」

「バカバカバカトイレ行けバカぁああああああ!!!大体にして飲み過ぎなんだよお前は!!つーか今のムード返してくんない!?2話に渡ってシリアス貫いてきた俺の気持ち考えてくんない!?」

「え、うるさ…おぶふぇええええええええ!!!」

「こっち向いて吐くなぁああああああああああああ!!!!」


心の声も必死に真面目モードで頑張ってきたけどもういいよねコレ。
だって俺ゲロまみれだもん。あんだけシリアスぶっといてオチがコレってお前…。

まぁでも…こんなバカげた日常が、そこそこ気に入っちまってる。

コイツをシリアスに持ってくのは、骨が折れるぜ?高杉君。




*コメント&お返事*

下克上等野郎様!!リクエストありがとうございました!大変遅くなり申し訳ありません(ToT)

そして、「高杉が銀さんにライバル宣言して銀さん嫉妬。最後はギャグっぽくゲロオチ」というリクエストを頂いていたんですが、前半部分は似たリクエストがありましたので一つ前のお話で書かせて頂き、2話続きにして嫉妬部分とオチをこちらで書かせて頂いたんですが……なんかもう色々中途半端な出来でホントすいませんんんんんん(ToT)
頑張ってシリアス感出してみたんですが、やはり私はシリアスは得意ではないようで…笑
高杉が出てくると自動的にシリアスになるこの感じ…不思議ですね←
銀さんと高杉の関係性をうまく書けていたのか定かではないのですが…時間だけはかけて頑張って書きましたので…色々とお許しください(T_T)

高杉のリクエストで、シリアスに挑戦するいい機会を頂けました!!
感謝です!!

のろま更新ですが、これからもよろしくお願いします♪

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