#11 説教って何気に恥ずかしいこと言ってる確率高い
「箱入り娘のクセに、あーゆうのがタイプたァ意外ですねィ。」
土方がハンドルを握る車が発進し、遠ざかるファミレスを眺めながら呟いた。
「タイプ?坂田社長のことですか?」
「そう。」
助手席に座っている七星が、身体を少し捻りながら、コチラに目線を向けた。
「勘違いしないで頂きたいんですが、タイプだからでは
後ろを向いて話し出した七星の頭を、運転席から伸びた左手がガシッと掴んだ。
「お前は前向いてろ。また酔われちゃたまんねぇ。」
これまでも散々バカな隊士(俺含まない)をフォローしてきたせいか、早くも保護者面し始めた土方を横目に、七星は前を向いたまま、また口を開いた。
「タイプだからではありません。別に相手は誰でも良かったんです。だから万事屋と聞いて、業務として請け負って頂くのにちょうどいいと思った…というのもありますが…」
少し口ごもった七星に、運転席の土方がチラッと視線をやった気がした。
「私が父の娘としてセレブの集いに顔を出し始めた頃、一度パーティーで出会った御曹司に、ホテルの部屋に誘われたことがあるんです。」
それがこの話となんの関係があるのか分からなかったが、とりあえず黙ったまま話を聞いた。
「私は断りましたが…後日、父がそれを知ると…その御曹司の親の会社は一夜にして潰れました。彼らの家族がその後どこへ行ったのか、調べても分かりませんでした。」
「つまり…?」
その体験の意味が何を示すのか、なんとなくは分かったが、つい…続きを急かしてしまった。
「つまり…婚前にそのような関係を持ったことが父に知れれば、その人物もその会社も、無事では済まないということです。例えば今回、あなた方に頼んだって良かったんですよ。でも…真選組を潰すわけにはいかないでしょう?」
七星は首を少しだけコチラに向け、冷たい目でそう言った。
「だから彼に払うお金は、私を売るためのお金ではなく…彼の人生への損害賠償。私が、彼の残りの人生を買うつもりの金額だったんです。」
もし次、旦那に会ったら俺はこう言うだろう。
"アイツにだけは手ェ出すな"って。
「お前にひとつ忠告しとく。」
前を見据えたままの土方が口を開く。
低く、重く。
「アイツの魂(タマ)を本気で買いてェなら、その小切手の小さなスペースじゃゼロが収まりきらねェよ。それから…」
ちょうど赤信号で停車すると、運転席から冷たい空気が流れ込む。
これが殺気だと、気付けないほど、この女は弱くない。
「次、テメェの価値観で人の生き様に値段つけてみろ。人生終わらせんのに金なんかいらねェって…俺が教えてやる。」
遠回しの殺害予告をすると、ライターがカチッと音を立て、狭い空間が悪煙が包まれた。
冷たい殺気が煙に変わるみたいに。
「お前の身体も同じだ。この組織に属する以上、その身体は真選組のモンだ。セレブだか箱入りだか知らねェが、身が粉になるまでコキ使ってやる。他所からいくら金積まれようと、簡単に売ってもらえると思うなよ。」
「………話には聞いていましたが…とんだブラック企業ですね。」
バカにしたような言葉とは裏腹に、その声色はいつもより少し明るかった。
「…処女を売るのはやめておきます。雑誌の情報を鵜呑みにするのも。……"ドS講座"はちょっと聞いてみたかったですが。」
「やめとけ。バカが移る。」
「あの…副長は、坂田社長が好きなんですか?」
「むしろ嫌いだ。」
「そうですか…先程かなり好評価してましたし、"アイツの玉(タマ)"とかなんとか言ってたので、てっきり副長はホ
「テメェ処女のくせに下ネタに興味深々の中学生男子みてぇなこと言ってっと叩っ斬んぞ!!!」
まだコイツが来てたった2日なのに、この光景に違和感がない。
こうやっていつも土方の隣で、つまらねェ説教されたり、やかましくツッこまれてる奴を知ってる気がする。
…………俺だ。
なんでだ。この光景に少し、モヤモヤするのは。
「声でけェ。死ね土方。」
「何寝ようとしてんだお前が死ね!!」
……土方おちょくるのは俺の仕事でィ。
なんて言ったら…まるで俺が、嫉妬してるみてェじゃねえか。
その、土方の隣の席に。