似て似つ番外編 | ナノ




#42.5 守るって決めた日・続(沖田)



「…?どうしたの?上がっていいよ。」

「…塩持ってこい。」


玄関の前、夕日の部屋に上がろうと、踏み出しかけた足を引いた。
普段屯所に帰る時はこんなこと気にもしないが、なんとなくココには、このまま入る気になれなかったから。


「はい、塩。」


小さめの皿に入った塩を受け取って、肩や胸にかけた。


「背中にかけろィ。」


夕日は受け取った塩を俺にかけながら、控えめに話し出す。


「こうゆうの、ちゃんと気にするんだね。意外。」

「いや、普段はやらねェ。それに葬式の後ってわけでもねェし、こんなことしても意味ないかもしれねェ。もし怨霊連れ込んでも俺を恨むなよ。」

「ちょ、怖いこと言わないでよ!!そうゆうの苦手なんだから!!」


最後に足に塩をかけながら話していると、怯えだした夕日に多めに塩を撒かれた。


「気遣ってくれてありがとう。もう、大丈夫だよ!これでも着いてくるオバケがいたらストーカーの容疑で逮捕してやる!」

「オバケって…ガキみてェ。」


狭い空間に入ると、たちまち自分の血生臭さが鼻につく。


「風呂借りるぜィ。」

「ん。はい、着替え。それ、隊服お風呂で洗っていいよ。シャツとスカーフ漂白剤に浸ける?」

「あぁ…相当血生臭くなるだろうけど、マグロ解体したと思っとけィ。」

「わ、わかった。マグロね、うん、マグロなら大丈夫。マグロマグロマグロ…」


風呂に洗剤やら漂白剤を用意しながら、ブツブツ言う夕日の姿に、呆れてつい頬が緩む。
怖いくせに。バカみてェ。どんだけお人好しなんだ。

シャワーで身体についた血と、血まみれの隊服を流す。
風呂の床一面が真っ赤になって、やっぱり"ココ"と俺は不釣り合いなんじゃねェかと思った。


「ねぇ総悟ー!ピーマン食べれるー?」


風呂場の外から響いた声に、我に帰った。途端にシャワーが温かく感じた。最初から同じ温度なのに。


「ピーマンぐらい食えまさァ。ガキ扱いすんじゃねェ。」


なんで"ココ"は、こんなに温っけェんだろう。


風呂から出ると台所に立つ夕日が目に入り、後ろから除き込む。


「サッパリした?もうちょっとで出来るよ。」

「変なもん入れてねェだろうな。」

「入れてません。ホラ頭乾かしてきて!」


髪を乾かして居間のコタツに座っていると、次から次へと料理が運ばれて来た。


「お酒は?もう飲む?」

「とりあえず飯食う。」

「じゃ私もお風呂上がりに飲も。ハイ、食べよ!いただきます。」

「いただきまさァ。」

「召し上がれ。」

「意外と普通のもん作れんだな。」

「まぁね。」

「何これ。」

「ピーマンとナスと挽き肉の味噌炒め?って言うの?」

「ふーん。」


疑問系の料理名に不安を感じつつも口に入れてみると、想像以上の味にほぼ無意識に声が出た。


「うま。」

「わ、総悟に褒められた!!嬉しい!」


さっきは見栄張って食えるっつったが、正直ピーマンもナスも進んで食べるほど好きなわけではない。
でもこれは、好きだ。


「なんでィ。あんなチーズまみれのもん食ってるから味覚崩壊してんのかと思ったのに、普通のもん作れんじゃねェか。」

「うん、だって美味しいものにチーズかけると更に美味しくなるでしょ?ホラこの豚キムチなんかチーズかけたら最高だよ。」

「俺の分にかけたらぶっ殺す。」

「わかったわかった、ちゃんと取り分けるから!」


屯所の食堂は賑やかだ。だから誰かと食う飯が特別なわけではない。
なのに、たった二人で囲む食卓がこんなに温っけェのはなんでだ。


「ふー、お腹いっぱいになっちゃった。総悟、足りた?」

「まだ食えるけど酒飲むからもういい。」

「私シャワー浴びてくるけど先に飲んでる?」

「待っててやるから早く出てこい。」


しばらくして風呂から出てきた夕日が、テーブルの上を今度はつまみと酒で埋め尽くす。


「ハイ、乾杯。」

「ん。」


しばらく酒を煽り、ふとテレビを見ながらケラケラと笑う夕日に視線をやると、間抜けな笑顔と目が合う。


「…ココにいると、気が抜ける。」

「それ褒めてる?」


腹が満たされて、おまけにアルコールも回ってきた。そう言えば昨日あんまり寝てねェやなんてことを思い出して、後ろに敷いてあった布団にゴロンと転がる。


「もうちょっと広けりゃ、…文句ねぇのに。」

「ふふ、この狭さが落ち着くんでしょ。」

「……あったけェ。」


柔らかい布団に包まれたら、もう意識は朦朧としていて、もうここが現実なのか夢の中なのか分からない。
目の端で笑うこの女が、夕日なのか、姉上なのかも分からない。

それがどうしようもなく、心地良くて、アイマスクも無しに、目を閉じた。


もう、屯所以外に、帰る場所なんかないと思ってた。

けど、アンタが「おかえり」って、言いてェなら…たまにはココに、帰って来てやっても…いい。
なんて思ったのも、たぶんもう、夢の中だったからだ。

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